英雄の弟子、侵略者の痕跡を発見する
デュミナスを打ち破った一行。
そのまま、屋敷内を探索することにした。
「若干ですが、消耗があります。休める場所があればいいのですが……」
梔子が言うと、スタンが同意した。
「そうだな。最後の情報収集をしつつ、家タイプのアイテムを使って回復するのがいいだろう。梔子は多分、回復型の家を持ってるだろ?」
「細かな言い回しが不可思議ですけれど、確かに社を持ち歩いています。よくお分かりになりましたね」
「巫女なのに回復手段を捨てているということは、シーンの外や情報収集フェイズで回復するつもりかなとあたりをつけただけだ。本当に前のめりな巫女のビルドなんだな……。じゃあ、この屋敷のどこかに、事件の真相が隠されている部屋があるはずだ。で、そこならばしっかり休めるぞ」
又佐は、スタンの助が放つ言葉の詳細は聞き流すようにしていた。
この男の言葉は、意味不明な単語が混じる。
だが、そこには必ず重要なヒントが隠されているのである。
消耗を回復するための社を、梔子が持っている。
今回はこれで充分だ。
たとえスタンの助が、「情報収集シーンで戦闘までやらせると、演出過多になって情報の重要性が伝わりづらくなるんだよ。だから情報収集シーンでは逆にじっくり休めるわけだ」
などと、霧亜に説明していたとしても。
聞き流せ、聞き流すのだ又佐。
彼は自分に言い聞かせる。
なんだ、なんなんだその意味の分からない法則は。
「……はっ!? わ、私寝てました!? 敵の本拠地で寝てた!? そんなまさか! ははははは」
会留府が目覚めたようだ。
大変やかましい。
だが、彼女が気絶すると魔の者たちが現れるようなので、これはこれで大変有用な人材である。
邪険にはできない。
「会留府よ。お前は戦闘では役に立たんが、物を探したりはできるのではないか?」
会留府なのだから、炭鉱のカナリヤしかできない訳がない。
そう思った又佐は、彼女、エリリンに聞いてみた。
すると、我が意を得たりと満面の笑みで頷く会留府。
「おほほ、まっかせなさい。私、こう見えてグランドシーカーだからね。こらスタンの助! NPCとか言うなーっ! おほん。いいでしょう。身につけた多彩な魔法で、見事手がかりへとたどり着いてみせましょう」
エリリンはそう告げると、一同の前に歩み出て目を閉じる。
何か魔法を使うのかと思いきや。
「うーん、こっち」
右前方を指差した。
魔法を使った気配はない。
「なんだ……?」
「ああ、聞いたことがあります。会留府は、神通力を使えるそうです。鬼と同じですが、鬼は肉体を強化する神通力。会留府は精神を強化する神通力を使うのです」
梔子の解説が入った。
巫女は鬼と戦うこともあれば、共闘することもある。
互いに神秘に親しい存在だから、お互いのことをよく知っているのだ。
「会留府の神通力には、天と繋がり、真実を知る、というものがあると聞きます。あれはその類の技でしょう。まさに魔の技、魔法です」
「当てずっぽうにしか見えない……」
又佐はちょっと納得できないものを感じるのだった。
何しろ、エリリンという女会留府、今までの行動がよろしくない。
「割とそう見える特技は多いと思います。私の特技も、見た目じゃわからないですし」
そう、エリリンをフォローするソフィ。
目には見えないソフィの特技で、サポートされた経験がある又佐は、それで何も言えなくなる。
見えるものだけを信じるのでは、只の人と同じだ。
ここは、会留府を信じるとしよう。
エリリンが指し示した方角に向かうと、そこはちょうど、柱と柱が組み合わさり、塞がれているようになっていた。
一見して行き止まり。
「刃五郎、ここを切ってみるんだ」
スタンの助が行き止まりを指差す。
「よかろう……。いぇぁぁぁああああっ!!」
裂帛の気合とともに、刃五郎はその空間に刃を叩き込んだ。
大上段からの一撃である。
すると、当たった場所から空間が裂けた。
柱が集まった場所としか見えなかったものが、別の場所への入口となる。
「これは……」
