表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/14

2 嵐の前の

 聖王国、リスティーアにて。


「神託を受け賜りました」


 朝日を目一杯に受けるため、大きな窓の傍。白い祭祀姿の少年が声を発した。


 少年の周りを何人かが囲み、その声を聞き逃さんと、次の言葉を待っている。同じように、白い祭服を身にまとっている様は、彼らが神官であることを伺わせた。


 建物は大きな教会。白を基調とした造りで、列柱が幾つも連なり、見上げれば首が痛くなるほどの高さだ。天井は列柱を繋げるアーケード状で、その端にはステンドグラスが輝いている。


「1人の聖女がこの地に降り立たん。そして、聖なる剣にて悪を討つと……」

「おぉ……!」


 神官たちがざわざわと声を上げた。表情は喜色に満ち、顔を見合わせて頷き合う。


「聖女様をこの国、リスティーアにお喚びするため、祭祀を行いましょう」

「主の御心のままに」








 夜、ビルから1人の女性が外に出て、大きなため息を吐いた。


 彼女は、高梨タカナシ 悠李ユウリ

 たった今、勤務先の上司から怒られて、退勤してきたばかりだ。


 容姿は黒よりも少し明るい程の栗色の髪で、1つくくりにしている。同じ色の瞳。どこにでも居そうな平凡な顔立ち。服装はオフィスカジュアルなもので、白いブラウスにカーキの膝丈スカートを履いていた。肩にかけたカバンを持ち直し、悠李は歩き出す。

 

「はあ……まったく。帰ったら早く『リスティーアの乙女』しよう」


 周りに聞こえないよう悠李は小さな悪態を吐き、家に帰るための最寄り駅へと向かった。


 『リスティーアの乙女』とは、悠李がハマっている乙女ゲームだ。三年前に発売され以来、その世界観などが評判を呼び、人気が続いている。


 悠李はとっくにゲームをクリアしていたが、最近になって再び、また始めてみたのだ。

 今、攻略しているキャラは「アサン」だ。


 聖王国リスティーア。


 聖と魔が争い合う時代。世界に蔓延る魔族と対立する、人間が暮らす王国。

 ヒロインはそんな国に、人間を救う聖女として召喚される。そして、聖女として魔に立ち向かうため、攻略対象たちと心を交わしつつ、世界を救うというストーリーだ。


 王国では主に3つの派閥がある。

 軍を持つ王室、神聖力を司る教会、魔術を扱う魔塔。

 

 攻略対象キャラは3つの派閥から、皇太子アルフォンス、騎士団長ファウ、教皇レミ。そして、魔塔の主アサン。残る1人は隠しキャラだ。

 

 (アサンって凄く可哀そうなキャラだから、昔からなんか気になるのよね)


 悠李がそんなことを考えていると、突然、前を歩く誰かに体がぶつかり、その部分から眩い光が現れた。悠李は驚きのあまり尻餅をつき、光から逃れるために目を瞑った。


「い、一体何!?」

「どうなってるのよ、嫌っ……!」


 白い視界の中で、もう一人の声がした。若い女性の声だ。混乱しているようで、声色が震えている。その声を聴いた後、悠李は急に地面が無くなるような感覚に襲われた。


(なにかの災害?)


 ぎゅっと目を瞑っていると、再び体に重力が戻ってくる。悠李は、恐る恐る目を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