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パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー  作者: 鈴本恭一
クレインフライ飛空353便エンジン故障事故
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クレインフライ飛空353便エンジン故障事故⑨:復活


○ロック=ダイアクラブ(クレインフライ飛空353便 副操縦士(当時))の証言



 カオティックブルー号からの誘導に従い、ユーオーク機長は赤光が薄い場所を目指して降下していきました。

 機内は驚くほど静かでした。

 エンジンが止まっているので、大きな音を立てるものといえば機体後方の補助魔力装置しかないからです。

 その補助魔力装置が生み出す魔力によって、飛空ゴーレムと油圧系統が維持できていました。

 ユーオーク機長はそれらを使い、動力なしの353便を滑空させ、目標の高度を目指しました。


『高度8,500フィートです、機長』

『了解。針路は260に合わせた。外部の様子に注意しつつエンジン再始動の準備に入ってくれ』

『了解!』


 一度止まったエンジンを再び戻すためには、圧縮した高密度の風をエンジン内に送り、そこで火種を発火させて燃料を燃やす必要があります。

 空港などの地上にいるときなら、外部支援ゴーレムを、それが無ければ補助魔力装置を使ってエンジンを始動させます。

 今回のように空中で再始動する場合は、補助魔力装置だけが頼りです。幸い補助魔力装置は健在で、再始動用の発火魔法装置も充分に魔力を蓄えています。それらのチェックを終え、いつでも再始動できるよう備えました。


