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パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー  作者: 鈴本恭一
スリビジャヤ飛空446便墜落事故
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スリビジャヤ飛空446便墜落事故⑩:呪い


○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 スリビジャヤ飛空446便墜落事故調査支援メンバー代表)の証言


 我々は、元は視聴覚室だった部屋を利用し、大きな映写幕へ統合情報を映し出しました。


『映っている上と下が、2つの黒箱から抽出したデータだ。

 上半分が音声情報。機長、副操縦士、操縦室の3つの音声を時間軸に沿って平行させている。

 下半分が飛空情報。FDRから抽出した全ての情報を、同じ時間軸に出している。

 これで446便の音声と機械情報が全て分かる。始めよう』


 私はバハルディンに説明しながら、早速その統合情報の再生を始めました。


『途中まではなんの問題もない。離陸も上昇も』

『問題は、ここだね』


 バハルディンが教鞭で映写幕を指し示しました。


《"テレイン・テレイン"》


『対地接近警報の誤報……黒箱には、これに関する情報がない?』

『ギボネー社と黒箱のメーカーに問い合わせたが、残念だが対地接近警報に関する情報はFDRに記録していないらしい』

『なるほどね。でもやっぱり対地接近ゴーレムの故障だよ。高度も上昇率も、明らかに正常な巡航状態だ。大気高度計も対地高度計も一致してる。完全に海の上だ』

『機長達もそれは理解してた。肝心なのは、その対応だ』




《"テレイン・テレイン"》

《まただ》

《"テレイン・テレ―――"》


《スリビジャヤ446、大丈夫ですか?》

《スリビジャヤ446、問題ありません、左旋回し機首方位330》


《直したって言ってたんですけどね》

《あてになるもんか。この間だって―――》

《"ウープ・ウープ・プルアップ"》

《なんなんですかこれはっ!》

《……仕方ない》


『ここだ。この直後に、飛空管理ゴーレムが切り離される』


 ピーピーピー


『自動操縦が解除された音だ』


《エヌディー(ND)が消えました!》

《なにっ!?》


『機長には予想外の出来事だったようだ。あくまで誤報のある対地接近ゴーレムを切り離したかったのであって、飛空管理ゴーレムまで無効化したかったわけじゃない』

『………遮断器か。4番と22番の』

『なに?』

『情報提供者の話をさっきしただろ? 彼は僕に、機長は4番と22番の遮断器をいじったかも知れないって言った。プラミシアス号型の構成概要図を』


 映写幕に映し出された情報が、バハルディンの指示で別のものに変わります。

 それは事故機であるプラミシアス号型が、どのゴーレムや魔導器具をどう関連させているかの図式でした。


『4番と22番の遮断器は、ここか』


 その概要図には、遮断器のことも記載されていました。


 遮断機とは、各種装置に異常があった場合、他の装置や飛空艇本体に影響がないよう切り離すものです。また整備のため機能を無効にするときにも使われます。


 機長は対地接近ゴーレムに異常があるため、この遮断器を使って切り離そうとしたのでしょう。


『……妙じゃないか? 2系統の対地接近ゴーレムを切り離したいなら、17番と20番でいい。それで対地接近ゴーレムだけを切り離せるよ』

『確かにな。4番と22番の遮断器はいくつかのゴーレムをまとめて切り離したいときに使うものだ。飛空中に使うものじゃない』

『4番と22番がまとめて遮断するゴーレムは、対地接近ゴーレムと………』


 我々は息を呑みました。


『―――――飛空管理ゴーレムも含まれてる』


 2系統ある飛空管理ゴーレムを含めた各種ゴーレム群を、4番と22番はまとめて切り離すことが出来ました。

 黒箱の情報を見直してみると、4番と22番の遮断器に影響を受ける装置は、確かに切り離されていました。


『間違いない。4番と22番の遮断器を使ったんだ。対地接近ゴーレムだけを切り離す17番と20番じゃなくて』

『しかし、なぜ個別で切り離さなかった?』

『……知らなかったんだ。機長はプラミシアス号型は446便が初めてで、そこまで精通してない。又聞きで知ったことを鵜呑みにしたのかも』


 バハルディンは仮説を立てましたが、結局その理由は不明なままでした。


 とにかく機長は4番と22番の遮断器を使い、対地接近ゴーレムだけでなく飛空管理ゴーレムも遮断させました。


《くそ!》

《航路も現在位置も不明!》

《トラブルシューティング!》


『自動操縦は切れてるが、操縦桿は機長も副操縦士も動かしていない。誰も操縦していない状態で、446便は飛んでいた』

『そのせいで、どんどん左に傾いてる。だから左旋回を始めた』


《スリビジャヤ446、ジャーワンコントロール、右旋回し方位070、魔導灯台バラクへ向かえ》


