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パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー  作者: 鈴本恭一
スリビジャヤ飛空446便墜落事故
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スリビジャヤ飛空446便墜落事故⑤:ジーテーン大渓谷


○バハルディン(スリビジャヤ飛空446便墜落事故 調査主任(当時))の証言


 ジーテーン大渓谷に446便が墜落したと判明しても、すぐに現場へは行けませんでした。


 まず精霊省に聖域へ入るための許可と、聖別の儀式をしてもらう必要がありました。

 それらの儀式には一つずつ申請を出さないといけなくて、不親切なことに精霊省はそういった申請手続きのガイドラインを作ってないので、有識者に問い合わせなくちゃなりませんでした。


 そんな悠長なことしてる場合じゃない、と言ったんですが、聞き入れてはもらえませんでした。

 精霊省は王国が出来る前からこの地域の魔導を支配してた魔術組織が、建国時にそのまま省庁になったんです。タラムマ建国運動の最大の支援組織で、その経緯から国王陛下でさえ彼らのやり方に口出しすることが出来ません。


 聖域指定は、カカナでいう国立公園の概念に近いです。

 人の手を加えることなく自然のままの状態を維持する点は同じですが、国立公園が生物や精霊の研究として活用されるのに対し、精霊省の言う聖域は人の立ち入りをほぼ禁じてます。手つかずです。


 それでも聖域の中に入らなくちゃならない事態が発生した時用に、人間を清めるのが聖別です。




 聖別の対象になったのは、僕ら空運部の調査官、沿岸警備隊、協力してくれる現地部族、そして監視の司祭官です。


 結局、僕らが聖別の儀式を終えた頃には、446便の残骸を発見してから一週間が経ってました。


 儀式は王都とは別の場所で行われ、長ったらしい儀式が終わってすぐ専用の運搬船に入れられて、そのままジャバーバ島に行きました。


 聖別専用の魔導服は大きく重く、非常に動きづらかったので、それを着込んだ状態で山登りをしないといけないのは大変な作業でした。

 ただ幸い、現場まで聖域を最短距離で突っ切ったおかげで、沿岸警備隊の偵察隊が初めて現場に行ったときよりずっと早く目的地に着きました。


 そこで初めて、446便の事故の現場を、自分の目で見ることが出来ました。


『木っ端微塵か……』


 先遣隊から報告された映像は見ましたが、やっぱり直接目の当たりにしたときには及びません。

 僕は祈りの印を手で切って、気持ちを切り替えました。

 谷底まで約1,000メートル。

 尋常ではない高さです。通常ではまず降りられません。もっと降りやすい場所から谷底へ降り、墜落現場まで谷底を移動するという案も考えましたが、そういったちょうど良い場所さえひどく遠くて、ジーテーン大渓谷の峻烈さを痛感させられました。


 そこでジャバーバゲッコーに乗って崖を降りる、という当初の計画を実行しました。


 ジャバーバゲッコーは野生種がこの地域に生息しているので、聖別の対象にはならないのも幸いしました。

 ……まあ正直なところ、かなり気乗りしませんでしたけど。


 想像してみて下さい、深い谷底をずうっと見せられながら、そこへ牛歩の遅さで近付いていくんです。特別な座席のおかげで、うつ伏せになりながらゆっくり降りていく感覚でした。拷問のようでした。

