英雄の弟子、忍者とともに遭遇戦をする
恰幅の良い男は、空中で手をひらひらとさせる。
すると、そこから黄色いモヤのようなものが生まれた。
「これは……!」
危険を感じ、又佐は回避の体勢に入るが、モヤは後を追ってくる。
どうあっても避けることができないようだ。
かすかに、刺激臭がした。
「又佐さん!」
モヤが又佐とぶつかりあった瞬間、彼とモヤの間に光の壁が生まれた。
又佐は身体に、揺さぶられるような衝撃を感じるが、大したダメージはない。
「たぶん、これは魔法です! 今、ダメージを軽減しました!」
「魔法……! 唐人が使う忍術や神術、陰陽術というわけか。ソフィ、感謝する!」
これを見て、恰幅の良い男は驚いたようだ。
「おいおい! エネミーだってのに、俺のコンボに耐えるのかよ! いきなりそんな能力がある敵が出てくるのはダメだろ!」
勝手なことを喚きながら、彼はまた空中で手のひらを舞わせた。
「戻ってこい、俺の肉壁ども! こいつらを取り囲め!!」
生まれるのは青いモヤ。
モヤは生臭く、又佐とソフィを超えて、スタンが今まさに戦っているであろう場所へ向かう。
「あれはまさか……操った町人を呼び寄せようというのか!」
「正解! こう言う時、あいつらを盾にすればお前ら身動きが取れなくなるだろ?」
「させん! ふんっ!」
又佐は素早く、眼前で印を結んだ。
手のひらを組み合わせることで、導引と呼ばれる呪文詠唱代わりのアクションになる。
これを忍者は印と呼び、連続して行うことで特定の忍術を発動させるのだ。
「火遁の術!」
又佐の口から、炎の吐息が生み出された。
それが恰幅のいい男へと向かい、ぶち当たる。
「ひょえーっ!? 熱い、熱い!! なんだよこれ、全然回避できないじゃんか!」
炎に巻かれ、恰幅の良い男は慌てた。
少なからぬダメージを与えたように思う。
さては、大した相手ではないのか、と又佐は訝しく思った。
だが、男が負った火傷は、あっという間に消滅してしまう。
「何っ!?」
「ふっふっふ、傷をね、結界に包んで隔離したんだよ。ボーダーのアビリティさ。ほんとにこれは使う機会が無いほうが良かったんだが、役に立つわ。あと、やっぱ前衛連れてこなきゃだめだな」
ぶつぶつ言う男。
そして彼は、じろりと又佐を睨み、すぐに視線をソフィに向けた。
「セオリーはサポート役から潰さないとな! 日本みたいな世界に外人の娘って珍しいし、ちょっと可愛いけど背に腹は変えられないからな! あと、俺はボンキュッボンが好きなんだよ! 死ねえ!」
男が両手を掲げて、踊るように身体をくねらせる。
すると、彼の足下に光の輪が生まれ、これがソフィ目掛けて走った。
「な、なにこれ!?」
慌てて下がるソフィだが、恰幅の良い男が使う能力……アビリティは、基本的に回避ができないものらしい。
ソフィを追尾し、光の輪は彼女を包み込んだ。
「くうっ……!」
何らかのダメージを受けたのか、ソフィが膝を突く。
「エロッッッ!? 今の喘ぎ声やべえ!」
男は興奮した。
「下衆が! ソフィ、下がれ! こいつは俺が……」
「男はお呼びじゃないんだよ! おらっ、俺がこの娘をNTRするからお前はそこで突っ伏してろ!」
恰幅の良い男が足を踏み鳴らすと、そこにまた光の輪が生まれた。
これに、彼の手から生まれた黄色いモヤが合わさり、又佐を襲う。
「こ……これは! ぐぬううっ!!」
又佐を襲ったのは、強烈な脱力感である。
さらに、全身を刺すような痛みが走る。
今まで経験したことがない類の攻撃だ。
それでも、忍者は精神力だけで立ち続ける。
「このような攻撃で……俺はまだやられん!!」
「ははは、かっこいいなあ、おい! 俺、そういうイケメンみたいな行動めちゃくちゃ嫌いなんだよ! ……っていうか、肉壁全然来なくね? まあいっか。俺一人でこいつら楽勝っぽいしプゲラ」
男は笑いながら、又佐にとどめを刺すべく手のひらを動かした。
すると、突然その手のひらに穴が空く。
「……は?」
男が一瞬呆然とした。
そして、手のひらを抑えて、叫びだす。
手からは凄まじい勢いで血が吹き出したが、それはすぐに止まった。
「うおおおおおお!! いてえええええ!? なんだこれ! すげえダメージが来た!! なんだよおい! いきなりリジェネレーション使っちゃったじゃねえか!」
手のひらに穴が空いたのは、この男の能力では無かったらしい。
何者かが攻撃をしたのだろうか?
