スリビジャヤ飛空446便墜落事故⑪:バグ
○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 スリビジャヤ飛空446便墜落事故調査支援メンバー代表)の証言
『……あとひとつだけ分からないことがある。対地接近警報は、どうして故障してたんだ?』
その疑問には、幸運が強く味方してくれました。
ジーテーン大渓谷の谷底にあった446便の残骸は、国際的な支援協力もあり、その頃にはほぼ全てを回収することに成功しました。
特に南のロムント王国から来たワイバーンドライバーたちの運送力は、非常に有用なものでした。
ワイバーンは調査室のある元小学校の校舎に建てられた、急ごしらえの厩舎を拠点としていたので、ドライバーも校舎で寝泊まりしていました。
そのワイバーンドライバー達とアグネス女史は、とても懇意になっていました。
女史はムヒュルム大陸の人間を祖に持っており、緑の瞳がワイバーンドライバー達の興味を惹いていたようです。
そんなワイバーンドライバーが、ある部品を運んでいるとき、アグネス女史を呼んだのです。
彼女はすぐに私とバハルディンも呼びました。
『ワイバーンが、回収した部品に対して唸りを上げているそうです。飛空騎手の方もこんな反応は見たことがないと』
『壊さないでくれよ』
バハルディンが心配する中、私達はそれを見ました。
校庭の片隅で、ワイバーンは何かの装置へ威嚇の姿勢を取っていたのです。
ワイバーンが敵意を剥き出しにしている姿は初めて見ました。私もバハルディンも、思わず足を止めました。まさに猛獣でした。生身の人間が近付いていいものではないと、見ただけで分かりました。
『ありがとうございます。検分はこちらで行いますので、彼を離させてください』
『ワイバーン・ノトス騎、了解。行くぞ、ノトス』
巨体を身軽にしならせ、ワイバーンが去りました。
私達はほっとして、改めてその部品を見たんです。
思わず息を呑みました。
『……対地接近ゴーレムか』
それは探し求めていたものでした。
奇跡的に、外観上は特に破損している様子はなさそうでした。
『すぐ調べよう』
元理科室を使い、対地接近ゴーレムの調査を始めました。
アグネス女史はすぐゴーレムがおかしいことに気付きました。
『外装が防護魔法を施されていません。ただの金属板です』
『なに?』
『外部からの影響および意図的な干渉を防ぐため、ゴーレムの外装には防護魔法が施されていなければなりません。しかし、このゴーレムには何も施されていません』
『……中身はどうなってる?』
慎重に、ゴーレムの中身を調べました。
アグネス女史が魔導杖をかざし、小さく呪文を唱えました。
すると複雑なゴーレム内部に、蜃気楼のように何かが浮かび上がってきました。
『………蟲か』
羽のある昆虫に見えました。10本の脚と3つの口。輪郭はおぼろげで、焦点が合わせづらい不思議な生き物でした。
『シャッガイ虫です。生き物の頭に寄生すると言われてましたが、淘汰の結果、現在ではゴーレムに寄生する種しか現存していません』
アグネス女史は夢幻のような虫を指で掴み、魔法のガラス瓶に入れました。
『この虫は物体をすり抜ける能力があるので、防護魔法を施さない限りどれだけ密閉しても内部に入られます。寄生されたゴーレムは狂い、正しい動作をしなくなります』
『これが、446便を苛んでた原因か』
バハルディンはガラス瓶の中の、指先より小さな虫を見て苦々しく零しました。
『たった一匹の虫で……』
輸送安全委員会・空運部は事故調査報告書を公表しました。
446便墜落の原因は、操縦士の操縦ミス。
しかしそれを引き起こしたのは、飛空会社の訓練不足、整備不良、多重請負による管理監督の不徹底が上げられ、またこの事故はスリビジャヤ飛空だけの問題ではないことを強調しました。
タラムマ王国内の全ての飛空艇と飛空会社、またそれに関わる会社に同様の問題がないか、徹底的に洗い直す必要があると報告しました。
……この事故調査報告書が一般に公開されると、こうした飛空会社を許していたことに、タラムマ王国の国民は激怒しました。
国内の飛空会社は本当に命を預けられる会社なのか? と皆がその証明を求めました。
タラムマ王国の飛空局もそのあまりに低い参入障壁を抜本的に見直し、飛空業界に対して厳しい規制を設けるよう要求されました。
こうした運動は政府を動かし、新たな飛空法が国王の名において制定されました。
運行業務の多重請負は大幅に制限され、操縦士の能力審査も厳格化されました。操縦士の訓練内容は必ず飛空局の審査を通らなければならず、手抜き訓練は許されません。
スリビジャヤ飛空は事故から一年後に飛空資格を凍結され、営業停止。結局再開できずそのまま破綻しました。スリビジャヤ飛空から仕事を請け負っていた多くの会社も、厳しい規制を受けて解散や統廃合が行われました。
タラムマ王国において、このスリビジャヤ飛空446便の事故の前と後では、完全に違う世界になったと言っていいでしょう。
それほどの大改革を行うことで、タラムマの人々は446便の乗員乗客98人への弔いとしたのです。
ジーテーン大渓谷には聖域を臨める場所に慰霊碑が建てられ、今でも祈りが捧げられています。
なおこの事故の調査へ献身的に協力をしたジャバーバ島へは、国王より勲章と報奨金、減税措置、各種支援金が出され、あの調査室があった旧校舎は事故記念館としてそのまま残されています。
空運部はその後、飛空艇安全委員会として独立。
運輸大臣直属の機関になり、組織規模も人員も拡大され、様々な調査を自前で出来るようになりました。
熱意ある多くの人が、空の安全のために事故調査を行っています。
その中には、コッソー社を告発した彼の姿もありました。
(完)
お読みいただきありがとうございます。
今回のエピソードは、
インドネシア・エアアジア8501便墜落事故+アダム航空574便墜落事故+マンクス2 7100便着陸失敗事故のキメラ案件となります。
原因自体はファンタジー要素がありましたが、その他はほぼ人間の度し難さであるため、幻想生物を期待された方には物足りなかったかも知れません。
ですが今回の趣旨としましては、メーデー名物「ささいな不具合が潜在的な危険要素を連鎖的に爆発させてついに起きた大事故」を書きたいがための事故でした。
そのため原因以外は、きちんとした訓練や支援があれば回避できたものとして配置しました。
(あと前回入れ損ねたバーティゴの呪いも出したかったのです)
人間の度し難さばかりだと胸焼けしますので、次のエピソードはもっと正統派な航空事故にしようと思います(正統派な航空事故とは?)
今回もたくさんのブックマーク・感想・評価ありがとうございました。
まだまだ大変な時期が続きますが、当作品を読んでいるときはそれらを忘れて過ごせたら、これ以上に嬉しいことはありません。
皆様ご健勝にお過ごし下さい。
またけっこうな時間が掛かるとは思いますが、気長に待って頂けると幸いです。
重ね重ね、お読みいただきありがとうございます。
それでは、良い一日を。




