3 召喚されたふたり
悠李が目を開けると、視界に飛び込んできたのは、10人程の人の集団だった。現在居る地点から、叫んだら声が聞こえる位の離れた位置で、大きな歓声を上げている。
「聖王国に光あれ!」
(どういうこと? 聖王国って、なに?)
悠李はもちろん大混乱だ。ふと横を見ると、近い距離で、制服を身に着けたあどけない少女が居た。
床にペタリと足を付けたまま、肩を抱いて震えている。この状況にも関わらず、悠李はその少女の清らかな美しさに目を奪われた。
明るいブラウンのボブヘアで、小さな顔に大きな黒い瞳が不安げに揺れている。肌は日に焼けず白く、唇は艶やかで若さを感じさせた。
(なんという美少女)
「ここは、一体?」
謎の美少女が言葉を発した。悠李は、先ほどの言葉を小さく復唱する。
「聖王国に光あれ?」
その時、集団の中から一人、こちらへと向かってくるのが見えた。
二人は身構えて、お互いの距離を縮める。その人物が、美少女に話しかけた。
『貴方が聖女様ですか? 私はこの聖王国、リスティーアの皇太子です。救国の乙女よ、私たちは貴方が来てくださるのをずっとお待ちしておりました』
『私が、聖女?』
『言葉が通じるという事は、まぎれもなく貴方が聖女様ですね』
悠李は驚いた。先程は日本語を話していたのに、突然、美少女が訳の分からない外国語を、目の前の人物と会話するよう話し出したからだ。
「なんて言ってるんですか?」
「この人、皇太子で、私が聖女だって」
「皇太子……」
美少女に話しかけてきた、皇太子だと名乗った青年を仰ぎ見る。
髪は短く色は鮮やかな赤。染めている筈なのに艶やかでまるで地毛のようだ。顔立ちは精悍でかなりのイケメン。身に纏っているのは、どこかの国の王子が着ているみたいな白い軍服だ。胴衣には青のサッシュ、肩から同色のサーコートを羽織っている。
「言葉がわからないの?」
「ええ。さっきは分かったのだけど、今は分かりません。あなたは通じてるみたいですね」
「この人、日本語話してるよ?」
「……私には、日本語に聞こえないです」
話していると、再び皇太子と名乗るイケメンが2人に話しかけた。
『この者はなんですか? 聖女様』
『知らない人だけれど』
『ふむ』
皇太子が手を顎に当てて何かを考えだす。
『聖女様、とりあえず落ち着ける場所へと従者がご案内いたします、こちらへ』
『あっ、う、うん』
美少女が気後れした様子で、悠李を振り返った。皇太子が手を挙げると、白い祭服を着た神官が少女を半ば強引に連れて行く。悠李は呆然とそれを見送って、不安で視線を彷徨わせた。その場に残った皇太子と、神官が何かを相談し始める。
『どうやら召喚に不備があったようだ。不備があったことは国王に知らせてはならない。いいか、この者を秘密裏に外へと連れ出せ』
『始末しますか?』
『……いや、仮にも聖女様の世界からやって来た者だ。我々が手にかけるのはまずい。スラム街で放置すれば何日かで力尽きるだろう』
『かしこまりました』
話が終わると、皇太子は悠李を一瞥だけして、聖女が去っていた方へと歩いて行った。すると、神官が衛兵に命令し、悠李を無理やり立たせ、ガサガサの麻袋を顔にかぶせた。
「ちょっと! 何するの!」
『うるさい、黙れ』
麻袋を外されると、今度は猿轡を嵌められ、再び麻袋をかぶせられた。手も後ろで縛られ、体の自由を奪われた悠李は、どこかへと連れ出されていく。
(最悪!!)