 あとはただ、カオティックブルー号の誘導が正しいことを祈るだけでした。


『機長、8,000フィートまでにエンジン再始動できない場合、ブジン諸島のどこかにぶつかる危険があります』

『その通りだ。再始動を試みる猶予はそれほどない。天に祈っておいてくれ………高度8,100。目標高度に到達』


 機長がそう言ったのと同時に、外の景色に変化が訪れました。

 あの妖しい赤い光達が、急激にその姿を消していったんです。

 私は息を呑みました。


『カオティックブルー、こちらクレインフライ353、赤い光が薄くなりました! ありがとうございます!』


 私は駆け付けてくれた援軍へ通信を行いました。

 …… しかし、それに対して何の応答もありませんでした。


『カオティックブルー? こちらクレインフライ353、聞こえますか?』


 やはり返信はありません。通信魔導器具の向こうは沈黙だけです。

 最悪の想像をしました。


『機長…!』

『残念だが今はどうすることも出来ない。エンジン再始動の儀式を執り行う。用意してくれ』

『りょ、了解!』


 私達はついに、エンジン再始動の儀式を行い始めました。


『発火魔法装置、チェック』

『発火魔法装置、チェック、オン』

『補助魔力装置ブリード、チェック』

『補助魔力装置ブリード、チェック、グリーン』

『エンジンモードセレクターをイグニッションに』

『エンジンモードセレクターをイグニッション』

『右エンジンマスタースイッチをランに』

『右エンジンマスタースイッチをラン』


 通常ならこれでエンジンが再始動されます。

 魔導卓でエンジン排気ガスの温度計を見守りました。30秒ほど様子を見る決まりになっています。

 しかし30秒経っても、右エンジンに変化は見られませんでした。


『駄目ですっ、始動しません!』

『了解。もう一度。発火魔法装置、チェック』

『発火魔法装置、チェック、オン』


 こうしてエンジンの再始動をさらに試みました。

 しかしエンジンは復活しません。

 そうしているうちに、機体の高度は8,000フィートを下回りました。なおも降下し続けます。

 闇夜のどこかに見えない山岳があり、ぶつかってしまう危険がありました。

 推力が戻らない限り、回避する方法はありません。


『再始動、失敗!』


 2回目も駄目でした。目の前が暗くなりました。


『もう一度、エンジンモードセレクターをイグニッションに』

『エンジンモードセレクターをイグニッション!』

『右エンジンマスタースイッチをランに』

『右エンジンマスタースイッチをラン!』


 そして3回目、高度5,500フィートのときです。



『―――――――クレインフライ353、こちらキヨタ・コントロール、応答されたし』



 突然、通信魔導器具から声が流れてきました。









○モトタカ=ウラベ(四魔協 (四大陸魔剣士協会) エデ大陸王者。魔剣士)の証言


 アナウンスはありませんでしたが、エンジンが止まったのはすぐ分かりました。

 機内の照明が一瞬だけ消え、再び点灯したときには、それまでずっと鳴っていたエンジン音がきれいに消えていたからです。

 機内は静かでした。

 みな、何が起きているのか理解しているようでした。

 ついにエンジンまで、あの赤い謎の光に侵されてしまったのだと。


『……』


 私も死を覚悟しました。

 そして魔剣を持たずに死ぬ不名誉を被ることを、ここにいない愛剣や父母や仲間たちへ詫びました。

 せめて心の中で彼らのことを想おうとしました。


『……くそ』


 けれども、思い出そうとして脳裏に浮かぶのは愛する彼らではなく、

 あの、血の流れよりも紅い、シャブラニグドゥスの双眸でした。

 童女のようにわらいながら、黄昏よりも昏い魔剣で我が奥義を斬り裂いた、あのシャブラニグドゥスが。

 最期の離別のときにすら、私を障りにきたのです。


 ……激しい怒りが込み上げました。

 この飛空艇に乗る前に心を蝕んでいた恐怖は焼き消え、憤怒が燃え盛りました。魔剣士の最期を汚された屈辱の怒りです。

 そして私のその怒りに応えるかのように、力ある音が再び機内に満ちました。



 エンジン音が、高鳴っていたのです。







○ロック=ダイアクラブ(クレインフライ飛空353便 副操縦士(当時))の証言


『クレインフライ353、こちらキヨタ・コントロール、応答されたし』


『っ!?』


 私は突然の通信に驚き、そして外の様子にやっと気付きました。

 外は完全な暗黒でした。

 あの赤い光は全く見えなかったんです。


 そして魔導卓の飛空管理ゴーレムがめまぐるしく活動を始めました。

 位置情報の修正、魔導灯台の誘導魔法の受信、魔導衛星との通信確立……

 これまで目隠しをされていたオーディシアス号型の目と耳が次々と復活していきました。


『キヨタ・コントロールッ、こちらクレインフライ353、聞こえますか!?』


 私は慌てて通信に出ました。

 向こうの管制官が息を呑んだのを感じました。


『クレインフライ353、無事なのか、良かった。探してたんだ。状況を教えてくれ』

『キヨタ・コントロール、当機は正体不明領域に入り、エンジンを全て喪失、現在再始動中! メーデーを宣言します!』

『クレインフライ353、メーデーを了解』


 そして私は通信をしながら、魔導卓のエンジン排気ガス温度計を見て、目を瞠りました。

 どんどん温度が上がっていったのです。

 そして圧縮機の回転速度も上昇し、エンジンの力強い音が聞こえてきました。


 ―――――――エンジンが復活した音です。


『機長! 右エンジン復旧しました!』

『了解。では続けて左エンジンマスタースイッチをランに』

『左エンジンマスタースイッチをラン!』


 同じように左エンジンを再始動します。

 こちらも排気ガス温度と圧縮機の回転速度が正常に上昇し、再始動に成功しました。


『両エンジン、再始動に成功!』


 やった、と思った、まさにその瞬間でした。




       "コーション・テレイン、コーション・テレイン"




 飛空艇乗りが最も聞きたくない、忌まわしい音が鳴ったのです。


 対地接近警報です。


『!?』


 私は魔導卓のナビゲーション・ディスプレイを見ました。

 魔導衛星からの支援により、現在位置が正確に分かりました。ブジン諸島のひとつ、オン島の上空でした。

 そしてあらかじめ登録された地形情報により、オン島の中央にそびえるゴジンカ山が目の前に迫っていることも、そのとき初めて知ったのです。


『山にぶつかります、機長!』

『推力最大、緊急上昇』


 機長はスロットルレバーを最大まで押し込み、復活したばかりのエンジンをフルパワーにしました。

 プラッツホイーニ製の大推力ジェットエンジンが唸りを上げ、強力に加速していくのが分かりました。が、再始動したばかりのエンジンが最大推力を出しきるには、それなりの時間が掛かります。


 ゴジンカ山は横に広い山でしたから、その時の高度では左右どちらに舵を切っても激突してしまいます。飛び越すしかありません。

 しかしエンジンの再始動で高度を使いすぎました。

 ゴジンカ山を飛び越すには7,900フィート以上が必要で、緊急上昇を始めたときは5,000フィートを下回っていました。



       "ウープ・ウープ・プルアップ"、プルアップ"



 対地接近ゴーレムが警告から、機首上げ指示に変わりました。

 このままでは激突が近いことを意味します。



       "ウープ・ウープ・プルアップ"、プルアップ"



『機首を上げ続ける。魔導高度計を注視、地面との距離を読み上げ』


 ユーオーク機長は操縦桿を目一杯引きました。速度が落ちますが、今は高度が必要でした。

 その時の機長の表情は、怖いほど落ち着いたものでした。

 今まさに死が迫っているというのに、喫茶店でコーヒーを飲んでいるような、そんな場違いささえありました。


『魔導高度計は610フィート(185メートル)!』



       "ウープ・ウープ・プルアップ"、プルアップ"



『600フィート、550フィート!』


 対地探知魔法により飛空艇と地面の距離を正確に測定する魔導高度計は、山岳の急斜面が今まさに目前にあることを示していました。


『500フィート(152メートル)!!』



       "ウープ・ウープ・プルアップ"、プルアップ"



 機体の上昇率が山の傾斜を上回らなければ、激突してしまいます。

 傷ついたオーディシアス号型は、それでも持てる力の全てを出してくれました。

 そして、


『……500フィート、510、520、高度が上がっていきます!』


 ゴジンカ山との距離がどんどん開いていきました。

 対地接近警報もそれ以上は鳴りませんでした。


『対地高度800フィートを超えました! 海抜8,000フィート! 山を越えました!』

『了解、姿勢及び推力を通常に戻す。飛空管理ゴーレムにフンド空港への最短進入経路を再計算させてくれ。緊急事態モードで』

『了解、フンド空港への最短進入経路を再計算』


 私が指示を出すまでもなく、ゴーレム群は機体の状態や現在位置、気象、滑走の情報を自動で収集していました。

 私はゴーレムに改めてフンド空港へのルートを計算させるだけで良かったんです。

 あの赤い光の群れも、今はどこにも見えません。

 窮地を脱して、やっと一息つくことが出来ました。


『キヨタ・コントロール、こちらクレインフライ353、エンジンの再始動に成功、フンド空港へ緊急着陸を要請します』

『クレインフライ353、フンド空港への緊急着陸を了解。滑走路の希望はあるか?』

『キヨタ・コントロール、滑走路34Rを希望します』

『滑走路34R、了解、空港へ連絡する』


 管制官との通信も問題なく出来るようになりました。あらゆる外部支援が復活し、正常な飛空を取り戻しました。

 後はフンド空港に降りるだけ。動翼もエンジンもゴーレム群も正常だ、きっと無事に降りられる。

 そう思っていました。


 ……その時は。





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