第一話 生み出された意味
物心ついた時から、両親は二つ年上の姉Gloria(栄光の意)に付っきりだった。姉は生まれつき壊れた心臓を抱えていたせいもある。
2200年代に突入し、医学も科学も神の領域と言われる程に進化を遂げた今も、姉の心臓を治す事は不可能だったらしい。健康な子どもからの心臓移植が生き残る手段だった。それも、心臓は元気なままの……。
だがその事実をさっ引いても、両親は姉の事しか頭になかったらしい。三歳になるAmandaにも、それは朧気ながらにも感じ取っていた。二人から抱き締められた事は一度も無い。食事は栄養剤と水だけだった。
それでも、いつかは振り向いて貰える。愛して貰えると信じていた。……信じたかった。何故なら、彼女に名付けられた名はAmanda。それは「愛すべきもの・大切なもの」と言う意味があったから。
2215年11月11日、Amandaが8才の誕生日を迎える日の朝、目覚めたら母親と父親が目の前に立っていた。そして父親はこう言った。
「Amanda、やっと8歳になったな。待ち兼ねたよ。Gloriaの為に、元気に成長してくれて有り難う」
母親は嬉しそうに目に涙を溜めて
「あなたはこの為に生まれてきたのよ。これからはGloriaの中で生きて頂戴」
とAmandaを抱き締めた。
「ママ、パパ……やっと、私を見てくれた！ 嬉しい」
Amandaは歓喜の声をあげた。
「Amanda、悪く思わないでくれよ。私たちが愛し合った結晶にGloriaが生まれた。出産は科学の力に任せるべきだ、と言う周りの反対を押し切って。結果、Gloriaは心臓に欠陥を持って生まれてきてしまった」
淡々と説明する父親。
「あなたは元々、Gloriaの心臓を移植する為に創った子なの。科学の力を借りて。心臓が移植に耐えられるまで育ち切るまで待っていたのよ」
母親はAmandaを抱き締めたまま、言い聞かせるようにして囁いた。
Amandaは理解出来なかった。あまりに唐突過ぎて。次の瞬間、父親は右手に持っていた注射器を、Amandaの左腕に刺した。
何も感じる間もなく、Amandaは暗闇の世界へと落ちていった。
