英雄の弟子、城攻めを考える
彼らが見上げる先に、この地の城がある。
幾つも、丘を連ねたような坂道が多い国だ。
この国の城は、自然とそれらの丘が集う中心になる。
すなわち、最も高い場所である。
「これは、なかなか突入のしがいがある」
侍、暮撫刃五郎は不敵に笑った。
だが、もはや又佐は騙されない。この男、ポーズだけで中身は何も考えていないのだ。
実にそれっぽい外見と、たちの悪いことに態度に見合った並外れた剣の腕があるため、相手が勝手に勘違いするのである。
実際、別行動を取った際にも、行動指示をしていたのは巫女の梔子だったという。
「少しはソフィを見習って欲しいものだ。年端も行かぬ娘が、自ら考えて動いているというのに。あれは剣を振って敵を倒すことしか考えておらぬな」
それはそれで使いようがあるのだが。
「うむ。戦闘特化型のキャラはな、あれはあれで助かるんだ。今回のような規格外の相手がいる場合、刃五郎のような奴がいて丁度いいかも知れないな」
スタンの助の語りに、納得する又佐。
確かに、今回の敵は尋常ではない。
一見して人間ではあるのだが、人心を操る奇怪な能力と、焼いても穿っても死なない不死性。
高位のあやかしであろうというのが、又佐の見立てである。
「私もその点は同感ですね。あのあやかしは、少々たちが悪いです。ですが、刃五郎様は楽しそうでしたね」
「なるほど、戦闘狂……」
又佐が刃五郎を見ると、ニヤニヤと一人で笑っている。
何やら口が動いている。
唇を読むと、
「うわ、今の拙者、かなりかっこいいのでは? 城攻めとか夢でござったなあ。剣術指南役では、城を攻めることもできぬし、何より今は平和な時代。戦国に憧れておったがこのような形で叶うとは……。誅魔に選ばれて良かった……! そして、そうなるためにひたすら剣の修業に邁進して良かった……。拙者の仲間、平和な時代に剣を選ぶなんてお主は阿呆じゃのう、とか言ってみんな政治や経済の方に行ってしまったからなあ」
凄い早口だ。
「相当歪んでおるなあやつ」
「ええ。ですけれど、私は彼のような方は嫌いではありません。自分が格好良く刀を振るい、敵を倒す。それだけに特化した方だからこそ、頼りになりますし、その一途な姿勢には好感が持てます」
「ほう……」
「実際、彼の戦いぶりを見れば、又佐殿も理解できると思います」
怖いような、楽しみなような。
「あ、あのー、皆さん。これからどうやって潜入するかっていう話ですよね?」
話が脇道に逸れているところで、ソフィがおずおずと突っ込みを入れてきた。
ハッとする又佐と梔子。
「すまぬ、ソフィ殿」
「ついつい、目的を忘れてました」
そんな彼らの横では、スタンの助がうんうんと頷いている。
「あるある。セッション中でも、雑談に夢中になって脇道に逸れちゃったりするんだよな」
「っていうかスタンの助、これはセッションじゃないから脇道逸れると問題なんじゃない?」
「あ、あのー。私はどうしたらいいんでしょうかー」
「あ、エリリンはお留守番な。お前さん、ワールディングで無力化するだろ。さっきの町中でも無力化していたらしいじゃないか」
「ぐぬぬ……」
「ということでだ。突入作戦は任せてもいいか、又佐」
「ああ。任せておけ」
この程度の城、入り込むのは容易い。
何より、内に魔の者を何人も抱え込んでいるためか、警備の手が薄い。
門番に立っている者も目に生気はなく、操られていることが丸わかりだ。
「かと言って正面からは入れまい。しばし待て。既に調べてあるのだが、そろそろやってくるものがある」
「やってくるもの?」
ソフィが首を傾げた。
「まあ、見ていよ」
静かにするように、又佐が指示する。
やがて、がらがらという音が響いてきた。
「城の中に食材を運び込む車だ。近頃、城主が美食に目覚めたとかでな。高給な食材を次々に買い込んでいる」
「すごい! いつの間に調べたんですか」
ソフィが目を輝かせる。
「茶店でもどこでも、ちょっとした日常的な話の中に、示唆が紛れているものだ。特に、城主の元に敵がいるとなれば、たかが噂でも集めていけば正確になっていく。さて」
ぶらり、と又佐が荷馬車の前に出た。
「うおっ! あぶねえな!」
荷馬車を引いていた男が驚き、馬を止まらせる。
「いきなり出てくるなよ!」
「へへっ、済みませんねえ。ところで旦那、随分美味そうなもんを積み込んでますけど、こいつは一体?」
「あ、ああこれな。城主様が美味いもんをどんどん持ってこいって言っててなあ」
男と話しているうちに、又佐が後手に指示する。
すると、荷馬に音もなく乗り込んでいく者たちがいた。
いや、音はしているのだが、
「おっと! 荷物が!」
又佐が背負っていた薬箱を落とした。
がらがらと音がする。
「おいおい、大丈夫かよ……」
男が驚き、薬を回収する手伝いをし始めた。
又佐は男の肩越しに、仲間たちが乗り込み終わったのを確認する。
そして手早く薬を回収した。
「いや、済みませんね! じゃあ、あっしはこれで……」
へこへこ頭を下げながら、去っていく又佐だった。
荷馬車はその後、ゆっくりと城門をくぐっていく。
荷物を検める事もない。
ぼーっとした顔の門番たちは、そのまま車を素通りさせてしまう。
「やはりか」
これを確認した又佐、音もなく壁を駆け上がった。
着地すると、素早く荷馬車に駆け寄り……。
「ふっ」
懐から取り出した吹き矢で、馬引きの男に痺れ矢を打ち込む。
「うっ」
倒れる男。
「今だ、出ろ!」
食材の下から、仲間たちが飛び出してきた。
「あっ、なんでエリリンがいるんだ」
「えへへ、つい……」
留守番を言い渡されていた会留府までいる。
だが、とりあえず侵入は成功と言ってよかろう。
城の守りは極めて手薄。
だがそれはつまり、敵に侵入されたとしても気に留めないという、この地に巣食う者たちの自信を現しているように思えた。
※戦闘特化型
優秀なアタッカーである。
これをサポートすることで、パーティの対ボス戦力となる。
※彼の戦いぶり
乞うご期待。
※ぶらり、と
又佐の本領発揮。
忍者はこの辺の器用さが肝なのだ。




