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ゴッドスレイヤー・俺  TRPGで育て上げた神殺しの戦士、異世界でも超強い  作者: あけちともあき
3,5.ミドルフェイズ:シナリオ『神州に暗躍する影を討て』
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英雄の弟子、術者に操られた町人と見える

 刃五郎は、沙州藩付近で頻発する失踪事件を追い、この土地までやって来ていた。

 彼の口から語られるのは、いかなる敵と戦ったかという話。


「鬼や妖怪ではなく、人が敵に回ったと言うのですね。私もそうです」


 梔子が頷いた。


(かどわ)かされた人々が、魔の者に操られているのでしょう。己の手を汚さず、人を支配するとはなんと下劣な相手なのか……許してはおけません」


 彼女は静かに怒りを燃やしていた。

 これには、又佐も同意する。


「つまり、人の命をどうとも思っていない輩が相手だということだ。際限なく被害が広がっていくぞ。敵の拠点と思われるこの地で、我ら誅魔が集ったことは幸いだった」


「はい。私も事情はよくわかりました。私たち、居留区で相手の術者らしい人をひとりやっつけたんですけど、確かに今まで戦ってきた相手とは違う感じでしたね」


「な、なにっ!」


「戦ったというの!?」


「先を越された!」


 最後のせりふが刃五郎の言葉だったので、又佐は、こいつめ、素はこう言うやつなのかと思った。

 そんな彼らのやり取りをよそに、着物の美女霧亜と、謎の鎧武者スタンの助がぼそぼそ小声で話し合っている。

 又佐はその会話に耳をそばだてた。


「スタン、あんた知ってるんでしょ?」


「うむ、これは間違いなくパンデミック・チルドレンの暴走したプレイヤーが敵だからな。人を操るなら、パフュームの能力者だろう。あと、よほど尖って無い限りはそれにもう一つ能力を持ってるはず。大体こういう連中は万能になりたがるからな。マルチクラスで間違いないぞ。パフュームは前衛クラスと相性が悪いからなあ。ボーダーの能力者……つまり結界使いも一緒じゃないか? 多分、この国の城辺りを結界にしてるパターンだ」


「あんたね、そこまで分かってるならこの子たちに教えてあげなよ」


「何を言う! いきなり答えを教えたら興ざめだろ? 少しずつ手を貸して、彼らが自らの手でヒントを得ていくからTRPGは面白いんだ……! 俺はあくまで裏方に徹するぞ」


「ほんと、変なエインヘリヤルねえ……」


 又佐は一瞬、わけが分からなかった。

 今、この鎧武者は、大変核心を突くようなことを言っていなかったか?

 彼の言葉が事実なら、敵の本拠地はすぐ目の前にあることになる。

 いや、だが、待て。

 又佐は気を取り直す。


(わけの分からぬ男の物言いを信じてどうする……! 己が目と耳で確かめねば。伝聞を頭から信じるなど、忍びの名折れよ)


 そう内心呟いて、自分を納得させるのであった。




 そして、一行は茶屋を出て、この国を探ることにする。


「既に我らの動きは、敵に見つかっているだろう。必ず向こうから仕掛けてくる。お前たちに隠密行動は向くまい。奴らの目を惹きつけ、派手に騒ぎを起こしてくれ」


「その考え、乗った」


 刃五郎がニヤリと笑って答える。

 何が乗っただ、お前隠密行動できないだろ、と又佐、すごい目でこの武芸者を睨む。


「ええ、構いません。では、こちらは私と刃五郎殿と」


 梔子の横で、霧亜が手を上げた。


「はーい。あたしと、それとこっちのエルフね」


「任せて下さい! 私、有能ですから!」


 メガネを掛けたエルフが、胸を張ってみせる。


「ほう……俺以外はおなごが三人か……」


 刃五郎、渋い笑みを浮かべながら顎を撫でた。

 ちょっと口元が緩んでいる。

 そろそろ素が見えてきた。


「頼む……頼むぞ、梔子。お主だけが頼りだ」


「ええ、任せて下さい、そちらはお三方にお任せしてもいいのですか? スタンの助様は、隠密に向いているとは見えませんが」


 言われてみれば、隠密行動組であるスタンの助は鎧武者である。

 どう考えても音がする。


「問題ない。これはフレーバーテキストだからな」


 スタンの助は意味のわからない事を言うと、いきなり無音で動いてみせた。

 踊って、飛び跳ねても、本当に無音だった。

 鎧がこすれる音すら全くしない。


(どういう術だ!?)


