03:始まった戦争
カフェを開店してから2週間が経った。お客様はまだ一人として来ていない。
まあそうでしょうね・・・と私は内心思う。だって、ここは森の奥だ。ま、まあ来るとは思ってなかったけど!・・・でも一人くらい来てもいいのに...。
私はすこししょんぼりと肩を下ろしながら寂しくパンケーキを焼いた。
―――それにしても。パンケーキは飽きない。甘いけど飽きない。
栄養面は別として・・・。
そして、メレンゲを立てているから、しゅわふわでとっても美味しい。たまに胸焼けもしてしまうけど。甘党の私にとってとても素晴らしい奥の深い料理なのである。
トッピングで色や雰囲気、味などを様々変えれる魔法の食べ物。型を用意すればいろんな形に焼ける。
そしてなにより楽!!
魔法がこの世界では使えるからとっても時短になるし、自動泡立て器も魔力で動かしている。焼く時に、時間が2倍速になる亜空間に置いておけば時間が焼く時間がなんと二分の一にできるのだ。
クリームは重圧の魔法で空気を操作しておけば生クリームが泡立てる時に飛び散ることもない。しかも、冷やす時に底の周りの空気だけ冷たくしておけば氷もいらない。
お陰でかなりの集中力を要するが。
魔力は使えば使うほど回復する時に魔力の量が増える。小さい頃から料理をして魔力を使いまくっていたので、私の魔力は底無しだ。
いくらでも使える。
そろそろ焼き終わるなーとフライパンの蓋を開けようとしたその時。
カランカラン。人が来たことを伝える、うーん。鈴?みたいのがなった。
「いらっしゃいませ!」
中年くらいのおじさんが入ってきた。
どうやら冒険者みたいだ。ひどい怪我をしている。フライパンの火を止めて、すぐに向かうとどさっと倒れ込んでしまった。
私はあわてて魔法で自分の体を強化して、客室のベッドへ運び込んで、治癒魔法を施す。
全体的に怪我をしていたが、1番ひどいのはお腹だ。一度では治らなかったから、ワンランク上の治癒魔法をかけ直す。
二、三回を繰り返していたら完全に治った。
「よかった・・・」
正直前世の私だったらこの傷を見て吐いていたかもしれない。だけどこの世界は、魔物もいれば戦争もある世界。グロ耐性はある程度備えている。
そして、目を覚ますまで様子を見ようと椅子に腰掛けた。
◇
数分してすぐに目覚めたようだ。
「む。嬢ちゃん、助けてくれてありがとな。礼を言う。ところでここは本当にカフェなのか?こんな森の奥に...」
「ええ、カフェですよ。パンケーキ焼いたんですけど食べます?」
「ああ、頼む。」
そして、一度キッチンに戻って皿にとってデコレーションする。
前世で見たまんまのパンケーキができて嬉しい。
「これです。」
「おお。これはすごい」
感心したように呟くとパンケーキを食べ始める。
「うまい...。とけるみたいな感じなのが不思議だ。」
ふふ。お客様ゲットです!私は内心、初めてのお客さんで浮かれる。って、ケガしてる人にいきなり食事なんて、しかもパンケーキなんて持ってきて大丈夫だったのかな?
少しだけ心配になったが、笑顔で食べている姿を見ると心配ないようだった。
「そうでしょう。ふふふ」
やっと誰かに分かってもらえた喜びでこっちまで笑顔になる。
「そういや、隣の帝国と戦争を始めたらしい。この森は国境があるから、見つからないようにした方がいいぞ。向こうの指揮をとってる騎士団の団長は血も涙もない奴で、赤子であろうと女であろうと殺すらしいから早いとこ逃げた方がいいぞ。ここも危ないからな」
え...?初耳...。まあこんな森に情報が入るわけないから初耳なのは当たり前なんだけど。
いや、でも、もしかして。
もしかして...
――これって私が原因?
思い当たることが、すこーし、少しだけあるのだ。
そう、私と王太子の政略結婚の婚約を無理やりに破棄したこと。名も知れない男爵令嬢と婚約をすると公の場で王太子が宣言したこと。
「そうなんですか!!貴重な情報、ありがとうございます。」
とりあえず、原因まで詳しく聞く勇気はなかったため、お礼だけ伝えた。
「いやいや。礼を言うならこっちだ。
そのあと、六百ネル(六百円)ですと言うと『安いなぁ』と驚きながらも払ってくれた。
そして何度もお礼を言いながらもまた来ると言い、去ってしまった。