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俺、呼び出された無数のエネルゲイアと対峙する

 崩れ落ちる天守閣から、ぽろっとこぼれたエリリンを回収する。

 これをその辺の物見櫓に引っ掛けて、戦闘再開だ。

 敵のエネルゲイア、ガイは俺が戦線復帰するまで待っている。


「待たせたな。待っててくれるとは思わなかったが」


「なに、貴様は俺の変身を待っていてくれたではないか。これで貸し借りなしというやつだ」


「お約束だな」


 互いに笑いあう、俺とガイ。

 敵味方という出会いでなければ、分かり合えたであろう男だ。

 きっと、第三のビールを酌み交わすような仲になっていたに違いない……。え? けちけちしないでビールを……? ビール代はゲーム代に消えた。


「行くぞ!!」


「来い!」


 ガイが屋敷の屋根を蹴り、瓦を巻き上げながら突っ込んできた。

 ヌエは行動値が低く、行動順が遅い。そのため、行動値に依拠する移動力も低いはずなのだが……。

 凄まじい速度、そして勢いでガイが迫る。


「行動値を底上げしたか!!」


「いかにも!! どらあっ! コンボ・夜叉刈り!!」


 拳を振り上げたガイの全身が、筋肉の膨張により一回り大きくなる。

 圧倒的筋肉が生み出す破壊力は、ガイの拳の一点へと集中した。

 俺へと迫りくる一撃。

 だが、俺を捉えるには少々遅いな。命中値があと二倍あれば当たった。


 これにはガイも、攻撃の瞬間に気付いたらしい。


「やつらへのエモーションをメモリーへと昇華する!! いけ、俺の一撃!!」


 突然、ガイの拳が加速した。

 まるで別人のような攻撃だ。

 これは避けきれない。

 俺はまともに、彼の攻撃を食らった。


「ぬおっ!!」


 さすが鍛え抜かれたヌエの一撃だ。

 俺の防護点を突き破って、恐らくこの世界で初めて、敵からダメージを食らった。

 傷は浅くとも、受けた衝撃は尋常ではない。

 吹き飛ばされ、対面にあった家屋を破壊しながら突き抜けた俺は、城の壁にぶち当たって止まった。


「吹き飛ばし込みの攻撃か! なるほど、現実では見栄えするもんだな!」


 めり込んだ壁から体を引き剥がす。

 そして、俺は大鮫の矛を構えた。


「それ、行け!!」


 投擲された大鮫の矛は、空を泳ぐようにして突き進む。

 倒壊した家屋をさらに破壊して突き抜け、その先にいたガイへと突き刺さった。


「ぐおおおおおっ!! こ、これはっ!! なんと強力なユニークアイテム!!」


「命中補正が付いてるんだ。よく当たるぞ」


 壁を蹴り、崩れ落ちていく家を踏み台にしながら、さらに跳躍する俺。

 そして、矛を抜いたガイの目の前に降り立った。


「行くぞ!」


 ガンバンテインを叩き込む。

 戦士の特技、強打付きだ。

 これをガイは、両腕を交差させて受けた。

 奴の腕の鱗が肥大化し、棍棒の衝撃を和らげる。

 これもまた、ヌエのアビリティだ。


 だが、衝撃を和らげたくらいでガンバンテインは無効化できない。

 そのままガイは、足下の屋根を貫いて、遥か下層まで撃ち落とされた。


「ぐうわあああああ!! 二つ目のユニークアイテムだと!?」


「いかにも。だが、こいつを耐えきったのはお前が初めてだ。異貌の小神でも一発だったのにな」


「はあ、はあ……。とんでもない化け物だな、お前は……! なるほど、どうやら、お前は俺たち異貌の神の軍勢に抗う、ヴァルハラの切り札らしい。俺がこの手で下したエインヘリヤルとは、比べ物にならない強さだ」


