俺、クライマックス戦闘をよそに真のボスと対面する
ということで、ホイホイっと梯子を登って行くのだ。
天守閣に至るまでだから、結構な長さの梯子を登る。
ソフィは二回前の冒険では、まだまだ普通のお子さんで、こんな重労働できなかっただろう。
だが、今は平気な顔をしてどんどん先に行く。
「スタン、女の子が登ってるところ見上げちゃだめよ」
ということで、ゴールが梔子とソフィの間に入って俺の視界を遮っている。
ふむ、おかげでゴールのパンツが見える。
着物だもんなあ。
でも、俺この間、こいつのすっぽんぽんを見ているので、別にパンツを見てもなんとも思わないと言うかなんというか……いや待て、パンツは別腹だろ?
良い光景だ。
ゴールめ、あんな性格してるのになんて素晴らしい尻をしているのだ。
じっくりと眺める俺なのである。
「ほほほ、スタン、ソフィたちが見えないでしょ? こういう気遣いができる辺り、あたしが優れたヴァルキュリアであるという証明だわ」
「そうだなあそうだなあ」
上の空で返事をしつつ、頭上をガン見する俺。
無論、梯子はどんどん登っていく。
かなり堪能したところで、天守閣に到着である。
「ややっ、お前ら、一体どこから!!」
慌てた叫び声が聞こえた。
恰幅のいい、パフュームとボーダーの使い手がこちらを睨んでいる。
そして、彼の横にはもう一人。
黒のインバネスコートを纏った、実に怪しい外見の男がいる。
丸いレンズのサングラスを掛けており、漆黒のハンチング帽まで被っている。
「よし、みんな、あいつらは任せる。気をつけろ。あの黒い男は俺の見立てが正しければ……手下を作り出して襲ってくるぞ。ヴァンパイアという能力の持ち主でな」
「はい! がんばります!」
ソフィが胸の前で、両手をギュッと握って気合を入れた。
俗に言う、がんばるぞい、のポーズである。
あざと可愛い。
当然のごとくエリリンはぶっ倒れ、戦いの始まりを告げる。
現地の探索者たちと、ソフィの連合軍が、二人のキャンサーと戦い始めた。
インバネスコートの男、
「いでよ我がしもべ!! 赤き尖兵よ!」
とか叫んで、血の色をした、文字どおり血で作られた剣士を作り出す。
こいつは、この剣士に全てのアビリティを振っているようだ。
そして、ヴァンパイアとパフュームは共闘する姿勢を見せない。
なんだかなあ。
パーティプレイというものを知らないのか。
いや、現実に肉体を持ってセッションに望めば、案外みんなこんなものかも知れないな。
「本当に困るぜ。あいつら、いつまで経ってもシステムを使いこなしやがらねえ」
俺たちに、横合いから声がかけられた。
おいでなすったな。
ヴァンパイアとパフュームは、一瞬怯えたように動きを停め、俺たちの横を見た。
ソフィたちは、プレッシャーのようなものを感じたらしい。
一旦戦場から距離を取っている。
現れたのは、黒いヴァルキュリアを従えた男だ。
上半身はほぼ裸で、素肌に革のジャケット。
下はいわゆる、ボンタン姿。
「その格好……ヌエの能力者か」
「ご明察だ、ラグナロク・ウォーのエインヘリヤル。そういうお前は戦王だな?」
「その通り」
俺の後ろで、ゴールが変身を解く。
青い鎧を身に纏った、ヴァルキュリアの姿に戻ったのだ。
「いかにも。俺の名はスタン。お前がエネルゲイアか。なるほど、デュミナスたちとは感じる圧力が段違いだな」
「その通り、俺は外王劾。ガイと呼んでくれ。ははは、圧倒的力を持ちながらも、対話で相手の実力を推し量る。その慎重さ、まさしくベテランプレイヤーだな。スタンよ。俺は貴様にエモーションを取る」
「なにっ!!」
こいつ、システムを使いこなしている……!