「あの、スタンさんってよく変なこと言いますけど、腕は本当に確かなんで安心して下さい」


 ソフィがフォローしてきた。

 なぜか、その声にホッとする又佐である。


「それよりソフィ、隠密とかやれるのか? 大丈夫? おんぶするか?」


「大丈夫です! 私だってちゃんとできるようになったんですよ!」


「そうか、じゃあきっと放浪者のクラスレベルが上がったんだな。成長しているなあ。すごいぞ」


「えへへ」


 やっぱり大丈夫だろうか、と心配になる又佐であった。

 そんな彼らを引き連れ、誅魔の忍びは町の裏側を行く。

 唐人の居留地も近く、商売をするものと旅人とで賑わう表通りとは打って代わり、裏通りは静かなものだ。

 不自然なほどの静けさである。


「人の気配がせんな」


「はい。まるで、誰もが動いたり話したりすることも禁じられているみたい」


「上手いことを言う。だが、その通りかも知れん。ソフィ、頭上に注意をせよ。俺はその他に気を配る」


「はい!」


 ソフィの素直な返事を聞いて、ホッとする又佐である。

 この唐人の娘は、心根がまっすぐで安心できる。

 良い子だ。

 誅魔を引退することになったら、彼女のような女性と世帯を持つのも良いかも知れぬ。子供は三人以上欲しい。そして子供に忍びの技を伝授して……。


 一瞬の内に、又佐の脳裏に繰り広げられた人生の設計図であったが、それは怪しい気配によって雲散霧消した。

 こちらに向かって歩いてくる集団があったのだ。

 それらは、一見して共通点のない町人の集団だった。

 農民がおり、商人がおり、町娘がおり、旅人がおり、唐人がいた。

 唯一、彼らに見受けられる共通点。

 それは全く、生気というものが感じられないこと。

 まるで、生き人形であった。


「これが……人を支配する魔の者の手か……! あのような子供まで!」


 又佐は唸った。

 ソフィも、息を呑んでいる。

 二人を目掛けて、操られた町人たちは襲いかかった。

 手にしているのは、包丁であったり鎌であったり。

 唐人は銃まで持っている。


「くっ! 卑怯な……! 罪もない町民を使い、己の手を汚さぬというのか!」


 攻撃するわけにもいかず、又佐は回避する一方である。

 ソフィもまた、見た目に似合わぬ身のこなしで、町人からの攻撃を躱している。

 ちなみにスタンの助は棒立ちである。

 町民から滅多打ちになっているのだが、全く効いた様子もなく、きょろきょろと辺りを見回している。


「シーンの外から操ってるのか? だとするとエキストラになるから、攻撃力は無いはずなんだけど。あきらかにこれ、ダメージがあるもんな、ってことはシーンのどこかにいるな」


 彼の言葉の意味は相変わらず分からないことだらけだったが、又佐はその中に、重要な情報を聞き取った。


「スタンの助、つまり魔の者はこの場に……!」


「いるだろうな」


「よしっ! ソフィ、手を!」


「!? はい!」


 又佐はソフィの手を取り、家屋の壁を駆け上がる。

 そして、二人で屋根の上に着地した。


「忍びの目を、耳を舐めるなよ……!」


 意識を研ぎ澄まし、己の五感に集中する。

 ソフィと触れている手が熱くなる。何か、力が流れ込んできたような気がした。

 今まで感じたことの無いほどの精度で、又佐の目が、耳が、この裏路地全体から出る情報を受け取っていく。


「そこか……!!」


 又座の目は、路地の角を曲がったところに注がれた。

 こちらを伺う人影がある。

 騒動に巻き込まれないよう、しかししっかりと見えるよう、魔の者はすぐ近くでこちらを観察していたのだ。


「今こそ、誅魔の時! 行くぞソフィ!」


「はい!」


 屋根の上をひた走り、魔の者へと向かう又佐。

 敵もそれに気付いたようだ。


「げえっ!? どうしてこっちが分かったんだ!! この世界のNPCはエキストラばかりじゃないのか!! あ、そうか。お前らがエネミーだな!」


 魔の者は、年若い男に見えた。

 恰幅のよい体を、上質の着物に包んでおり、髪は結うこと無く短く刈られていた。


「いいだろう! デュミナスとしての力を得た俺が、世界初遭遇のエネミーを蹴散らしてやろうじゃないか! あっ、後ろに可愛い女の子も!? これはもしや、ヒロイン獲得イベント!? よっしゃ、俺TUEE展開きたあ!!」


(スタンの助のような事を言う奴だ……!)


 かくして、誅魔とデュミナスの戦いが幕を開けるのだ。


※素

 刃五郎の中の人が垣間見える。


※パフューム

 香りやフェロモンを使い、他者を操ることに長けたパンデミック・チルドレンのクラス。


※ボーダー

 結界を用い、空間を操ることに長けたパンデミック・チルドレンのクラス。


※人生の設計図

 又佐、ソフィみたいな子がタイプ。


※力が流れ込んでくる

 ソフィが特技、導きを使用しています。

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