俺、出島から内地に入る方法を見つけ出す
「美味かった」
「さっきの奴なんだったんだろうね。めちゃくちゃ再生してきてキモかったわー」
蕎麦を堪能した後、俺たちは茶屋の軒先でまったりしている。
外国人向けの茶屋だからか、洋菓子なんぞを置いている茶屋だ。
おほー、カステラじゃないか!
おれはこの卵色の菓子を突きつつ、ゴールたちに説明を始めた。
「あれがこの国に巣食っているデュミナスだってことだな。あいつらは、バイオティクスと名乗ってるはずだ。多分自己顕示欲が強いだろうからすぐ見つかるだろ。注意点は三つ。まず、ワールディングという相手を無力化させる結界を張る。これは探索者なら無効化できる……事もある。な?」
「ひい、お恥ずかしい」
俺の問いかけに、エリリンが顔を覆った。
まさかのNPC疑惑が浮上したエルフである。
「エリリンは今回はサポーターだなあ。相性が悪い。なに、PCは誰でも役割があるもんだ。前に立って敵と差し向かうばかりがセッションじゃない」
「ううっ……! スタンさん優しい。ところどころ意味不明の単語が混じってるけど」
「TRPGはみんなで勝利しなくちゃな……!」
「そうだねえ。あんたさ、ハイ・エルフなんでしょ? ってことは、ゲルズのグラムフォースってまだあって、それと繋がってたり?」
「はあ、繋がってはいるけど」
おや?
ゴールがエリリンの事をなにか知っていそうだ。
互いに共通のコネクションがあるのだな。
いいシナリオ導入だ。
「ゲルズって、あたしを作ったハイ・エルフの一人なのよ。色々物知りだったからさ。あんたを通じて連絡できれば、情報とか教えてもらえるんじゃない?」
「あ、確かに! でも、忙しいから三回くらいしかできないんじゃないかなあ」
セッション中、三回はなんでも質問できる特技だな。
分かるとも。
「スタンさん、さっきから嬉しそうですね?」
「分かるかソフィ。この二人のさりげないやり取りの中にも、俺が親しんだゲームの風を感じるんだ。やはりこの世界はTRPGなのだよ」
「あんまり分かりませんけど、いいことなんですよね?」
「もちろん。ソフィだって、そのTRPGの一部なんだ。俺は君が一人前になるよう、サポートして育てていくつもりなのだぞ」
「はい、感謝してます! ありがとうございます」
ソフィ、そろそろ中級プレイヤーに足を突っ込みそうな気配もしてきているが、礼儀正しい良い子だ。
俺が彼女くらいの経験を積んだ頃は、そりゃあもう、慎みを知らないクソガキでな。
あれは高2くらいの時だったか……。
おお、今思い出しても恥ずかしい……!!
俺が過去の記憶を反芻しながら、内心でのたうち回っていると。
ソフィは隣で、カステラとみたらし団子をぱくぱくと平らげた。
さっき蕎麦を食べたばかりなのに、なかなかの健啖ぶりである。
若さとは恐ろしい。
もっとも、向こうには既に十本近い団子串を皿に並べているお姉さんが二人いるが。
「スタンさん、思ったんですけど……この国って、神州人以外には厳しかったりするんじゃないですか」
「鋭い。その通りだソフィ。いい洞察力だな」
「ありがとうございます」
ソフィの表情が嬉しそうに緩んだ。
そして、すぐにハッとして顔を引き締める。
「えっと、その、じゃあ、私たちがこの居留地から外に出て、神州を脅かしている敵を探すのって、とても難しくないですか?」
「ああ、その通り。今回のオープニングは、そこが一番の難易度になるだろう。今までとは一味違ったシナリオだな。だが、俺には対策の一つは思いついている」
「対策があるんですか!」
「ああ。ゴール、頼んでいいか?」
俺の呼びかけに、エリリンとお喋りしていたヴァルキュリアが振り返る。
「はいはい。スタン、よくぞあたしの早変わりが、外部投影システムによるものだと見抜いたわね」
「ふふふ、俺はヴァルキュリアのPCも使ったことがあるからな。詳しいのだ。俺が思う所、お前は神州人に変身することもできるだろう?」
「もちろん。パッと、こうね」
ゴールは、両手で顔を隠した。
そして隠していた手を開くと、そこから覗く彼女の顔は、既にゴールのものではない。
コシのある長い黒髪に、着物、そしてやや濃い目の肌色と黒い瞳。
顔つきから、立ち上がると背丈、体つきまでも神州人そのものになっている。
「あたしを使って、この国を自由に動き回ろうって言うんでしょ? それ、あたしも考えてた」
「エルフは特使として、この国の帝やニニギと接触しているから、神州にいても珍しくはないかな? 私はこのままいけそう」
「じゃあ、ソフィはあれだな。布をちょっと深めに被れば、一見して外国人だと思われないだろ」
「なるほどです。じゃあスタンさんは?」
「そりゃもう、俺はあれよ」
俺は身につけていた衣服を、所持品欄に写した。
「きゃっ」
ソフィが目を覆う。
お前、俺の裸は見慣れているはずでは……?
