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第九話 異世界の歩み方

こんばんは。

ようやく異世界転生らしくなってくるかな?

そんなお話になります。

 コロシアム近くの洞窟、俺は傷を癒すために潜んでいた。

 部下は全員焼け死んだ。俺も無事ではない。服は燃え尽き、全身に火傷を負った。

 クソ! クソ!! クソ!!! しくじった。宰相から直々にあった指示を俺はしくじった! 遠からず宰相直属組織あたりが俺を消しにくるに違いない。まだ、流石に知られてはいないだろう。

 何なのだあの化け物は。ただの魔物ではない。指示ではある一定レベルまで上げるように言われていた。だが、そのレベルは俺達で制御下におけるように抑えられていた筈だ。

 そして、理性もなかった筈だ。何故、あそこで理性を取り戻したのだ。

 この仕事が上手くいけば、俺は階級が上がるはずだった。

 これも全て、アイツらのせいだ。アイツらが何かをしくじったのだ。言語理解のスキル以外を入れたに違いない!


「そうだ! アイツらが変なスキルを入れやがったんだ! 使えない奴らめ! 部下のくせに! クソ! クソ!!」


「そうか。ならば使えない貴様も死ぬか」


「――っ!?」


 声の方、洞窟の入り口に人の姿。

 月明かりに照らされた黒い影、銀色に反射する巨大な剣。


「そ、そんな、もう……!」


 早い! いくらなんでも早すぎる!

 彼は、一歩、また一歩と近づいてくる。


「貴様は閣下の期待を裏切った」


「た、頼む! 私にもう一度チャンスを!」


「我にその権限はない。あるのは、命令を遂行することのみ」


 そう言って、大剣を振り上げた。

 マズいマズいマズいマズいマズいマズい!

 このままでは殺される!


「し、死にたくない! 命だけは! 命だけは!」


 俺はとにかく、彼の足にしがみついた。


「こちらが提供したアレはまだ生きている」


「は?」


 馬鹿な。自爆したではないか!

 あれで死んだはず……。


「剛力のバフォグよ。貴様に何ができる」


 『剛力のバフォグ』とは俺の名前だ。俺の名前をフルネームで呼べるということは目上の存在ということ。

 感情のない冷淡な声が耳を突き刺し、身体を震え上がらせる。

だが、チャンスの糸が見えた。

 ここで生きていると言う=消せと言うことか。


「や、奴を処分するぐらいならできます!」


 自分の不始末は自分でつける。それができれば俺は助かるかもしれない。

 だが、処刑人の表情は仮面の奥で伺うことはできなかった。


「一度負けた貴様に、か」


「いえ、レベルは私の方が高いので負ける筈はないのです!」


「では、アレはまぐれだと」


「ええ、ええ! それは間違いなく!」


 でなければ、私が負けるはずはない!

 生きているなら、復讐することができる!

 生き残ることができ、あの屈辱を晴らすことができる。これほどうれしい機会はない。奴を殺せば、俺は階級を上げられるかもしれない。


「そうか……」


 彼は剣を下げる。


「では、貴様に命令を下す。これは閣下のお言葉と思え」


 そう言って、折りたたまれた一枚の絵を渡される。広げてみると、そこに描かれていたのは見知らぬ男の顔だった。


「これは……?」


「それが今の姿だ」


「は?」


 どう見ても、人間の男だ。アイツが特別たる理由がそこにあるのか?