男は顔を上げると、怒りに満ちた目つきで周囲を見回した。
そして、又佐の後ろに何かを見つけたらしい。
「てめえ!! んなかっこしたって、俺のアビリティは鎧を貫通するんだよ! 死ねえ!!」
光の輪が、又佐の横をすり抜けていく。
「何だ……!?」
情況が理解できない。
だが、この隙にソフィが体勢を立て直していた。
「癒やしの力を使います! 又佐さん、これを!」
ソフィは、いつの間にか優美な形の短剣を握りしめている。
剣が光り輝き、その光がソフィと又佐を包み込んだ。
二人の体を襲っていた、脱力感が消え失せる。
「これはまるで、神術や陰陽術のような……! そうか、これが魔法か! 感謝するぞソフィ!」
又佐は男へと向き直る。
さきほど、どこかへと攻撃していた男は、愕然とした表情をして又佐の向こうを見つめている。
「そんな……。何も効いてない……? 今の、明らかに三回くらいクリティカルしただろ……。なんでだ……」
「俺は放心のバステが通用しないのだ。あとダメージは素で弾いた」
どこかで聞いたことがある声がした気がする。
だが、敵がよそに気を取られている今が好機。
「行くぞ! ふんっ!! 雷遁の術!!」
又佐の組み合わせた手から、稲妻が生まれた。
さらに、ソフィが短剣から放つ光が、それを強化増幅する。
「むっ……!!」
ここで又佐は、ソフィという少女の真価を知った。
彼女は、他の誅魔を補助し、守り、あるいは強化する力に長けているのだ。
強烈な威力となった雷遁の術は、呆然としていた男に突き刺さった。
「あ、あぎゃぎゃぎゃぎゃーっ!? やべえ!! リジェネレーション二回も使っちまった!!」
男が叫び、焦りの顔を見せる。
「まだ立つか……! 不死身か、やつは!」
「又佐さん、あいつは、復活できる回数に制限があるんです! だから何回も攻撃したら……!」
「そうか! では次を」
又佐が新たな印を結ぼうとした時、恰幅のよい男は顔を青ざめさせながら後退った。
「こ、こんなんクソゲーだ! 負けイベかよ! つうか、この時のために俺らエネミー特技をもらってたのか! おらっ、やってられねえよ! 強制撤退!!」
男が叫ぶと、彼の足下が眩く輝いた。
光の中に、彼は飲み込まれていく。
「待てっ!!」
「待たねーよ!! つうか、クライマックスまではこの方法で逃げまくるから! うへへへ!!」
男は消えてしまった。
「なんということだ。取り逃がすとは……!」
又佐は歯噛みする。
だが、その肩にポンと手を置くものがいる。
「大丈夫だ。あれは明らかに敵のセリフだからな。強制撤退を使えるようになっているとは、あいつは自分がエネミーになっていることに気付かんのだな。全く、人間は自分の都合のいいものしか見えないもんだ」
「スタンさん!」
ソフィの弾んだ声が聞こえて、初めて又佐は彼に気付いた。
「スタンの助! いつの間に……!!」
「うむ。操られた連中には眠ってもらって、こっちに駆け付けたら又佐がかっこよく敵を撃退するところだった。さすが過ぎる」
「いや、今のは俺の力ばかりではなく……」
「分かる。ソフィのナイスなサポートがあったからだな。探索者は力を合わせると、その強さを何倍にもできるんだ。1+1は2じゃない。200なのだ。十倍だぞ十倍」
「何を言って……。だが、確かにソフィの援護はありがたい。これからの戦いで、頼もしい力となるだろう」
ソフィは何か言いたげだが、黙っている。
スタンの足下に、ぽろっと小石が落ちた。
神ならぬ身の又佐には、これを使ったスタンが、敵の手のひらを穿って隙を作ったのだとは分からないのだった。
※黄色いモヤ
パフュームのクラスによる攻撃は、このような見た目で表される。
全部においがするぞ。
※アビリティ
パンデミック・チルドレンにおける能力の呼び名。
※光の輪
ボーダーのクラスによる攻撃は、このような見た目で表される。
能力としてはとても多彩なのだ。
※ボンキュボン
ソフィには将来性があるのだが、それに気付かぬとは残念だよ……。
※NTR
NTR、イクナイ
※強制撤退
エネミーが使う固有アビリティで、そのシーンから撤退する。
クライマックスだと使えなくなるので、主にボスエネミーの顔見せのために使われるぞ。
つまりこの恰幅のいい男はエネ(ry