それに、裸になったのは上半身だけだ。
下半身には布を巻いている。
「このようにしてだな、外国人の奴隷とか、荷物運びみたいな扱いにすれば自然じゃないか」
「スタンが脱ぎたいだけでは?」
ゴールが鋭い!
「私としては、美マッチョの裸は嬉しいんだけど……けど……! やっぱり、不自然っていうか、ねえ」
エリリンは欲望がちょっとだだ漏れになったな。
こいつ、美形マッチョ好きか。
「目のやりどころに困りますっ! スタンさん服を着て下さい! ……あっ! それじゃあ逆に、スタンさんは鎧兜で身を固めたら外から見えないんじゃないですか?」
ソフィの言葉に、俺もゴールもエリリンも、ポンと手を打つ。
「それだ!」
声を揃えて、彼女の提案を受け入れることを決めたのである。
そして。
探索者としての能力を使い、俺たちは既に居留地の外に。
うちの一行は、神州の貴婦人となったゴールを先頭に、布で髪や目元を隠したソフィ。
この国に唯一出入りを許されているらしき、エルフの客人エリリン。
そして護衛の鎧武者、俺。
さすがに、戦国時代ではない今の神州、ガチの鎧は手に入らなかった。
なので、それっぽく見える軽装の鎧と頭巾、そして頭を覆う形式の仮面みたいなものを身に着けている。
これで、どこからどう見ても現地人であろう。
完璧過ぎる。
「よし、行くか!」
「ちょっとスタン。今回はあんたが仕切ったらだめでしょー」
ゴールに頭をぺちんと叩かれた。
「なにい」
「見なさい。あたしが、神州の貴婦人なの。剛龍院家の女主人、霧亜様よ。護衛のスタンの助は黙ってなさい」
「えっ、俺の名前それなの!? いや、いつの間に神州っぽいネーミング覚えたんだってちょっと感心したけど」
「さああんたたち、行くわよ! ソフィの命題に従えば、まあ現地の探索者にも会えるでしょ!」
「はい!」
「おー!」
ゴールの号令に、ソフィとエリリンが元気よく応じた。
「おー!!」
ここは合わせておいた方が場が盛り上がる。
俺も、謎の護衛スタンの助として声を合わせたのである。
※洋菓子
カステラとかクッキーみたいなのがあるのだ。
茶は煎茶とかしかないぞ!
※セッション中、三回はなんでも質問できる特技
とっても便利。
進行に詰まったり、気になることがあったらどんどん使おう。
※神州人以外には厳しい
ほぼほぼ単一民族国家だからね!
※裸
一セッション一裸
※スタンの助
今セッションの間、彼はずーっとスタンの助である。
さて、今回はあと一回から二回ほどオープニングが続きます。
地元の探索者が登場しますよ。




