軽蔑と尊敬
あらかじめ用意しておいた鍵で玄関の扉を開ける。すると、扉を開けた先にはご主人様が仁王立ちで立っていて、私のことを睨み付けていた。
「ただいま、探!」
場の空気を変えようとしてくれたのか、お嬢様はにこっとした笑顔でご主人様を見た。ご主人様は、気まずそうに後ろを向いた。いや、もしかしたら気まずかったのでは無いのかもしれない。もしかしたら、恥ずかしかったから……?おやおや?お嬢様、これは脈アリかもしれませんよ?
2人にお茶を入れて、しばらくたったころ。
「探、私、帰るね。」
そう言って、お嬢様が席を立った。
「え、帰るのか?」
ご主人様が驚いたように声を発した。調査によると、いつもはもっとゆっくりして行ったはずだ。私がいるからいけないのだろうか?一体、なぜ?
「探、もっとゆりさんと仲良くしないとダメだよ?」
お嬢様を引き留めようとしたのか、ご主人様も席を立った。
「もっといろよ、楓。」
そういうご主人様は少し寂しそうだ。もっと一緒にいたいのだろう。
「そうですよ、お嬢様。お茶、何杯でもお入れしますよ?」
私がいると気まずいのだろうか?話しにくいのだろうか?けれど、ご主人様を護衛している以上離れるわけにもいかないし……。
「今日はこれからお母さんと買い物の予定なの。ごめんね。」
ぱしっと両手を合わせてお嬢様はご主人様に向けて笑いかけた。ご主人様もどうやら納得したようだ。
「じゃあ、また明日ね。ゆりさん、お茶ご馳走様でした。」
「いえいえ。お気をつけて。」
ゆりさんは最後にご主人様の方を振り返ると、手を振りながら家を出て行った。
はああ、と、ご主人様が大きなため息をつく。お嬢様が帰ってしまったことがよほどショックらしい。
「ゆり。」
ご主人様が嫌そうな声を出しながら私に話しかけてきた。そんなに嫌なのであれば、話しかけなければいいのに。
「楓に仲良くしろと言われたから、先に言っておく。」
もう一度、ゆっくりとため息をついた。
「俺はお前を軽蔑している。この……人殺し。」
憎しみを詰めた表情で、声で。ご主人様は私に軽蔑していると言い放った。予想はしていたことなのに。それに、私はアンドロイドなのに。傷つくわけが、ないのに。どうしてこんなに悲しいのだろうか?どうしてこんなに寂しいのだろうか?どうして、どうして……。
「大丈夫ですよ。」
笑顔で言い放って見せる。きっと、きっと大丈夫だ。
「私もご主人様のことを尊敬しようと思ったのですが……出来ませんでしたから。」
私達は、正義のために殺しているのだから。