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空から墜ちてきたモノ


 その時にアディンが村の外にいたのは、畑を荒らしていた獣達を追いかけていて見失ってしまったからであった。 小型で下手に手を出さない限り人に害を加える事もないのだが、農家にとっては死活問題であり、これも立派に村を守るための仕事である。

 そこで数人にグループで見回り、首尾よく獣達を発見できたのだが……。

 「……結局逃がしちゃったかぁ……」

 最初は仲間と三人で行動していたが、向こうがバラバラに逃げればこちらも分散して追いかけるしかないという考えは、今にして思うと大失敗だった。 野生の獣と一対一の追いかけっこは実際やってみれば悪手でしかないと分かる、たかが獣と侮らずにもっと人数を集めれば良かったと思うアディンだ.。

 「これで逃がしたのが僕だけだったら、情けないな……」

 苦笑しながら紅く染まりかけた空見上げ、流石に引き返すべきだと判断したその時だった、視界を引き裂くかのように一条の閃光が横切ったのは。

 「……今の光……? 落ちたっ!?」

 反射的に視線で追った先は少し離れた森の中に落ちたように見えた、直後に反射的に駆け出していた。 彼が生まれて初めて見る光景はどうみても只事ではない、不安や恐怖よりも正体を確かめないといけないという使命感が、この時には勝った。

 「あの二人も気が付かないとは思えないが……」

 うまくすれば仲間と合流できるかと考え、光の堕ちた森へと駆け出す。

 それから十数分ほど走ったか、気が付けば森の奥で光が輝いているのに気が付きいったん足を止める。 無我夢中で走っていて、迷うことなくすんなり目的の物へと辿り着けたというのが不気味に感じた。

 「……まさか、あれに呼ばれたなんてオチはないよな……?」

 剣を抜くと今度はゆっくりと光に向け歩き出す。 改めて見ると光る球体が大人の身長くらいの高さに浮いているという風に見え、今のところこちらを攻撃してくる様子もない。

 それでも慎重に進み、光から5メートル位のとこまで来た時だ、『……大丈夫だ、私は君を傷つけるつもりはない』という男の声に思わず足を止めた。

 「誰かいるのか?」

 仲間のどちらかの声ではない、周囲を見渡すがヒトのいる気配はなく、そうなるとこの場合は答えはひとつしかないく、自然と正面に輝く発光体を見る。

 「何者だ?」

 「私は……君達ニンゲンがマナの大樹と呼んでいる存在だ、今はこのマナの種子を介して君と話をしている」

 光が話しかけてくる事態がすでに非常識だが、そこへ更に非常識な言葉が飛び出てくれば、自分は夢か幻でも見ているのだろうかという気がしてくる。

 「……この状態は長くは続けられない。 手短に言おう、私の寿命は時期に尽きようとしているのだ」

 「一方的に言う……って! 何だって!?」

 さっぱり訳が分からない状況だが、マナの大樹の寿命が尽きるとう事だけを理解出来れば、驚きに声を上げてしまう。

 「だが……私の命を伸ばす手段がある、このマナの種子を使えば……そのために暗黒の世界を漂っていた種子を……どうにか引き寄せた……」

 「暗黒の世界……空の更に上にあるっていう闇と死の世界……どういう?」

 「……だが……落下……点は……コントロール……きれず……」

 言葉が途切れ途切れになってきたのアディンは焦る、およそ理解しきれず今は審議も定かではないが、とにかく最後までちゃんと説明はしてほしい。

 「……君の……名は……?」

 「……僕? 僕はアディン・ランディール……って! じゃなくてっ!」

 反射的に名乗ってしまった後に抗議したが、「……アディン……このマナの……」という答えが返ってくれば聞こえてはいたが無視されたとは分かる。 だが、その事にムッとなる間もなく光が急に自分に向かってくれば、驚き反射的に剣を構える。

 しかし、予想以上の加速に防御も回避もすることも出来ないまま、気が付いた時には光は目の前に迫っていた。 恐怖に「……な!? うわぁぁあああっ!?」と叫び声を上げたアディンは、自分の胸に光が吸い込まれたのを見た……。


 話を聞き終えたリティア達はしばらく何も言わないままいぶかし気な表情をアディンに向けていたが、それも仕方ないとは思う。 立場が逆なら自分だってとても信じられないだろう。

 それゆえに後からやって来た仲間にも、村に帰ってからも両親にすら相談する事も出来なかった。 しかし、とにかくジッとしてもいられない不思議な衝動のようなものに駆られたアディンは、誰にも内緒で支度を整えて翌日の夜にこっそり村を出たのだ。

 「……どう思う?」

 リティアが問うのは、もちろん従者であり友達である二人に対してだ。

 「……とても信じられない話ですけど……それだけに嘘を吐く意味があるのかどうかですね……」

 「スレイの言う通りだな、少なくとも俺にはこんな嘘を吐いて我らを騙すメリットは思いつかん」

 二人の答えを聞いてリティアは考える、嘘を吐いてヒトを騙すという事は逆に言えば相手に信じてもらわなくてはいけない。 今のアディンの話は、とてもじゃないが誰かが信じるというものではないだろう。

 「もちろん、こちらがそう考えるとふんであえて……という可能性も完全否定は出来んぞリティア嬢よ?」

 「まーそーなんだけどねぇ?……とはいえ、本当なら結構シャレになってないでしょう?」

 この少年がマナの大樹の元に行かなければ近い未来に大樹は終わりを迎えるという事なのである。 つまり、このまま一人で行かせて万が一があったら終わりなのだ。

 「……あの姫様、信じてもらえないのは分かりますが……別に悪い事をしようとかではないので、もう行ってもいいでしょうか?」

 流石に埒が明かないと思いアディンは言った、まさかとは思うが、このまま変に疑われて拘束とかされたくはない。 そう考えていたから、リティアの言った言葉は彼にとっては予想外だった。

 「アディン、あたし達と一緒に行こ?」

 「……はい?」

 アディンはもちろん、レイトとスレイも驚いた顔になったが、二人のそれはどこかわざとらしかった。

 「リティア嬢、無暗にヒトを疑うのは愚かなれど、素直に信じすぎるのも問題だと思うぞ?」

 「マナの種子がどうとかはさておいてもさ、アディンの目的地もあたし達と同じようなもんでしょう? それに本当ならシャレにならないんだし、一緒に行く事に問題あるレイト?」

 自分達の行き先が変わるわけでもなければ回り道をするでもない、ただ旅の道連れが一人増えるだけなのだ。 レイトとスレイはどちらかともなく一度顔を見合わせた後に再びリティアの顔を見つめ……

 「まあ、真偽の分からぬことをいつまでも議論するよりは建設的でしょうな」

 「リティアちゃんのお好きなように、私には異論はありません」

 ……と答えたのを、アディンは唖然と見ていたのであった。 


 


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