ミス?
お嬢様が呆れた目でご主人様を見る。
「どうしてメイドなんか?探、真悟おじさんとの二人暮らし気に入っているって言ってたじゃない。」
それに、と、お嬢様は足をもじもじさせながら続けた。
「それに。ご飯なら私が作ってあげるのに。」
小さな声でお嬢様が
「私の存在意義がなくなっちゃう。」
と呟いたのを、私は見逃さなかった。お嬢様にとって、料理はご主人様の心をつなぎとめておく唯一のものだったのだろう。俯くお嬢様の肩に、ご主人様がぽん、と手を置く。
「ははっ。馬鹿だなあ。」
ご主人様はそう言って笑った。その目は、まるで宝物を愛しむような目だった。ご主人様は、お嬢様を本当に大切に思っていらっしゃるのだろう。
「俺はいつでも楓と一緒にいたいと思っているよ。」
そう言って、ご主人様は照れ臭そうに笑う。お嬢様の顔がだんだんと赤く染まっていくのが視界の端に写っていた。ほとんどプロポーズのような台詞を口にしたご主人様はお嬢様の頭を撫でていた。2人はそう言う関係だと言う報告は聞いていないが……?もしかしたら、両思いだけれど付き合っていない、とか?ふふふ。これは面白いことになりそうですね。
「ゆり、お前が作った朝食は片付けろ。」
ご主人様が無情な目で私をみる。ああ、この目。知っている。見たことはないけれど、こんな目があると言うのは聞いたことがある。
「俺は楓の持ってきた朝食を食べるから。」
悪者を、見る目だ。
「はい。かしこまりました。」
ニコッと笑顔を作る。私はうまく笑えているだろうか?
ヤミから聞いたことがあった。悪者を見る目は、ひどく冷たいのだと。聞いたことはあった。でも、実際に見るのも、向けられるのも初めてだ。
私は、軽蔑されているんだ。
「ちょっと、探!なんて事言っているの?」
そういえば、私、どうして朝食なんて作ったんだろう?楓お嬢様が朝食を作って持ってきていることは資料を見て知っていたのに。私は意地悪をしていたのかしら?
「ゆりさん?」
ああ、違う。わかった。私、認められたかったんだ。喜んで欲しかったんだ。どうしてだろう?こんな子供、どうでもいいはずなのに。ただの子供じゃない。高校生になって、母親を取り戻すんだと調子に乗っている、ただの子供。こんな子供相手に、私は一体何を……?
「おい、ゆり!楓が話しかけてるだろ!」
はっと現実に引き戻される。もしかして、考え込んでいた?しまった。ミスをした。……え、ミス?この私が?
「申し訳ありません。少し考え事をしていました。」
もしかして、故障したのかしら?そういえば、ここ何十年もメンテナンスをしていないわね。
「すぐに片付けますね。」