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俺、村に橋を架ける

 子供の喧嘩……いや、戦いは一時間にも及んだだろうか!


「せいぜい五分だわ……。ってか、素っ裸のくせにアホみたいに硬いやつねあんた」


 俺もゴールも、特技を使うのも忘れて素で殴り合って、今は共に大の字になってぶっ倒れている。

 いやあ、この女、平気で槍を使ってくるとは思わなかった!

 ヴァルキュリアの槍ともなると、俺の素の防護点を抜けてくるんだな!

 俺が倒れているのは、とりあえず気持ちよく汗をかいたからである。

 おお、吹き抜けていく風が心地良い。


「あ、あのお……お話をして良いでしょうか」


 恐る恐る、という感じで、村長らしき中年男性が話しかけてきた。


「いいですよ。どうぞどうぞ」


 俺は半身を起こしてにこやかに答える。

 年上っぽい人には、とりあえず敬語を使うのだ。

 しかし彼らは、どうしてこんなに怯えているのか。


「あー、暴れた暴れた……。あたし、姉妹の中でも腕っぷしだけは最強を自負してるんだけど、まさか渡り合えるエインヘリヤルがいるとはねえ。すっかりこの辺の地形も変わっちゃったねえ! もうこれ、谷だわ、谷!」

「そのう……村の前に断崖絶壁ができてしまったので、今後とても出入りに苦労するのですが」


 俺は振り返る。

 そこには、俺とゴールが全力で子供の喧嘩をした結果、大地は裂けて深く抉れ、地下水が溢れ出して奥底を満たしている。

 深さは、うーん、50メートルくらいじゃないかな?


「分かった。今橋をかけよう」


 俺はにこやかに対策を提案した。

 針葉樹林の方に向かってひとっ走りし、大きい木を引っこ抜く。

 これを持ってきて、手刀で割って真っ二つにし、並べて崖に架けた。

 そして、谷の両端の木を踏みつけて地面に埋め込み、外れないようにする。


「よし!」

「あっ、仕事が早い!!」


 村人たちが驚愕した。

 俺は、早く済ませられる仕事は可能な限りさっさと終える主義なのだ。

 村人の依頼を十分ほどで終えた俺。


「橋は架け終わった。君たちの願いはこれで全部かね?」

「あ、いや、その。マキナ帝国に手を出してしまったので、この村に帝国の手が差し向けられるかもしれんのです」


 村長は青い顔をして言った。


「あれは東の凍土に巨大な帝国を築く者たちです。異界からやって来た異形の神、デウス・エクス・マキナを信奉し、世界を機械化しようとしておるのです。我々はこうして、静かに息を潜めて暮らしていたのですが、それももう終わりかも知れません」


 村長の隣に立つソフィの顔色も悪い。

 すると、村の方からソフィに、


「お前が余計なことをするから」

「あのまま森で殺されていればこんな事にならなかったんだ」


 なんて凄い罵声が飛んでくるではないか。

 俺はびっくりした。


「おいおい、待て待て。殺されそうになったら死なないように必死になるのが人間だろう。それともあれか? 殺されそうになった瞬間に、“私がここで殺されてしまえば村に兵士が行くことも無くなり、今後ある程度の時間を村は平和に過ごせるに違いない。つまり最適解は私がここで抵抗せず兵士に殺されること。 Q.E.D.”とか冷静に考えて、スッと心を無にして殺されろって言うのか? そう出来る者だけが彼女に向かって石を投げなさい……」


 思わず反論すると、罵声を飛ばした村人は真っ白な顔になって、ぽかんとしている。

 俺、途中から冷静になってスタンの口調になったけどな。

 危ない危ない。カッとなると、素で喋ってしまう。

 とにかく、俺は重々しく頷いた。


「できないよな? 自分ができないことを、人に軽々しくやれと言っちゃいけないぞ。いいかな?」

「はい……」

「あいつ、全裸に説教されたぜ」

「全裸に論破されてやんの」


 罵声を飛ばした奴が、周りの村人から後ろ指を差されているようだ。


「待て待て。集団の中で弱くなった者がいるから、それをみんなで攻撃して“わたくしたちは違う考えでござい”ってのは通じないからな。みんな同じようなもんだからな! それともあれか? 後ろ指を差す連中は自分こそ絶対正義で生まれたときから一度も過ちを犯したことが無いとか胸を張って言えてもうそれこそ聖人君子なみの正しさだと自負してるわけか? そうだと自負した者だけが、彼に向かって石を投げなさい……」

「あっ」

「この全裸めんどくさい」

「なんでお説教の最後で必ず悟ったような顔してるの」


 村人もシーンと押し黙った。

 ゴールがこれを見て、感心したようだ。


「はえー、すっごい。スタン、口プロレスでもエインヘリヤル級ね」

「ネットでの罵り合いで鍛えられているからな。無理筋から攻めて、最後は論点をすり替えてドンよ」


 俺がドヤ顔をすると、ゴールもドヤ顔をした。


「ま、それでこそあたしが見つけたエインヘリヤル。あんたがやった成果は実質あたしの手柄よ」

「胸を張ってクソみたいなことを言うヴァルキュリアだな。だが、明らかにゴールに裏表が無いことだけは分かった。仲直りだ」


 俺が手を出しだすと、ゴールもまた手を差し出した。

 歴史的瞬間、シェイクハンドである。


「あ、あのぉー」


 今度はソフィが声を掛けてきた。

 なんだなんだ。


「その、で、ですね。そちらの全裸の人もヴァルキュリアの人もとても強いみたいなので、私たちの村を帝国から守ってもらえたらなーって……あっ、虫のいいお願いですよねごめんなさい暴れないで下さい」


 それが本題だったのか。

 早く言えばいいのに。

※ヴァルキュリアの槍

 刺さればしぬ。

 スタンはおかしい。


※面倒くさい全裸

 好き好んで北欧で全裸でいる者が面倒くさくないはずがない。

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