縛られた女の子
ご主人様の手を下ろす。私が
「大丈夫です。」
とだけ答えると、ご主人様は不機嫌そうな顔をせずに
「そうか。」
とうなずいてくれた。私にしては、少しぶっきらぼうな返事だったかもしれないと不安だったのだが、ご主人様は特に気にしていないようだ。やはりご主人様は優しい人なのだろう。
「ゆり。そういえば、ゆりはゆりの花が好きなのか?」
え?名前なんて親がつけるものなのに、どうしてそんなことを聞くのかしら。もしかして……。
「ゆりはゆりが考えた偽名なんだろ?」
ご主人様は、何が不思議なんだ、とでもいいタゲに首を傾げた。確かに、その通りだ。ゆりは偽名。本当の名前、少なくとも私が本当の名前だと思っているのはヒカリだ。ご主人様、探偵の息子なだけあって頭はいいのかもしれない。
「そうですね。黄色の百合が好きなんです。」
これは私がご主人様に与える最大のヒントだ。これで真実までたどりつければ、たいしたものだろう。
「黄色のゆり、黄色のゆりかあ。」
ぶつぶつとご主人様はそう繰り返した。これがヒントだということは伝わったのかもしれない。
黄色のゆりの花言葉、偽りは、私の名前や姿が偽りであることを表す。私の名前は偽名だし、私は一応悪ではないだろうから。ご主人様は、ただの人殺しだと思って私を軽蔑しているみたいだけど……うん。でも、人殺しはやっぱり人殺しよね?……それに、敵のボスだって、きっと私たちを偽っている。敵の正体が、セイの言っている通りなのだとしたら。
「ゆり。扉開けていいか。」
ご主人様は扉を見つけると、さっさと登っていってしまった。危険なのは頼むから私にやらせて欲しい。
「私が開けますから、扉の影に隠れてください。」
もし、ドアが罠になっていてまた槍でも飛んできたらどうするんだ。勝手なことはしないで欲しいものだ。人間は柔らかく、脆いのだから。
「分かった。」
さっきから、なんだかご主人様が素直だ。何か思うことがあったのだろうか?
音を立てずにドアを開ける。気配はない。ドアの向こう側をそっと覗くと、そこには見覚えのある女の子が転がっていた。
「ここは……。」
「ん?どこだ?ここ。」
ここは、地下9階。先ほど私たちが通ったところだった。どうやらこの部屋にはもう一つ扉があったようだ。
縛られている女の子は目を覚ましていたようで、ゴロゴロと地面を転がりながらもがいていた。そういえば、地下9階を出る前にセイが縛っていったっけ。切れないだろう、解けないだろう、そのロープは。何せ、私の妹が開発したまだどこにも出回っていない特殊な意図で作られているからね。それでも、私たちのことをもっとよく研究していれば、解けたかもしれないよ。私たちは捕まえた敵をいつもその場に縛って置いていくから、そのロープを研究していれば、切れたかもしれないのにね。
「ゆり、お前……なんか変なこと考えてないか?」
考えていますとも。何か問題でも?