『446便を探知魔法で監視してた管制官が、そのことに気付いて通信を入れた。そのタイミングで、バンク角の警報が鳴った』


《"バンク・アングル、バンク・アングル、バンク・アングル"》

《通信に出るな!》


『トラブルを知られたくない機長は、管制官との通信を拒否した』

『……ここからが、ひどいことになる』


《"バンク・アングル、バンク・アングル、バンク・アングル"》

《スリビジャヤ446、右旋回し方位070へ》

《傾いてます! 傾いてます!》

《分かってるっ!》


『機長は左に傾きすぎてることを知って、慌てて操縦桿を右に切っている。勢い余って右に傾かせ、右旋回が始まった』

『けどその後、すぐまた左に切ってる』

『だが、これは妙だ。左に切りすぎている。危険な角度になるまでまた左に傾かせた』


 機長はいったん右に切って機体を水平にさせたものの、何故かまた左に切って、元の危険な状態に戻してしまいました。


『で、その後は右に切ったり左に切ったりしてる。パニックだ。これは、なんだ?』

『………バーティゴです』


 バハルディンが首をかしげているとき、アグネス女史が口を開きました。

 私はその言葉に、


『っ、そうか! バーティゴか!』


 と合点がいって唸りました。

 魔術師であるアグネス女史は言いました。


『神代の折、創造神により地上で生きることを定められた生き物が、蝋で固めた鳥の羽で神々の御座す天空の宮へ赴こうとしていました。

 それを知った怒りの神ディーコクーテンは、地上の生き物に呪いを掛けました。鳥の真似事が出来ないよう、左右の傾きや上下の感覚を失わせる呪い。

 それがバーティゴです』


 アグネス女史の説明に私も頷き、バハルディンに補足しました。


『バーティゴの呪いは常に発現してるわけじゃなく、濃霧や暗闇で傾きの基準になるものが分からないときに発現する。ひとりで操縦する小型飛空艇の事故でよく見られる事象だ。

 446便は離陸の予定が大幅に狂ったせいで、夜中の海を飛ばないといけなくなった。真っ暗で周りは何も見えない。そんな中で機体が勝手に傾けば、自分の感覚では何が水平なのか分からなかっただろう』


 アグネス女史は同意し、


『アリオ機長は最初のバンク角の警報で、右に一気に操縦桿を切りました。強く右に傾く感覚が機長には生まれたでしょう。

 その強い右への傾きの感覚は、機体が水平になってもなお残りました。

 そのため姿勢指示器が水平に戻ったことを示しても、彼の感覚では「機体はいまだ右に傾き続けている、左に傾けなければ」と思ったはずです』

『これがバーティゴの厄介なところだ。計器類は水平を示しているのに、人間の感覚では傾き続けている。そのせいで正常な判断が出来なくなる』


 なるほど、とバハルディンが頷きました。


『せっかく水平にしたのに、右に傾き続けてると思った機長は、また左に切ったのか。危険な角度まで切って、警報が鳴った』



《"バンク・アングル、バンク・アングル、バンク・アングル"》

《違います! そっちじゃない!!》



『警報と指摘に機長は混乱した。右に切ったり、左に切ったり、水平になる感覚を得ようとした。だが混乱に拍車を掛けるだけだった』



《このおおおおおっ!》

《左です機長!!左左左左左左っ!!!》



『ここでようやく、エコ副操縦士が操縦桿を左に回した』

『けど機長は右を切り続けてる。相殺されてなんの効果も出せなかった。機体の横転と失速は防げない』



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ

《―――――"ストオオル、ストオオル、ストオオル"》


《ぅぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!》





『………操縦ミスで、446便は墜落した』



 やるせない思いで、そう結論を下しました。


『機長は傾きに関する感覚を喪失していた。計器類を信じることも確認することもしなかった』

『副操縦士は機体の正しい傾きを認識してたけど、操縦を代わることを機長に提案しなかった』


 副操縦士はもっと強く、「操縦を代わります」と言うべきでした。

 機長も不調にあるのだから「ユーハブ」と承認し、操縦桿から手を離すべきでした。


『バーティゴは神々からの呪いだ。ひとりでは絶対に抗えない。だから飛空艇は最低でも2人で操縦する。しかし446便は、2人でいる意味を理解していなかった』


 飛空管理ゴーレムの喪失、バーティゴ、操縦士間の連携の破綻。

 これら危機的状況への対応能力の不足が、446便を墜落させました。


 しかしこの問題の根底にあるのは、操縦士という仕事への認識の浅さです。


 スリビジャヤ飛空は、乗客の命に誰が責任を持つのかを、明確にしませんでした。

 多重請負により責任の所在は曖昧になり、訓練も整備も、内部的な監査はされません。

 利益主義と隠蔽体質はどこまでも大きくなり、逆に安全に対する意識や責任は小さくなっていきました。



 人間の命を預かっているという意識がない者は、飛空艇に関わってはいけないのです。




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