「剛力のバフォグよ。アレを処分しろ」


「は、は!」


 命令を告げると、彼は闇夜に消えた。

 周囲から完全に消えたことを確認すると、一息つく。心臓が本当に止まるのではないかと思った。


「だが、これで……。フフフ、はーっはっはっはー!」


 不気味な高笑いが洞窟内を反響していた。



 俺から見てこの街はヨーロッパの古き街並みに近いなと思った。

 建築関係の知識はないが、テレビ等で見たことがある景色だ。

 俺は周辺を歩き回り、素早く目に焼き付けていく。

 何かの野菜を種類ごとに籠へ入れ、屋台に並べる中年男性。木の札を一緒に並べているが、何と書いてあるのかわからない。

 肉屋の肉は干してあるものが売られている。丁度買い物に来たご婦人が品定めをしていたが、取り出した貨幣は少々粗い成型のされ方に見えた。

 街をぐるりと一周したいところだが、かなり大きな街で、そんなことをしていたらアエロが目覚めてしまう。


「今回はここまでか」


 俺は元来た道を戻ることにした。



「ただいま――って、何だこれは!?」


 小屋へ戻ると、そこは地獄絵図と化したカオスな空間だった。


「アエロちゃん! 頼むから座ってくれ!」


「やー!」


 ギュエロがアエロを追いかけまわす。

 彼女が走り回れば、あらゆるものが飛び散っていく。

 それよりも。


「ギュエロさん、起きていて大丈夫なのか?」


「大丈夫かと思うか? ボーッと見ている暇があるなら手伝っておくれ!」


 俺が不在のうちに起きた事件だ。俺が何とかするしかあるまい。

 走り回るアエロの前に立つ。


「わー!」


 突っこんできた翼の少女を優しく抱き留める。


「きゃー!」


「捕まえた」


 エメラルドグリーンの長い髪を撫でながら諭す。


「ギュエロさんを困らせちゃダメだろ」


「はーい!」


 キャッキャッと笑いながら両翼を上げて飛び跳ねる。

 それを見ていたギュエロはさみしそうな顔でぼそりと呟く。


「なんでお前さんには懐くんじゃ……」


「……それは、ギュエロさんが悪いと思う」


「そうじゃな……」


 このままではあまりに可哀そうか。

 俺は両手で彼女の頬を挟み込み、目を合わせさせる。


「アエロ、ギュエロさんと仲良くできるか?」


 彼女は楽しそうにケラケラ笑いながら、元気いっぱいに返事。


「ぜーったい、やー!」


「はぅあ!?」


 老人の中で何かが割れた音がした……ような気がした。

 どうやら、道のりは長そうだ。



「不在の間、迷惑かけてすまない。朝食まで」


 テーブルを囲みながら、芋で作った餅を焼いたものを頬張る。


「飯は仕方がないとはいえ……本当に、お前さんは何処に行っておったんじゃ」


「ああ、その件だが」


 手に持った芋餅を置き、口を開く。


「実は、街を見て来た」


「な、何じゃと!?」


 彼が驚き、前かがみになる。

 横目で見たアエロは、その反応にドン引きしていた。


「な、何か?」


「街には近づいてはいかん!」


「何故?」


「何でもじゃ!」


 理由を答えようとしないギュエロ。


「俺としては、街に行きたいと思っている」


「何故じゃ」


「理由は二つ。一つは俺の記憶を思い出す調査の為。一つは食費を稼ぐ為。ギュエロさんの体調も本調子ではないのと、俺に狩猟や採集の知識がないこと。これは特に死活問題だ」