「そしてそっちのヴァルキュリアがとてもエロいので、エモーションを取る」
「いやーん」
おっ、ちょっとゴールが嬉しそうだぞ。
「どこかのエインヘリヤルは、あたしのこと全く女扱いしてくれなくてさー。いやー、どこかのへっぽこ戦王にも見習って欲しいわあ」
「おま! いいか、セッションは健全なものだから、エッチなのはいかんのだぞ」
「はあ? ここは現実世界なの! いつまでTRPG気分引きずってるのよ! 男なら据え膳を食え!」
「黒いヴァルキュリア瞬殺する女を見てムラムラしろという方が無理があるだろう! お前、どっちかというとエロいよりかっけえ、の方だからな!」
「えっ!? あ、あたしがかっこいい!? いやあ、それはそれで……」
満更でもない顔をするゴール。
俺たちがやり取りをしているのを見て、向こう側ではデュミナスと誅魔一行が、どうやら勝手に戦ってていいのだと判断したようだ。
戦闘が再開される。
ちなみに、向こうの戦場と俺たちの間に、ちょうどエリリンがぶっ倒れているのだが。
まあいいか。
エリリンが境界線だな。
「ガイ、そろそろ始めた方が……。馴れ合いはちょっと」
あいつ、黒いヴァルキュリアにたしなめられている。
向こうは真面目なんだな。
「スタン、一応気をつけておいて。この間湖王国で戦ったヴァルキュリアは量産型だったけど、あれ、一応量産型の最上位機種だから。デュミナスよりは強いわよ」
「ほう、了解した」
では、俺も装いをもとに戻すべきだろう。
本気モードだ。
キャラクターシートを召喚し、外見欄に書き込んでいた甲冑姿という表記を消す。
すると、俺はもとのスタンに戻った。
まだ鎧は手に入れていないので、村人の服を着て、右手に対魔の棍棒ガンバンテイン、左手には大鮫の矛を装備した状態だ。
「それがお前の姿か……。この時代に細マッチョじゃなく、ガッチリ筋肉のついた体型を選んでいるとはな。気に入ったぜ!」
ガイは、鋭く尖った歯を見せて笑う。
こいつも外見はガチムチだからな。
「俺も本気で行かせてもらうぜ! おおおっ! 獣身変!!」
ガイの全身が、一回り膨れ上がった。
肌の色が赤く変わり、両腕から刃物のように鋭い鱗が飛び出す。
髪は逆だって針のようになり、だぶっとしていた下半身のボンタンが、パンパンに張った。
「ひゃーっ! なんていうか、今までの奴らと比べてやばさが段違いなんだけど。あれ、下手な異貌の小神より強いわよ」
「そりゃ当たり前だろう。システムを使いこなしている相手だぞ。こちらも気合を入れて挑まなきゃならん」
ゴールに返事をして、俺は身構えた。
「変身が完全に終わるまで待ってくれるとは……。貴様、分かってるな」
「そう言うお約束は大事にする主義でな」
「感謝する。では、行くぞっ!!」
「応っ!!」
ガイが床を蹴り上げながら、突っ込んできた。
俺もまた、奴を目掛けて突っ込む。
互いの足元にあった畳が爆散し、天守閣が大きく揺らいだ。
そして衝突。
真っ向から、ガイと俺の攻撃がぶつかり合った。
ほう!!
ゲームでは、どちらかが攻撃して回避して、という順番にならざるを得ない。
相殺や拮抗は、特技などによって再現するのが一般的だ。
だが、やはりこちらはTRPGに酷似しているとは言っても、現実の世界なのだ。
今こうして、俺とガイの攻撃は拮抗している。
「ヌエの突進を受け止めるとは! 帝国の大船を一撃でひっくり返す勢いをだぞ! 貴様、化け物だな!」
「いやいや、小神を一撃で殴り倒す俺の攻撃を受け止めるとは、お前もかなり凄いぞ!」
互いにリスペクトし合いながら、ゼロ距離での殴り合いを始める。
ガイの爪が、俺の矛がぶつかり、衝撃波が周囲に走る。
ガイが蹴り上げた畳が俺に向けて飛来し、これはガンバンテインで真っ向から粉砕する。
隙を突いて繰り出されてきたガイの頭突き。
こいつは、俺も額で受け止めねばな!
連続して走る衝撃波に、天守閣はどんどん崩れていった。
天井が割れ、屋根が吹き飛び、柱はへし折れ、やがて建造物が崩れていく。
俺たちの脇では、二人のヴァルキュリアが戦いを開始したようだ。
黒いヴァルキュリアが、空の上から降り注ぐ光の雨をゴールに叩きつけている。
人工衛星を使ってるんだな。
で、こいつは槍を振り回して跳ね返すゴール。
うん、この女はやっぱり異常だ。
なんで回転する槍で光を防げるんだ。
かくして城は粉々になって崩れていき、戦闘が拡大していくのだ。
※パンツ
スタンだって男の子である。
※黒のインバネスコート
筆者はコンベンションに行った時、本当にこの姿をした参加者を見たことがある。
三◯清宗氏だった可能性が高い(
※パーティプレイを知らない
デュミナスはもうアレもんでアレである。
※ヌエ
パンデミックチルドレンの、前衛オブ前衛クラス。
肉体を獣に変えて、超絶的な身体能力で敵を叩き潰す分かりやすい戦闘スタイルだ。
※エモーションを取る
対象に感情を動かされた、という宣言でもある。
厨二病的な心根が強いと、ここで心を動かされるのは負けた気がして取らない、みたいなのがある。デュミナスたちがこのシステムを使いこなせなかったのは、ここである。
自己愛が強すぎたのだ。
その点、ガイは大人である。
※量産型の最上位機種
ジムに対するジムスナイパーカスタムくらいの立ち位置。