「あのデュミナスたちが作った隔離空間だな。ルール的にはボーダーの能力で処理されるが、まあそれはいい。早く入って回復しよう」
スタンに促され、一同はその空間へと入り込んだ。
出口側にはスタンの助が残り、見張りを担当する。
「ここは……書庫か」
又佐の視界いっぱいに、積み上げられた本の山が映る。
「ええと……本から魔力を感じます」
ソフィが何かの魔法を使った後、そう告げた。
魔力とやらを感じ取ったらしい。
彼女が、何冊かの本を抜き出してくる。
それらは傍目から見ても、青白く輝き、ただの本とは思えない。
「では、私は社を設置します」
「ああ、頼む。俺は本を調べるとしよう」
又佐はそのうちの一冊を手に取った。
開くと、そこには大きく崩されてはいるものの、神州の文字が記されている。
使われている文法、単語などは、よく分からないものが多い。
「又佐さん、翻訳の魔法を使います。それで読めるようになると思いますから」
「ああ、助かる……! ソフィは何にでも備えてあるのだな」
「はい! あの、こういう地味な魔法ほど、ピンポイントで刺さるシーンがあるから、経験点で獲得できるなら取得しておこうって、スタンさんが」
スタンの助のアドバイスらしい。
あの鎧武者は本当に、何者なのだろう。
文字を読めるようになった又佐。
ページをめくり、読み進めていく。
そこにあった記述は、端的に言うならば……侵略の計画書だった。
「外国との入り口である居留区、そしてそこと繋がっている国を支配する。入り込んでくる唐人を己の手駒とし、神州、外国を内側から侵食していくということか……」
操られていた人々のことを思い出す。
あれは、どうみても正気ではなかった。
誰が見ても、おかしくなっていたことが分かってしまうだろう。
そんな雑な人心操作の術で、国を支配する……?
又佐には、これが悪い冗談にしか思えなかった。
「あとは……読めるようになっても分からない表記だな。でゅみなす……。そして、えねるげいあ、とやらが一人来ているだと?」
「ほう」
スタンの助が興味を示したようだ。
「デュミナスは、低レベルのキャラには脅威だが、刃五郎クラスなら準備が整っていれば充分に倒せる程度だ。つまり、敵の下級幹部だな」
デュミナスと言うのが、自分たちが戦ってきた魔の者たちである、とスタンは説明する。
「俺が倒したデュミナスが、エネルゲイアとか言っていたことがある。奴らの上に位置するのがエネルゲイアという存在なんだろう。でも、アリストレレスの哲学に照らし合わせると、もう一つ、エンテレケイアってのがいるはずなんだが。中級、上級幹部と思っていいのかしら」
「スタンの助ー。脇道それてる!」
「おお、すまんすまん! つまりだな、君たちが今まで戦った敵より、もっと強いのが来ている」
実に分かりやすくまとめてきた。
だが、その説明に、一同は戦慄する。
魔の者よりも強い存在。
それは、どれだけの力を持った敵だというのか。
下級と言われたデュミナスですら、この国一つを混乱に陥れる力を持っている。
だが、彼らの中で、ソフィだけは余裕の表情だ。
「スタンさんが相手をするんでしょう? 強すぎる相手とかは、いつもやっつけてくれてましたもん」
「そういうことだ。君たちの相手はあくまでデュミナス。ちょっとバランス的におかしい敵は、俺の担当だ」
スタンの助は、胸を叩いて、任せろと言う仕草をしてみせる。
「そうよね。つまり、この世界の人間じゃ手に負えないのを相手にするために、こいつがいるわけよ。多分、あたしがこいつを連れてきたのも、案外そう言う宿命だったのかもねえ」
霧亜がけらけらと笑った。
エリリンも二人の真似をして笑っているが、これは多分、状況を何も分かっていないだけであろう。
※家タイプのアイテム
その中にいると、回復判定にボーナスがあったり、自然に回復したりする。
そう、持ち歩ける家があるのです。
※情報収集フェイズ
ここで戦闘を起こして、戦って情報を得たりする変形パターンもあるぞ!
※うーん、こっち
信用度ゼロである。
※エネルゲイア、エンテレケイア
何か強そうなのが出てくる気配。