「お前さんの記憶喪失は本当だったのか」


 そうか。自分が人間でないことを隠すために記憶がないことにしていたと持っているのか。それもそうだよな。魔物だから人間社会に疎くても不思議ではない。

 でが、実際には俺はこの世界の住人ですらない。その事情をうまく説明できる自信はないうえ、そもそも余計に混乱を招きそうだ。だったら。


「本当だ。あのコロシアムに連れてこられるまでの記憶はない。そもそも人間社会を知らないのもある。その調査はしておきたい」


「人間に紛れて生きていく必要はなんだ」


「……」


 人間を捨てておいて、人間に戻ろうとする俺は何なのだ。

 指摘されて気づく己の異常性に眩暈する。

 偉大な目標を失ってから俺はどうなりたいのだろうか。


「もう! さっきからむずかしすぎてわかんない!」


 我慢の限界を迎えた少女が、小さな拳をテーブル叩きつけた。


「ああ、そうだったな」


「ご、ごめんよ」


 仲間はずれにしすぎるのは良くないな。


「とにかく。ギュエロさんはゆっくり休んでいてくれ。俺ならきっと大丈夫だ。少しは恩返しさせてくれ」


「……はぁ。わかった」


 頭を掻きながら大きなため息。納得はしてもらえていなさそうだ。アエロのおかげでごまかした感じになったのもあるか。


「じゃが、あてはあるのか?」


「……いや、ない」


 とりあえず行けば何とかなると思っていたのは内緒の話だ。



 その後、ギュエロさんから知識を詰め込まれた。

 街の中のギルドへ行けば、大体の職は斡旋してもらえる。ただし、基本的には住所を持たないような人間が雇われるのはないらしい。あっても裏稼業になってしまう。これは元居た世界とも変わらない。だが、この世界ならではの職業があった。それが冒険者というもので、その名の通り世界中を冒険する職業らしく、彼らは特定の住所を持たないそうだ。ギルド内に専用の窓口があり、そこで登録すれば、世界中のギルドで依頼を受注することができるらしい。結界外へ出ての調査、結界内でのはぐれ魔物の駆除の他に、個人間での依頼も。何でも屋としての側面も持つと言えばいいだろうか。誰でも冒険者に登録できる反面、依頼は早い者勝ちであったり、簡単な依頼は安く、高額になればなるほど命の危険は高くなっていく。

 初心者の俺がどこまでできるかはわからないが、やれるだけやってみようと思う。

 また、文字が読めない俺に、数字と『ギルド』の文字だけ教えてくれた。



 で、実際に見つけることができたわけだが。

 ギルドの建物は街中でひときわ大きく背の高い木造建築で、街の中心付近にどっしりと構えていた。内部のレイアウトはショッピングモールのフードコートによく似ている。沢山のテーブルと椅子が並び、多くの人間が集まって何かの会議をしていたり、実際に食事をしていたり、ボードに何か文字を書いてアピールしている人もいる。

 入口から見て反対側にカウンターが並び、それぞれが魔術師ギルド、冒険者ギルド、商業ギルド、工業ギルドとなっているらしい。

 俺は会話を聞きながら、なんとか冒険者ギルドらしき受付にたどり着く。

 だがそこで、己の考えの甘さを痛感する。冒険者の登録はすんなりできた。だが、深刻な問題が待っていた。


「これは?」


 とりあえず、金額が少々高いものを差す。これをこなすだけで一週間分の食費は賄えそうなものだ。


「こちらは魔物の討伐ですね。ですが、一人では受注できないのですよ」


 受付スタッフの女性が教えてくれる。

 ギルドのスタッフは皆優しい。文字が読めない冒険者は多いようで、そのサポートも行ってくれるのは非常に助かった。これもギュエロから聞いていたことの一つだ。


「そ、そうですか……」


 高額になればその分危険度が増す。危険度が増せば、一人で受注することはできなくなる。命の危険が生じる際、人数が少なければ少ないほど生存率が下がっていくということだろうか。


