お礼と謝罪
空間はまっすぐ続いている。どこにつながっているのかは、私にもわからない。音の反響で、かなり奥があることくらいはわかるが。
「行きましょうか、ご主人様。」
私が安心してもらおうと笑顔でそう声をかけるが、ご主人様は返事をしてくれることはなかった。それでも、ご主人様が危険な目に遭わないように先導する。人の手で仕掛けられたものは、たいてい音で分かるものだ。少し空洞があったりして、すこし音の反響が違う。
「あ、もう少しこちらに。罠があります。ああ、そのボタン、押さないでくださいね。」
人にあれこれ言われるのは性格に合わないのか、
「ああ。」
とだけ言って下を向いてしまった。まあ、これでも最初に比べれば丸くなった方だろう。ずっと私を睨んでいて、今にも噛みつかんとしていた頃よりは、ね。
罠は至る所に仕掛けてあった。これならいちいち声をかけながら歩くよりも、ご主人様を抱えて歩いた方が早いのだろうが、そんなことでご主人様のプライドを傷つけるわけにはいかない。私も丸くなったものだ。昔なら、人のことなんて気にせず、ちゃんと無事なら、私の正義が果たされるならそれでいいと思っていた。それで私の存在意義が満たされるのなら、それでいいと。そんな私が、誰かを守りたいと心から思えただなんて、角が取れてきた証拠なのだろう。
が、それは私がアンドロイドであるということに反している。私がアンドロイドなら、こんなこと思ったりしないはずなのに。一体、私は何者なんだろう?アンドロイド?人間?……アンドロイドである、はずなのに。
「……ゆり。」
ご主人様が私に声をかけてくるなんて。また、文句がないかだろうか?上から落ちたとき、うまく受け止めてあげられなかったからなあ。
「……ありがとう。そして、すまなかった。」
「……え?」
ご主人様の口から、そんな言葉が出てくるとは、夢にも思わなかった。ご主人様は私を軽蔑している。それが全てだと思っていたから。
「ご主人様は、私を軽蔑していらっしゃるのでしょう?どうしてお礼なんかいう必要があるというのですか?」
疑問でならなかった。ご主人様が私を軽蔑しているのなら、お礼を言う必要も、謝る必要もないのに。どうして私なんかに謝るのだろうか?正義のために人を殺した、私達に。私、私達は……。




