リタリーニャ空港地上衝突事故⑩:最終報告
○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 飛空艇事故調査委員会 ロムント王国におけるリタリーニャ空港地上衝突事故調査支援メンバー代表)の証言
誤った重量計算で離陸した2004便は、重心が後ろに大きくずれ、異常な機首上げをしていたことがダークスターの検証で判明しました。
ダークスターは以下のように報告してきました。
『もしエンジンが2つとも生きていれば立て直せたが、1つでは対処できなかった。
また重量が正規の範囲内なら、もっと早く離陸して衝突を回避できた。
飛空艇側が衝突したのは、この重量誤りのせいだ』
―――その後クドラク飛空には厳しい査察調査が入り、その結果、経営難に陥っていることが判明しました。
内部の実態はひどいものでした。
解雇は頻発し、賃金は低くなり、それでいて労働時間は規程を大幅に超えていました。
定時運航率が低下すると、それを口実に罰金や解雇を行うのが日常的でした。
『機長があれだけ急いで離陸しようとしていた理由が、これか』
経営陣と社員の関係は殺伐とし、社長は完全防備の役員室で一日を過ごし、未開封の飲み物しか口にしないほどでした。
飛空会社全体で予算が少なくなると、各部門でその奪い合いが発生し、情報連携は著しく悪化。伝達不備が相次ぎました。
その上、操縦士は元ワイバーンドライバーが多く、ワイバーンレース出身者は当時のランキングで上下関係を作る文化がありました。
マリウス=ゼゲル機長はワイバーンレースの元世界王者でした。
対して副操縦士のスラ=ウイファルシは、入社して半年の新人でした。
『操縦士同士のコミュニケーションは、風通しがいいとは言えませんな』
プルデック氏の言葉に、私も同意しました。
『シーアールエムが欠如してたようです』
機長は責任者ではありますが、絶対的な権力者ではありません。時には間違うこともあります。
そのとき機長は目下の副操縦士の意見に耳を貸し、また副操縦士も積極的に機長の誤りを正すことが出来れば、そういった判断ミスを回避できるのです。
この操縦士達の人的能力を最大活用することを、竜人文明ではシーアールエム(CRM)と呼んでいました。
これはあの竜人ですら、判断ミスを犯すことを意味します。
ましてや私たち人間では。
プルデック氏は、この事故の最終報告書を提出。
中間報告の内容に、クドラク飛空の貨物重量計算に不備があったことを加えたものです。
その中で、クドラク飛空が飛空艇を飛ばすにはあまりに危険な状態であり、それを管理監督できなかった海運飛空局の落ち度も強く非難しました。
………この最終報告書を受け、飛空騎手ギルドから直訴状を受けていたロムント国王ヴラチスラフ三世は、海運飛空局の局長と民間飛空公団の総裁および総局長を罷免。
両機関への監視機関を新たに設け、体制の見直しを図りました。
リタリーニャ空港も、問題だったヨロイドオオスギやシェイプシフター草は取り除かれ、地上の標識や誘導灯火も整備されました。
地上監視ゴーレムも強化され、今日では濃霧が発生しても、誰がどこにいるのか正確に把握できます。
ロムントの他の空港も、同様の設備が次々と導入されました。
クドラク飛空はこの事故を受け、運行を停止。
再開後も採算が取れず、調査終了から半年で破産しました。
また飛空会社での、操縦士を含めた従業員の環境改善命令を受け、正規の賃金と労働時間が守られるようになりました。
さらに操縦士たちへのCRM訓練プログラムも標準的に導入され、機長と副操縦士の関係も見直されました。
こうした取り組みにより、飛空会社は安全評価を確実に高めていきました。
あの事故で亡くなった16名の死を、ロムントは無駄にしなかったのです。
○フランツ=チャペック(クドラク飛空2004便 乗客(当時))
退院して半年が過ぎて、私は自分を助けてくれた飛空騎手に会いました。
実は入院中もずっと彼に感謝の手紙を送っていたんです。彼、アレックスから返事の手紙が来たときはもう嬉しかったです。その後、何度も手紙を遣り取りしました。
その手紙の中で、あの事故で亡くなった飛空騎手が、アレックスの友達だと知りました。
どうしてかは分かりませんが、私はアレックスに会わなければと思いました。
リハビリをなんとか終えて不自由なく体が動かせるようになると、真っ先にアレックスに会いに行きたいことを伝えました。
アレックスは快諾してくれました。
そしてリタリーニャ空港で、アレックスに会ったのです。
私は彼を何度も何度も抱きしめ、手を握ってぶんぶん振りました。
『あなたは素晴らしい人だ。私だけでない、何人もがあなたに救われた』
『あなたのような人を友人にもてるなら、私はそれ以上に誇らしいことはない』
『あなたのおかげで、私達は助かった』
『ありがとう。あなたは子供の頃の私が憧れた飛空騎手そのままの人だ』
何回も何回も、私は彼に言いました。もう分かった、と彼が恥ずかしそうにしても、私は言い続けました。
その日は彼と一晩中、酒を飲んでいました。美人のいる良い店でした。
その時から、私とアレックスは友達です。
(完)




