あの人
音もなく羽を広げる。その羽の白さはまるで天に浮かぶ美しい雲のようだ。ゆっくりと空に舞い上がると、地面の感触は無くなり、風が私のほおを撫でた。
私達は家に帰る前に、追ってくる人たちを巻くために一度違う場所に向かう。そこにつく前だったはずだ。探や楓、あの人の気配がなくなったのは。
闇夜に紛れ、空を滑空する。私の記憶が正しければ、この辺りで見失ったはずだが。
高いビルの屋上におりたつ。すると、後ろから誰かが屋上への階段を上がってくる音が聞こえてきた。彼だろうか?
ガチャリと扉が開くと、その音は止まってしまった。きっと、私がいる事に驚いたのだろう。
「こんばんは。」
後ろを振り向く事なく、話しかける。スカートが風邪でひらひらと揺れた。
「こんばんは。」
返ってきたのは、意外な事に落ち着いた声だった。
「いやあ、驚きましたよ。あなた達と同じ目線になってみようと上がってきた屋上で、あなたに会えるなんて。」
聞き覚えのない声だ。この声は、やはり。
くるりと、体ごと振り返る。そこにいたのは、私の予想通り、資料で見た主 真悟だった。
「真悟さん。あなたには息子さんと違って礼儀があるようですね。」
少しからかってみると、真悟は嬉しそうに笑った。
「いやあ、すみませんね。」
どうやらこの状況を楽しんでいるようだ。けれど、この状況を楽しんでいるのは私も同じ。偶然、約束もしていないのに星空の綺麗な屋上で出会うなんて、まるで運命のようではないか。
「運命を感じますね。こんな出会いかたをしてしまうと。」
私も、楽しくなってクスクスと笑ってしまう。自分でも、こうなったことを喜んでいる自分がいるのがわかった。
「そうですねえ。」
2人してクスクス笑う瞬間が、なんだか楽しく感じられた。
「それで、私に何かご用でも?」
髪をサラリと耳にかけながら尋ねる。近くに誰かの気配を感じる。この気配は、おそらく私の弟だろう。もう護衛についたのか。速いな。
「いえいえ、怪盗というものに少々興味がありましてね。」
私達はいつも予告状を出してから盗みに向かうが、予告状は、宝石などの持ち主に送る。けれど、やましいことを抱えるその持ち主達は、警察に届けないことがほとんどだ。今回は警察には届けたものの、世間には後悔しないよう頼んだようだ。だから、私達は世間にはほとんど知られていない。それなのに私たちを知っていて、あの屋敷に来るということも知っていたということは、警察の中に情報提供をしてくれているものがいるのだろう。彼もおそらく、私たちと同じく協力者なのではないだろうか?




