リタリーニャ空港地上衝突事故④:派遣調査団
○ヴァーツラフ=プルデック(リタリーニャ空港衝突事故 派遣調査団長(当時))の証言
『ワイバーンを飛空艇が轢いた?』
突拍子もないその事故は、すぐに国家飛空安全機関へ伝えられました。
確認を取ると、訓練中のワイバーンとその飛空騎手、それから一緒にいた訓練生が、リタリーニャ空港で離陸中の飛空艇と衝突したというのです。
ワイバーンおよび騎手2名は全員死亡。
飛空艇側は乗員乗客14名が死亡。
合わせて16名の死亡事故となりました。
『飛空艇事故で2桁の死亡事故は、建国以来初だな』
『飛空騎手ギルドが事故の原因を求めています』
『各メディアからも問い合わせが止まりません』
『内務省からもです』
『陛下からご下命を賜るまで、調査中と回答しろ』
クドラク飛空2004便の事故は国家飛空安全機関を大混乱に陥れました。
もっとも混乱しているのは私たちだけでなく、国中のあらゆる場所で同様でした。
リタリーニャ空港はただちに閉鎖され、国王陛下は派遣調査団の設置を命じられました。私たち国家飛空安全機関はその中核となり、国内最悪の事故の真相究明を果たさなければなりません。
『空港警察と現地の国家憲兵へ、我々が到着するまで現場の保全をするよう、協力を依頼してくれ。けっして事故現場に手を加えるなと念を押すように』
私は現場に入る前、現地の警察や国家憲兵に協力を要請しました。
調査団からの協力を彼らは断ることは出来ません。国王陛下より、国家飛空安全機関へ協力するよう勅令が下されているからです。
そのおかげで我々が到着したとき、墜落現場は救助活動が終わった直後の状態で保存されていました。
ただ、私達がリタリーニャ空港に着いて初めて印象に残ったものと言えば、あのヨロイドオオスギです。
『……なぜワイバーンポートにこんなものが生えている?』
ヨロイドオオスギは巨木で、20メートル以上の背丈がありました。空港の敷地内にこれだけの樹木があるのは普通ではありません。ましてやワイバーンポートに。
明らかな空港法違反です。
『これがワイバーンポートにあるせいで、ワイバーンの訓練生は滑走路を使う羽目になったか』
とはいえ、まだ事故の全貌が明らかになっていない段階で先入観を持つのは危険です。
ただでさえ今回の事故は、非常に強力な圧力に晒されていたのですから。
『飛空騎手ギルドと民間飛空公団の双方から、調査報告を綿密に提供して欲しいという要望が来ています』
『追い払え。中途半端な情報を国王陛下の御耳に入れるわけにはいかない。そして陛下より先に誰かの耳に入れるつもりもない』
まだ調査が始まっていない段階から、飛空騎手ギルドは空港と飛空会社を非難し、逆に空港を管理する民間飛空公団は飛空騎手が滑走路に誤って進入した可能性があると反論し、メディアがそれを煽るという状態でした。
ロムント王国では、残念ながらこういった組織間での衝突が絶えません。
私達の結論ひとつで火が付き、過激な運動に発展し、今まで積み上げてきた飛空業界を滅茶苦茶にしかねないため、調査団には慎重さが要求されました。
『……まずは黒箱を探さないとな』
私達はまず、2004便の黒箱が無事なのかを確かめました。
幸い機体は後部が比較的軽い損壊だったので、尾部に備えられた黒箱は目立った外傷もなく回収できました。
ただし、中のデータを取り出すのは時間が掛かります。王国には黒箱を解析できる施設はなく、製造会社のあるカカナ連邦へ送らないといけません。
黒箱の解析が終わるまで、我々は現場の検証を行いました。
『2004便は、左側を下にして落ちたようだ』
事故機の左の主翼は機体の下敷きになり、そこから燃料が漏れて火災になったと推測されました。
そのため損傷は最も激しく、何がどの部品なのかもすぐには分からない状態でした。
逆に機体の右側はほとんど無事で、プロペラの状態も悪くありません。
『右主翼にワイバーンがぶつかったわけじゃないな』
それは事故のあった滑走路の検分を始めて、すぐに裏付けがされました。
『ひどいな……』
滑走路27には、巨大な血痕がありました。
黒く変色したそれは滑走路のアスファルトと芝生に悍ましいほど広がり、呪われた池の痕を思わせました。
人間2人の出血量ではあり得ません。間違いなくワイバーンの死亡現場です。
『血痕は、滑走路の左端に集中している。飛空艇にぶつかって切り裂かれた後、滑走路の外側に弾き飛ばされたんだ』
死体の発見時の資料からも、それは明らかでした。
ワイバーンと飛空騎手たちは何故か滑走路に入り、離陸中の2004便に衝突したのです。
『……なぜ、ワイバーンが滑走路にいたんだ?』
事故のあった日に、飛空騎手たちの訓練試験があったことはすでに分かっていました。
問題は、なぜ飛空艇の使う滑走路にワイバーンがいたのか。
そしてどうしてそのことに誰も気付かなかったのか。
調べるべき点が数多くあり、この事故の調査はひどく複雑になるな、という予感がありました。
それでも我々は根気よく、ひとつずつ解きほぐしていかねばなりません。




