月夜の下で
月明かりが、私を照らす。窓から入ってきたその光は、私の体を照らした。胸元の黄色いリボンを優しく照らす。
今宵は月の綺麗なことだ。見たこともないくらい、美しく光り輝いている。私にはもったいないくらいの光を、月は私に見せびらかしていた。私はそれを受け入れ、その光を掌で受け止める。
「ふふふ。」
私は笑った。まるで月は、私を慰めてくれているようだと思ったから。そんなわけ、ないのに。慰められたような気持ちだった。月が愛しく感じる。時には並んで空を歩いた、愛しい月。
「どうした?」
暗闇から声をかけられ、私はゆっくりと後ろを振り向いた。
「はい、ご主人様。月を眺めていました。」
暗闇から現れたのは、私の今日からのご主人様、主探様。
ご主人様は、珍しい姓をお持ちだ。その姓は、私の主人にふさわしい。
「お前の黒いメイド服によくはえるな、今夜の月の光は。」
月の光を褒めているのか、私のメイド服を褒めているのか。ご主人様は曖昧な話し方をなされた。
「そうでしょうか?」
返答に迷った私は、結局そう答えてその場を凌ぐ。
「ああ、美しいな。」
ご主人様は表情を全く変えずに月を見上げた。ご主人様の顔が、月明かりで照らされる。
「ご主人様には、例え月でも敵いませんよ。」
私のご主人様は、見た目までも美しい。心の底からそう思っていた。
「外見のことを褒められても、嬉しいとは思わない。」
けれど、ご主人様は喜んで下さらなかった。ご主人様は、きっと内面までもお美しい方なのだろう。
「お前は月が好きなのか?」
月を見上げたまま、ご主人様が私に尋ねる。
私は、月が好きなのだろうか?よく見ているが、好きなのかどうかなんて考えたこともなかった。
「そうですね……。太陽の暖かい光よりは、月の包んでくれるような光が好きです。」
結局は、月の光も太陽の光が反射したものだから、太陽の光であることに変わりはないのだけれど。
「そうか。」
ご主人様は、たった一言、小さな声でそう答えた。
「ご主人様はお好きなんですか?月は。」
軽く笑顔を作って尋ねると、ご主人様も
「好きだよ、俺も。」
と言って笑ってくださった。その表情を見て、私もまた笑う。
プルルルルル、プルルルルル。部屋中に、電話の音が鳴り響いた。
「はい。こちら、主探偵事務所です。」
私は、ゆり。主探偵事務所の息子、探様に仕えるメイドです。