 けど、今から行く場所のことを考えると、その恐怖に耐えなければなりませんでした。

 ただ、悪いことばかりでもありません。

 降りていく途中、ある発見をしました。


『……抉れてる?』


 壁面の一部に、何かがぶつかって出来たような箇所を見付けました。

 水と風の精霊によって出来た他の壁面部分とは明らかに違います。

 さらに言うと、その衝突箇所のある絶壁、つまり僕らが降りている方の崖は、対岸よりずっと高くなっていました。


『向こうから落ちてきて、この崖にぶつかった?』


 僕はその仮説を後で検証できるよう、衝突箇所らしき場所を何枚も写真に撮りました。

 そしてついに、谷底の、かつて446便だったものが散乱する場所に降り立ったんです。








 100人近くが亡くなった場所に行くのは、生まれて初めてのことでした。


 あたり一面に、飛空艇の部品が散らばってました。

 着陸ギアやエンジンといった大きなものから、座席、手荷物収納用パネル、ギャレー用備品、他にも一目じゃ何の部品だか分からない細々としたものまで。


 そういったものの中に、遺体がありました。


 原形を留めているものや、いないもの、様々でしたが、全体的に言えば、状態はよくありません。なにせ、失踪して約10日が経ってましたから。

 その光景は、自分に使命感がなければ気を失っていたかもしれません。

 実際に遺体を回収した沿岸警備隊の隊員は、僕よりずっとつらかったでしょう。

 僕は自分に出来ることをしなければと頭を振って、現場の記録と検証を始めました。


『エンジンはある、垂直尾翼、水平尾翼も見付けた。部品はまとまってここに落ちてる……空中で分解したわけじゃなさそうだ』


 現場で出来るだけ写真を撮り、墜落時の状況を推測する材料を増やしました。

 しかし446便の残骸はバラバラだったので、すぐには墜落原因が判明しませんでした。


『火災の痕跡もなし。焼かれて墜落したようには見えない………やっぱり黒箱に頼るしかないかな、無事だといいけど』


 黒箱は、飛空艇の飛空情報や操縦室の音声を記録した装置です。

 飛空艇が事故に遭った際、その原因を解明するため、機体の情報を常に記録してます。

 そのため事故を生き延びるよう頑丈に出来てるんですが、どれでも限度があります。


 僕は機体後部と思しき場所、尾翼のあるあたりに行き、黒箱を探しました。

 沿岸警備隊の隊員も手伝ってくれました。この事故では本当に彼らに助けられました。


『……あった』


 そうして、ついにオレンジ色の箱を2つ見付けました。

 飛空情報の入ったエフディーアール(FDR)と、音声記録のシーブイアール(CVR)です。


『カカナのところに送ろう』


 こうして調査が必要な重要部品をジャバーバゲッコーに乗せ、今度は崖を登って運ばせました。ジャバーバゲッコーは交代で何度も往復しましたが、この事故調査で一度も滑落を起こしませんでした。すごい生き物です。


 そんなジャバーバゲッコーでも運べない大きな部品は、精霊省の聖域活動用ゴーレムに運ばせます。特別仕様なので聖域の中で動くことが許されてます。力も相当強いです。

 けど運び方は抱えて谷底をゆっくり移動するだけですから、聖域外に運び出すだけでも非常に時間が掛かりました。

 そこで1台のゴーレムに回収ルートを全て往復させるのではなく、複数台のゴーレムで回収ルートを区切り、バケツリレー方式にして部品を運ばせました。


 これらの回収作業には何日もかかってしまいました。

 聖別された人間と聖別されてない人間の接触は禁止されてるので、様々な制約がありました。現場から何かを運ぶためのリソースは限られた上、それらは遺体の回収と確認が優先されました。黒箱だけはなんとか最優先のひとつにさせましたが、それが限度でした。



 この回収効率の問題は後日、国際的な協力支援者たちが来てやっと解決しました。

 特にロムント王国から来たボランティアの飛空騎手とワイバーンは、見違えるほど状況を良くしてくれました。

 ネットとワイヤーを仕掛けた回収部品を、ワイバーンが空中に引っ張り上げ、あっという間に聖域の外に運んでしまうのです。大型の部品でも数騎がかりで協力して運び、その運搬速度に反して積み荷の扱いも丁寧。速さと正確さを高く両立させてました。流石はロムントのワイバーンでしたよ。



 ……ただ彼らが来るまでは、自分たちで何とかしなければなりませんでした。

 そのときは回収だけで全ての時間を費やしてる日々でしたね。


 そんな中、カカナからの援軍がやってきました。



 飛空艇事故調査委員会が到着したんです。





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