「ぬぅ……」


 これでは安すぎるし……。誰かがこの初心者を助けるためにパーティメンバーに入れてくれればよいが。そんな都合よく親切な人は来ないだろう――。


「なぁ、おっさん。さっきからなに悩んでんの?」


 見知らぬ若い男が肩に手を回してきた。金髪碧眼の、鼻が高い男。女請けは良さそうだが、この慣れ慣れしさは流石に心地悪い。

 肩の手を払い、後ろを見れば、彼の仲間であろう屈強そうなゴリラ顔の男、馬面の長身長髪の男がいた。

 彼らは皆、様々な武器やバックパックを背負っており、薄汚れた感じを見るに、歳の割にベテランなのかもしれない。


「クエストとやらを受けるのが初めてでな。どうしたらいいかわからなかったんだ」


 と、素直に話した。もしかしたら親切心で手伝ってくれるかもしれない。

 が、彼らは顔を見合わせると笑い始めた。


「おっさん、その歳で初めてとか! ダッサ!」


「ガハハ! そりゃ大変そうだ!」


「クク……笑うのは失礼ですよ。人には人の事情があるかもしれないのに! ……クク!」


 気分が悪い。冒険者にはここまで性格の悪い人間もいるのか。

 これなら仲間にならなくてもいいな。呼ばれても願い下げだ。


「はじめてだからって、時間使いすぎなんだよ。こっちはずっと待たされているわけ。ねぇ、わかる?」


 人差し指をこちらの胸に突き立て、下から睨むように見上げてくる。


「確かにそうだな。待たせてしまって悪かった。先に行ってくれ」


 俺はその場をどこうとした。が、肩を掴まれる。

 仲間の一人、ゴリラ顔だった。体格は俺によく似ている。


「おいおい。俺達は別にどいて欲しいってわけじゃねぇんだ」


「そうですよ。わかるでしょ?」


 ゴリラ顔と俺を挟むように馬面が立つ。

 彼らが何を求めているのかさっぱりわからない。


「すまないが、わかるように言ってくれ」


 肩を掴む手を放そうとする。が、彼は力強く握ってきた。


「ぐっ……」


 レベル差があるのだろうか。彼の指が肩に食い込み、痛みが走る。


「迷惑料だよ。迷惑料! 払ってくれないかい?」


「あの、お客様! 困ります!」


「あら? お姉さんも同罪だよ? これだけ時間かけて俺達を待たせたんだもんね?」


「そ、それは……」


 助け船を出してくれたスタッフの女性にも脅しをかける。どれだけ卑しいのだこの男達は。


「悪いが、俺は無一文だぞ」


「「「は?」」」


 三人の声がダブった。

 ああ、こいつ等は強請りの常習犯か。こういうチンピラは、元居た世界でもよく見ていた。あの街にいた奴らは見かければ粛清をしていたが、ここまで公衆の面前で堂々と行う奴らは初めてだ。だが、ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。金がないことを知ってもらってここはお引き取り願おう。


「じゃあ、わかっているよね」


「あ?」


 俺の意図は伝わらず、何なら憂さ晴らしができればそれでいいような集団か。

 金髪の言葉を合図に、ゴリラが殴りかかってきた。見え見えのパンチに、内心ガッカリする。


「はぁ……」


 顔面を狙った拳をクビの動きだけで避ける。


「何!?」


 そのまま俺の肩に乗った腕を掴み、背負い投げの要領で地面に叩きつける。

 先に手を出したのは奴らだ。だったら、構わないだろう。

 ゴリラはデカい図体を広げて伸びた。これでは邪魔ではないか。動いても止まっても迷惑な奴だ。


「てめぇ!」


 ナイフを取り出した馬面が、下段に構えて突っこんできた。先のゴリラより速さがあり、俺の死角を狙った攻撃に知能を感じる。


「だが、甘い」


 殺気丸出しの間抜けな攻撃に呆れる。


「は?」


 一歩横にズレると、予想外の動きに素っ頓狂な声が漏れる。

 そのまま丸出しの首元へ手刀を下ろすと、そのまま倒れて動かなくなった。


「お、お前……」


「まだやる気か?」


 彼も剣を抜いていたが、足が震えている。

 どうもプライドと恐怖に挟まれて動けなくなっているようだ。


「これ以上周りに迷惑かけるなら容赦しねぇぞ!」


 彼にガンを飛ばす。


「ひ、ヒィ……」


 脅しをかけ過ぎたか。腰が抜けちゃダメだな。

 ギルドの中を見渡すと、全員引いてしまっている。


「迷惑かけて申し訳ない」


 スタッフの女性に頭を下げた。


「い、いえいえいえいえ!」


 彼女はブンブンと飛んでいきそうなぐらい首を振る。そんなに振るものだから顔が真っ赤じゃないか。


「どうやら私は冒険者に向いていないらしい。丁寧な案内、非常に助かりました」


 そう言って立ち去ろうとしたときだ。


「お兄さん。人手が足りなくて困っていないかい?」


 こちらに声を掛けてきたのは、別の男三人組。

 さっきのチンピラよりも若い、まだ十代後半のパーティ。


「よければ、俺たちとパーティ組まないかい?」


 差し伸べる手には、希望の光が輝いていた。

 間違いなく、その時はそう思ったのだ。


こうしてギルド内のチンピラを懲らしめたマザランだったが、周囲はヒーローと言うより、手を出してはいけないヤバい奴認定しているようです。面構えも怖いしね。

さらに、醜態をさらした彼らのことを怯える人たちもいなくなったみたいです。

彼らは羞恥と屈辱でいろいろ大変なことになっていますが、そこから先はどうなることやら。

目覚めて無傷だったことが手加減されたと思って拍車をかけているようですが。

手加減はされていたかもしれませんが、してなくても結果は同じだったでしょう。何せ、彼らはベテランなのでレベルは高いのですから。

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