俺、家を建てる
「柱はここか。そぉいっ!」
どんと、太い主柱が立つ。
「壁は石でいいんだな? ちまちま小さく削っては面倒だろう。一枚岩をちょうどの大きさに手刀で削ってだな。そいっ!!」
どんと一枚岩の壁が出来る。
窓が必要だったので、指先でくり抜いた。
あっという間に家が建つ。
そう。
俺は今、家を建てていた。
村人の家である。
俺がカッとなって、グランドシェイカーで破壊してしまった家である。
「冗談みたいな勢いで家ができあがっていくわねー」
「そうだろうそうだろう。現実の家も、最近だとこんなプラモデル感覚で作ってるらしいぞ」
「スタンがいた世界は発展してるんだねえ。まあそれでも、素手で建材を組み立てられる人間はいないだろうけど」
「うむ……この体、便利だなあ」
谷底から岩を切り出し、それを柱や壁に加工した俺。
これらを材料として、村人の家を次々に建てている。
一件あたり一時間かかるので、二日はかかってしまうだろう。
「す、凄い……」
「建て直された家、まるで小さな城塞だぜ……」
「でも岩だからちょっと寒そうね」
「内張りは俺たちでやろう……」
建てた後の家に村人たちがやって来て、内装を作り始める。
「あの、全裸様。俺の家もできれば建て直しを……」
「あっ、うちも」
「我が家も……」
「もう一軒も二軒も十軒も同じだぞ。全部建て替えてやる!!」
俺はやけくそになってそう宣言した。
ということで、四日間の労働が決定したのである。
村の人口は、およそ二百人。
四十五世帯、五十軒の家と、三棟の倉庫が存在している。
一日十軒ちょっと家を建てるわけで、これはなかなかの重労働。
疲れはしないが、飽きる。
途中から、家の形に創意工夫を凝らすようになってきた。
「この家には翼をつけてやろう」
「な、なんですかこの横に張り出した岩盤は!? 何か神々しい……」
「この家は天井をめちゃくちゃ高くしてやろう」
「おお! 内側に板を渡せば、下を倉庫にして上に住めます!」
「この家には攻城兵器を取り付けてやろう」
「ええ……」
ということで、日にちはかかったものの、村の家々は建て直された。
遠巻きに眺めると、うん。
どこからどう見ても、異形の集落だ。
いい仕事をした。
「すっかり要塞都市ねえ。あたし、上空から帝国を見たことあるけど、あそこの首都だってここまでとんでもないことにはなってなかったよ」
「何っ! それじゃあ、この村は世界の最先端じゃないか!」
「軍事化最先端ね!」
「ぶーいー」
俺とゴールとセーフリムニールで、健闘を称え合うのだった。
こうして、辺境の農村は、すっかりその姿を変えてしまった。
ある時、村を治める領主の使いがやって来た。
彼は徴税官であり、村から年貢として農産物を受け取っていくのだが。
「ひっ、ひぃー」
村を見るなり腰を抜かしたとか。
何せ、久々にやって来たら、村の姿が城塞都市と見紛うばかりに変貌を遂げていたのだ。
とにかく村の作りが禍々しい。
彼は村が謎の勢力に占領されているとばかり思って、慌てて領主のもとに取って返し、しばらく後には領主の軍勢と傭兵たちが、村に押し寄せてきた。
そして兵士たちも村の姿に圧倒される。
「わ、我々はドミー男爵家のものである! 村を占領した者よ、出てこい!」
そんな呼びかけに応えて出てきたのが、いつもの村長だったので、みんなまたびっくりしたようだ。
「これはこれは徴税官様。今年の年貢はこちらに……。えっ、村の姿ですか? 実は先日、地面が揺れて家々が崩れまして。そこに全裸の凄い方がやって来て、彼が建て替えを」
「地面が揺れ……? 全裸……? 村長、お前は何を言っているのだ。ともかく、勝手な家の建て替えは厳禁である! これには税を課さねばならぬし、こうして連れてきた傭兵の分の金も払ってもらわねば……」
何やら、外で面倒くさい話になって来ている。
俺は村長の加勢をすることにした。
「やあやあ、待たれよ」
