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ゴッドスレイヤー・俺  TRPGで育て上げた神殺しの戦士、異世界でも超強い  作者: あけちともあき
3,5.ミドルフェイズ:シナリオ『神州に暗躍する影を討て』
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英雄の弟子、囚われた城の人々を助け出し、天守閣へ

「この壁、怪しいな」


 又佐は、壁に感じたかすかな違和感を捨て置けず、指先で触れてみる。

 罠の気配はない。

 むしろこれは、仕掛け扉の類か。


「忍者の感知能力……という風に見えるだろ? あれはな、実は又佐はスカウトが基本職業だから、スカウトの能力で感知してるんだ。なかなかこういうビルドは珍しいんだが、忍者っぽいムーブをするにはこのビルドが必要なんだよな」


「またスタンが語りだしたわ。でもつまり、あの忍者は忍術を使うけど、肉体系もいけるってことね」


「そういうことだな!」


 又佐はこれをスルーする技を覚えたので、反応しない。


「人の気配がある」


「囚われていた、もとの住人かも知れませんね」


「あ、回復魔法装備しておきます!」


 ソフィが後方で、何かごそごそ作業を始めた。

 又佐からすると、若年ながらしっかりしている彼女なら、やりたいようにさせるのが一番いいだろうという判断になる。


 仕掛け扉を開けると、その中からは異様な匂いのする煙が漏れてきている。


「これは……痺れ香の煙だ! 皆、吸うなよ!」


 仲間たちに告げつつ、又佐はしばらく、扉を開けたままにした。

 ようやく、煙が薄くなった頃合いで部屋の中へと踏み込んでいく。

 そこには、何人もの人間が手足を縛られ、転がされていた。

 元々は奥座敷であったらしい。

 襖を塗り込め、唯一の入り口を隠し扉にして、外からは見えないようにしていたのだ。


「手の込んだことをする……。こうして城主たちを一箇所に閉じ込めて、成り代わっていたのだな」


 倒れている者たちは、長い間痺れ香を吸っていたため、身動きができないでいる。


「これはパフュームのフレーバーアビリティで……」


 スタンの話はスルー。


「ということでソフィ。回復魔法のキュアで治せるはずだ」


「はい! 範囲拡大……キュア!」


 ソフィが手にした、不思議な形の短剣が光り輝く。

 すると、彼女を中心として、目に見えぬ波動が広がっていった。

 波動が当たった人々が、目を覚ましていく。


「さて……ここで、話が聞けるといいが」


「そちらは私が行いましょう。人の心を開くのは、巫女が得意とするところですから」


「餅は餅屋と言うからな」


 他人の領分は侵さない又佐である。

 刃五郎は見張りを申し出て、扉の外に立つ。


「刃五郎、ここにエリリンを置いていくから、彼女が倒れたら敵が来たということだ」


「なんで私をアイテムみたいに使ってるんですか!?」


「ふむ、便利なのだな、会留府は……」


「便利じゃないからー!」


 そのようなやり取りが外から聞こえる。




「事情を把握しました。異変は、ひと月前頃から。突然現れた、異様な風体の一団がこの城を乗っ取ったようですね。ここにいる彼らは、城主と魔の者に従うことを良しとしなかった者たちです。ここにいない者は、魔の者に従うことにしたそうです。それから」


 梔子は声をひそめた。


「魔の者たちは天守閣にいるそうですが、正門は彼らが従えている、あやかしの兵士によって固められているとか。ただ、代々天守閣には抜け道が存在します」


「ほう……。それは、敵も知っているのか?」


 又佐の問いに、首を横にふる梔子。


「知らせてはいなかったそうですね。彼らには、私たちが誅魔であることを告げました。手を貸して下さると」


「よし……!」


 一見して寄り道にみえるような人助けだが、それが命題を果たすため、思わぬ助けになることもある。

 

「抜け道か! いいな、それ! 脇道に感じる、ダンジョンの仕掛けをクリアしたらご褒美がある。鉄板だよなあ!」


 スタンはいつも通り大喜び。

 そして、ソフィにしろ、梔子にしろ、人助けを優先して文句を言う人間ではない。

 刃五郎はそもそも何も考えていない。

 ということで……。


「まさか、あの書物の部屋に地下へと続く入り口があったとは……。資料を収めているゆえ、魔の者も手を出せなかったのであろうな」


 部屋の中心にある、文机を外し、畳をひっくり返すとその下に梯子がある。


「行くぞ」


「待て。こんな時のためのエリリンだ」


「ひえっ! エインヘリヤルが私の襟首を掴んで穴の中に!」


 スタンがエリリンを、穴の中に放り込む。


「ぎゃーっ!! いてーっ!! お尻を打ったー!」


「よし、大丈夫だ。中には、少なくともデュミナスクラスの敵はいない」


「便利なものだ……」


 一同、深く感心する。 

 唯一ソフィだけ、「ちょっとかわいそうかも」と呟くのだった。

 パーティの良心である。


 抜け道は一本道。

 屋敷の地下を通り、天守閣へと一直線だ。

 ソフィがエリリンの尻に回復魔法を掛けた後、一行は抜け道を進んでいく。


「どれだけ進んだのか分からないな」


「ん? あたし分かるよ。ヴァルキュリアはそれぞれ、星の外に繋がる人工衛星を持ってるのよね。下手に使うとこないだの量産型姉妹に見つかるかもって思ったから使ってないんだけど、使う?」


「んー、いらんだろう。今回、デュミナスがわんさか出てきてるだろ? それから情報収集でエネルゲイアの名前が出てきた。ってことは出てくるだろ、展開的に。そのクラスのやつがどこまでやるのか分からん。念の為にここは不便を享受してだな。必勝を期してかかろうじゃないか」


「スタンの癖に慎重ねえ」


「システムを使いこなしてない奴には負けんよ。だが、パンデミック・チルドレンのシステムを使いこなしたPCが弱いわけないだろう。そんなのがエネルゲイアで出てきたら、油断はできないぞ。同じシステムならともかく、別のシステムなら、何が起こってもおかしくない」


「へえ……あんた、能力に溺れるだけのバカじゃなかったのね。やっぱ、あたしの目は確かなんじゃん」


「人事を尽くして天命を待つって言うだろ? レベルマックスだけじゃまだ人事は尽くしてないだろ。雑魚が続いたら、より強力な敵が出てくるのはパターンだ。しかも、デュミナス大量発生は、言わばボスラッシュ。本ボスが出てくるのは間違いない」


「っていうことは、もしかしてヴァルハラで何が起こったか、分かる機会がくるかも? 未だに通信とか全然できないし。ま、父上からあたし勘当されてるんだけど」


「オーディンから勘当とか何やってるんだお前。っていうかよく生きてるな……。ま、こいつは現地のPCにとっては大事件で、俺たちにとっては情報収集イベントってことだ。軽く気を引き締めてかかるぞ」


「ほいほい」


 一行の後ろで、エインヘリヤルとヴァルキュリアが交わしたそんな話は、いつものように聞き流されているのだった。

※痺れ香

 フレーバーアビリティ。

 つまり、ロールプレイパートで使用できる能力のこと。

 シーンが変わるまでは効果が持続するため、この空間を切り取って永遠に一つのシーンが続く状態にし、アビリティの効果を持続させている。


※エリリン

 便利


※人工衛星

 ヴァルハラとミズガルズの間にある、ヴァルキュリアたちの中継所。

 そこに彼女たちの武器が収められており、戦闘時には武器が転送されてくる。

 衛星そのものを宇宙船のように用いることもできる。


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