 こいつ、エインヘリヤル殺しをやってのける実力者か。

 なるほど、それは強いはずだ。


「しかし、俺のエネルゲイアとしての力では、お前には勝てん。許せ、スタン。俺は勝つために美学を捨てる」


 遥か足下に叩き落されながらも、ガイの声はよく響く。

 奴はなにもないはずの空間に手を突っ込むと、そこから何かを取り出した。

 携帯電話である。

 そう言えば、パンデミック・チルドレンのPCは標準装備に携帯電話があったもんな。


「全エネルゲイアに告げる! 我、標的Zと交戦中! Zは強大なエインヘリヤル!! 我らエネルゲイアの全力を以て当たるべし! 緊急招集をかける!!」


「ほう……」


 なんだなんだ。

 まるで俺がゲームで言うレイドボスみたいじゃないか。

 ガイが通話を終えると同時に、城の周囲に何者かの出現反応が出た。

 一つ、二つ、三つ……。

 おお、どんどん出てくる。

 俺の脳内では、マップ周辺に敵を示すアイコンが続々現れる光景が映し出されている。


 その数、十五人。

 これが全てエネルゲイアなら、ガイを入れて十六人のエネルゲイアが揃ったことになるのか。


「異貌の軍勢の全エネルゲイアだ。一人ひとりでは貴様と互角に立ち会うには力不足。だが、全ての力を集めれば、強大な敵とて打ち倒せる!!」


 主人公のようなことを言うガイである。

 GM経験も豊富な俺としては、応えてあげたくなってしまうな。

 よーし、リップサービスだ。

 俺は周囲を睥睨すると、鼻で笑った。


「エネルゲイアが十六名。確かに、ヴァルハラを落とすには充分な数と言えよう。だが……この俺相手に、たったの十六名で大丈夫か? 俺はヴァルハラよりも強いぞ」


 ノリで放った俺の言葉に、周囲のエネルゲイアの間に緊張が走った。

 ちゃんと反応してくれると嬉しいなあ。

 この機会に辺りを見回す俺。


 おお、巨大ロボに仙人、多くのモンスターを従えた召喚士、脳に直結した銃を携えたサイボーグに、馬に乗って戟をぶら下げた武人、空中戦艦と、輝く装備に身を包んだ戦士、漆黒のローブの魔法使い、さらには翼の生えたアラビア風の剣士と、ジンを従えた黒い肌の美女、奇妙な靴を履いた少年に、光の剣を持ったフォースとか使いそうな黒いSF戦士、二丁拳銃の西部劇風ガンマン、和風の天狗と人狼。

 これにガイを入れて、十六人のエネルゲイアだ。

 様々なシステムから来てるな。

 そして、こいつらがみんな、ゲームシステムを使いこなして戦うと考えると、俺はなんだか嬉しくなって来てしまう。

 ゲーム大好きな奴が、これだけいるのだ。

 敵と味方に分かれてしまってはいるが、同好の士を目にした時は、なんとも言えぬ喜びを感じる。


「スタン。残念だ。できればお前と決着をつけたかったが、俺はここで死ぬわけにはいかん」


 ガイは高く跳躍すると、俺の対面に着地した。


「よって、俺たちの全力で、お前を世界の果てへと飛ばす。二度と戻って来られないようにな。万一、お前が戻ってきた時には……」


 飛ばす?