いきなり、熊の毛皮を纏った大男が現れたので、向こうは目を丸くした。
傭兵たちと、領主の手勢が身構える。
「俺はこの村の家を全部建て直した者だが、俺が大地を揺らし、あっちに谷を作り、色々暴れたので家が壊れたのだ。だから建て直した。分かったか。これは必然だったのだ……。ということで税は取るな」
「な、な、何を勝手なことを!?」
一気に用件を伝えたので、領主の使いの徴税官は大変動揺した。
ううむ。伝わっていない気がするぞ。
事は今、徴税するとかしないとか、そういう状況ではないのだ。
「いいか。こうしたのには理由がある。何故ならマキナ帝国が攻めてくるからだ。俺が機甲兵を四人やっつけたからな。だから村を要塞化しないと、大変なことになるところだった。良かったな、俺がいて!」
「全裸様のお陰でございます」
村長が深々と俺に礼をする。ちなみに村が要塞化したのは俺の趣味だ。そこに関しての理由は後付だった。
これには、徴税官もポカンとするしかない。
ややあって、
「い、いや。マキナ帝国って。そ、それは真か?」
「はい! 私が襲われて、そこを全裸様に助けていただきました!」
村娘ソフィが飛び出してくる。
おお、俺を庇ってくれるのかセフィ。
いい娘だ。
「むう……。村人が口裏を合わせて嘘をつくにしても、もっとマシな嘘をつくであろう。それにこの訳の分からん大男……」
徴税官が俺を見上げた。
「何とも言い難い。おい、お前、ドミー男爵の下まで来て釈明せよ」
「えっ、俺が? ……じゃない。俺はこの地に留まらねばならない。何故なら、俺はこの村へ向かってやって来るであろうマキナ帝国と戦わねばならないからだ。故に、例え男爵であろうと、その招聘に応じる事はできない」
俺の言葉を聞いて、周囲がどよめいた。
徴税官は金魚みたいに口をパクパクさせているし、男爵の手勢は殺気立つし、傭兵たちは今にも攻撃を仕掛けてきそうだ。
まあ、傭兵連中はこの機会に略奪なんぞができれば万々歳だろうから、荒事が起きるのは大歓迎に違いない。
相手が村人だけならば、戦うのも楽勝だしな。
「お、お前、おま、お前ー……! この言葉は招聘ではない。召喚である! それを断るなど、不敬にもほどがあろう!!」
「俺には男爵の命よりも重要な果たさねばならぬ仕事がある。それがマキナ帝国との戦いだ。言うなればこれは、俺が俺に下した命題だ。エインヘリヤルたる俺が、それを曲げるわけにはいかない」
「は……?」
また徴税官が思考停止した。
もう、仕方ないなあ。
「ゴール! ちょっと来て教えてやってくれ。彼が分かってくれないのだ」
「へいへい」
やる気がなさそうにやってくる、ヴァルキュリアのゴール。
そして、兵士たちの前でだらけた雰囲気のまま、ピカッと後光を放った。
おお、ゴールの背中から翼が生える。
真っ白な白鳥のような翼だ。
「あーっ! ヴァルキュリアーっ!」
思わず叫んだのは傭兵団の連中だった。
彼らはゴールに向かって、一斉にひれ伏す。
傭兵みたいな力の信奉者の方が、ヴァルキュリアへの信仰心は高いのかも知れん。
「でもさ、スタン。男爵のお膝元まで行けば、ちょっとは美味しいもの食べられるかもよ? 肉はセーフリームニルで満足だけど、穀類がちょっとあれじゃない?」
「そうか。そう言えばそうだな……」
ゴールに言われて気が変わった。
豆類以外の穀物が食べたい。
「よし、じゃあ男爵とやらに会いに行こう。案内してくれ」
「は……はあ……」
すっかり呆けた徴税官と共に、俺はドミー男爵とやらの所に行くことにしたのである。
※プラモデルみたいに
パンチすると破れちゃうウィークリーのあれである。
※徴税官
悪役の様に描かれるが、国にとって無くてはならない人材。
ある程度の賄賂の要求などは見逃されている。
※俺が俺に課した命題
あまりにもやる事が無かったので自分で考えた様子。
ちなみに、GMもなし、PL一人で遊ぶソロプレイと言う遊び方もある。