ビオラ
一体今更、私達に何の用があるというのだろうか?
「待って下さい。その、お願いが、あるんです。」
しどろもどろになりながらも、ゆっくり彼女はそう話した。お願い?私達に倒された、敵、なのに?話だけなら聞いてやってもいいが、叶えてやれる可能性は少な……。
「話せ。何だ?」
ちょっと、ちょっと、ご主人様!?確かに話だけなら聞いてやってもいいとは思ったけれど、本当に聞かなくても。放っておけばいいのよ、敵なんだから。
「あ、ありがとうございます!」
ご主人様は、優しい。けれど、優しすぎる。いつかそれが、ご主人様を害さなければいいが……。って、何ご主人様の心配なんかしてるのよ!どうでもいいんだからね、あんなやつ。……いや、どうでも良くはないか。彼も人間なんだし、私が正義をつらぬくためには守ってやらなければならない対象だ。
私とご主人様が敵の女の子の前に座ると、女の子は話し始めた。
「私は、赤ん坊のころに組織に拾われました。その頃からずっと勉強や戦闘訓練に明け暮れ、学校に通い、主さんと桜沢さんの監視をしながら過ごし、今日やっと実戦の日が来たんです。」
その子は悔しそうにぐしゃっと表情を崩した。
「頑張って、頑張ってきたのに、あいつらは裏切った!」
後ずさりたくなるほど大きな声を出したその女の子は、はあ、はあと息を荒げた。
「死んで来いって、そう言って笑ってた……。」
今度は消えてしまいそうなくらい小さな声で。
絶望したのだろう。今まですがってきたものが、一気に真っ黒の絶望に変わってしまって。いや、ホワイトの場合は真っ白、か?
「……思い出した。お前、確か楓のクラスの。」
そういえば、この女の子はご主人様とお嬢様の学校に潜入していたんだっけ。お嬢様と同じクラスだったのか。
「名前は確か……。」
あの資料では確か……。
「あ、あのっ。」
女の子が声をかけてきた。名前のことで何かあるのだろう。
「それは偽名で……その、ビオラって呼んで欲しいんです。」
ビオラ?あなた日本人でしょう?どうしてカタカナの名前なんか。
「お母さんが、私を手放す前、ビオラみたいに可愛く育って欲しいって言っていたそうなんです。人伝に聞いたんですが……。」
なるほど。あくまで私の意見だけれど、ビオラは小さくて可愛いもの。ビオラのお母さんはビオラにビオラのように可愛く、美しく育って欲しかったのね。
「それで、結局お願いって何なのかしら?」