「俺たちの誰かがエンテレケイアに至り、お前を倒す!! 行くぞ!!」


 ガイの叫びを合図に、エネルゲイアが俺へと、一斉攻撃を仕掛けてきた。

 うひゃー、これは堪らん。

 攻撃してくる数が多くて、何をされてるのか把握しきれない。

 とりあえず、避けられるものをさけ、当たった攻撃はダメージ減少を使ったりし、あるいはカウンターでぶっ飛ばし……。


「さすがに数が多すぎる! ここは、シーン攻撃するか。行くぞお」


 戦士の特技、一騎当千である。

 俺が戦っていると認識する全ての対象に、同時に攻撃を加えるというなかなかトンデモな特技だ。

 こいつを使って、ちょっと状況を片付けようと画策したわけだ。

 しかし、ちょっとばかり遅かったようだ。


「ガイ、準備は終わった。奴が反撃に出る前に決めるぞ!」


「ああ! エネルゲイアの力を一つに!」


 十六人のエネルゲイアが、俺に向かって手をかざす。

 そこからは、十六色の光が飛び出して、俺の周囲を包み込む。


「うへー!」


 あっ、上から見覚えのあるヴァルキュリアが落っこちてきたぞ。

 キャッチする俺。


「何よあいつらー。いきなり量産型をたくさん呼んでるんじゃないわよー」


「お前もか! 何匹出てきたの」


「多分百体以上? 半分はぶっ壊したけど、多勢に無勢だわあ。お父様に封印された真・ヴァルキリージャベリンがないとだめね!」


「何それ。俺知らない。ルールブックに載ってなかった」


 呑気な会話をする俺たちの周囲で、光は猛烈な回転を始めている。

 これは、もしかして転移装置みたいなやつか?


「ゴール、強制移動ができる神技持ってたっけ?」


「あたしのは、絶対成功と追加行動と特技打ち消しと範囲ダメージ増加よ」


「そっかー。じゃあダメだなあ。対策立てないとな」


「なに、なにが起こってんの?」


「ちょっと遠くに飛ばされるらしい。よし」


 俺はガンバンテインを抜くと、ソフィがいるであろう方向にぶん投げた。


「ソフィ! ちょっと行ってくる! しばらくアゾットとガンバンテインで頑張ってくれ! あ、ガンバンテインを使いこなすにはクエストをこなす必要があって、多分これをクリアできればお前さんはグランドシーカーにだな……」


「スタンさん!?」


 ソフィの声が聞こえた気がした。

 そこで、俺たちの周囲は一瞬にして切り替わっていた。







 神州の城の光景ではない。

 頭上も、周囲も、足下も、一面の闇だ。

 そして、散りばめられた無数の細かな輝き。

 星空というやつだな。


「スターン」


「なんだね」


「宇宙に飛ばされたっぽいんだけど」


「そのようだ」


 ラグナロク・ウォーの世界の宇宙は、エーテルという物質で満たされている。

 エーテル宇宙だ。

 故に素質があればエーテルで呼吸ができるし、音や声だって伝わる。

 問題は、宇宙の只中に投げ出されてしまうと、自分がどこにいるのか分からなくなってしまうことだな。


 さて、当座の目的地も見当もつかないぞ。

 どうしたものか。


「あ、ちょっとスタン。なんか出てくるんだけど」


 ゴールが、何かに気付いた。

 それは、宇宙船だった。

 虹色の輝きに包まれ、今まさに俺たちの目の前に出現するところだ。

 ワープアウトというやつか。


 流線型をしたボディの、艦橋部分の目の前に、俺たちは浮かんでいた。

 環境の中から、サングラスをした男がじっと俺たちを見上げている。

 彼はマイクを取り、何かを話しだした。

 船外へ、彼の言葉が放たれる。


『こちらは、宇宙の運び屋、ミズガルズの希望号。お前ら、何者だ?』


 ミズガルズの希望号。

 宇宙へと舞台を広げた、ラグナロク・ウォーに登場する名物宇宙船だ。

 PCはこの船の乗組員となり、宇宙を股にかけた冒険を行う。


「どうやら、次の舞台はスペオペらしいな」


 俺は新たな冒険の予感に、ちょっとワクワクするのだった。



※第三のビール

 お安い。


※お前には勝てん。

 彼我の実力差を冷静に見極める、ゲーマーの目。


※十六人

 同じゲームから二人来ている場合もある。


※リップサービス

 ロールプレイヤーやGM経験者としてはよくやってしまう。


※シーン攻撃

 決まっていたらこの勝負が終わっていた可能性すらある、スタンが自重していた切り札の一つ。


※ミズガルズの希望号

 宇宙だけではなく、ミズガルズも駆ける宇宙船なのである。

 船長はゲーム中での名物NPC。


※スペオペ

 スペースオペラ。

 某スター☆ウォーズなど、宇宙を舞台にした活劇もの。

 一世を風靡したものである。

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