4 命じられた追放
衛兵たちは有無を言わさず、悠李を城の外へと連れだした。厩舎の裏口から、既に停めてある黒塗りの馬車へ乗り込み、どこかへと急いで向かっていく。
(怖いっ……!)
悠李が移動する中で感じたものは、死の恐怖と、厩舎の匂い。馬車へ乗り込む時の振動のみであった。二十分くらい経っただろうか、馬車は停車し、麻袋と猿轡を外される。
(うわ、顎が涎でべたべた)
肌の不快感に顔を歪ませている間に、王国の馬車はあっという間に去って行ってしまった。辺りは早朝なのか、夜なのか分からないが、薄暗く、悠李が降ろされた場所はどこかの町の路地裏の様だった。
レンガ造りの建物が高く聳え立ち、ネズミが建物の間の道をうろうろとしている。悠李は死の恐怖から解放された安心なのか、暫く震えていたが、やがて落ち着きを取り戻す。
「いや、これ夢? 夢であって」
顎をハンカチで拭い、悠李は自分の頬を叩いた。パチン、と音が鳴り、じわじわと痛みが広がっていく。
(この感触、匂い、現実すぎる。いや待て、落ち着いて考えろ)
すっかり汚れてしまった、お気に入りの服の泥を払いながら、悠李は取り合えず移動することにした。人通りが多いところで情報収集しようと考えたのだ。
(だけど、言葉も通じないっぽかった。日本から外国に一瞬で移動するって、今の技術であるのかな? 考えられるのは、一般人を巻き込んだ壮大なドッキリでしかない。或いは)
或いは。
タイムスリップ。もしくは、――異世界転移。
確かに、十代の頃は異世界転生や、異世界転移に憧れている時期もあった。
だが、悠李は現実主義者である。悠李の世界で、きちんと働き、仕事も覚えてきた。貯金もわずかだがあるし、ゲームもしたいし、アニメも見たい。
つまり、現実世界で捨てられないものが多すぎた。
(異世界転移しても、嬉しくない!)
暫く歩いていると、やっと人通りの多い場所へ出ることが出来た。
そこは西洋風のバザールという雰囲気で、広い道を縁取る沢山の店が、品物を並べていた。店の天井部分を色とりどりの布が覆ってあり、華やかで目に映える。周りでは、提灯が独りでに宙に浮き、幻想的な光景を作り出していた。
行き交う人々はやはり、英語でもない、知らない言葉を話していて、悠李はすっかり困り果てた。
(こんなんじゃ、誰にも話しかけられないじゃない)
ドン、と不意に、体に衝撃が走った。悠李は肩にかけていたバッグを、その衝撃で落としてしまう。ぶつかって来たのであろう、一人の少年が悠李のバッグを急いで拾い、駆けて去っていく。
「なっ……、返して!」
給料一カ月分の値がする、思い切って買ったバッグだ。中にはスマホと財布もある。無くしたらそれこそ、日本に帰るのが難しくなるだろう。悠李は必死になって少年を追う。
辺りは暗い。出来るだけ危ない場所には立ち入りたくなかったが、願い空しく、少年はどんどん暗い路地へと逃げ込んでいってしまう。悠李はなんとか少年の姿を捉え、手を伸ばした。
すると、少年を遮り、暗い路地から何人かの男たちが現れ、目の前に立ちはだかった。
見るからにゴロツキで、助けてくれそうな雰囲気ではない。
「まじか…………」
絶望、その考えが悠李の頭を占めた。お金より身の安全を優先した方が良かったと後悔する。だが、時すでに遅しで、男たちはにやにやと下卑た笑みを浮かべ、悠李を取り囲む。
「お金ならあります。どうか、見逃して」
震える声で、虚勢を張りながら、悠李は精一杯の声を発した。
死――。
それよりも、もっと酷い事。
それらが悠李の背筋をゾっと撫でた。
その時。
『ぐああっ』
『なんだ!?』
男たちが悲鳴を上げる。
何かが男たちにぶつかったのだ。その時、悠李は路地裏の奥に輝く何かを見つけた。




