私は……
「うーん、やっぱり問題はありませんよ?」
セイが不思議そうに眉をひそめる。問題がないなら、どうしてあのようなことをしてしまったのだろうか?
「おそらくですが。」
何かを思い付いたかのように口を開く。
「久しぶりに人間と時間を共にしたことで、姉さんの中で眠っていた人間の部分が目覚めなのではないでしょうか?」
いつも人間達とのやりとりはセイとヤミに任せている。だから、私自身は人間と関わる機会はほとんどなかったのだ。長い時間人と接せずに、私の人間らしさは消えてしまっていた。それが目覚めたのではないかというのだ。私は人間の頃の記憶を所有している。それをもとに、もともと内蔵されている感情よりももっと人間らしい感情が芽生えたのではないか、と、セイはそういった。
「なら、どうしようもないわね。ありがとう。帰るわ。」
ううん、と腕を大きく伸ばしながら伸びをする。玄関のドアノブに手をかけたとき、パシッと腕を掴まれ、振り返る。そこには、真剣な顔をしたセイが私を見ていた。
「感情にのまれて、本来の目的をみうしなわないでくださいね。」
これが人間の体だったら、冷や汗をかいていただろう。緊張した空気が辺りを漂う。
「わかったわ。」
私は笑うことなくそう返事をすると、今度こそ外に出た。
買い物をしながらセイから言われたことについて考える。
「本来の目的を見失わないで。」
目的、か。私たちの目的は、一体なんなんだろう?私が正義を貫く理由は、人間としての自分を見失わないためだった。人間としての自分が戻り始めているなら、必要ないのではないのだろうか?それに、人間のとしての私は任務をこなす上で邪魔でしかない。感情に煽られ、ミスをしてしまうからだ。ほら、さっきだって。
「私は一体、何をしたいんだろう?」
ぽそりと呟いてみても、何もわからない事実は変わらない。変わるはずがない。わかっているのに。
ああ、こんなに悩むのなは何年ぶりだろう?もしかしたら、何十年ぶりかもしれない。
人間だった時の記憶が蘇る。私は一体何者?人間なの?アンドロイドなの?
人間の記憶が移された、偽物。実際、そうなのだが。私は一体何者なのだろう?どうしてここにいるんだろう?何が目的なんだろう?そんなこともわからないまま、私はこの地球に立っている。……私は一体、何をしたいんだろう?