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俺、辺境の村で問答する

 腰にセーフリームニルをくっつけて歩くのだ。

 何せ俺はこの体格。

 スタンのがたいに合う衣服などこの辺りにはない。

 村娘が身につけている肩がけを貸してくれると言ったが、それを股間に巻くなんてとんでもない。

 俺は全裸は開放感があって好きだし、特にいま現在寒いわけでもないので、丁重にお断りしておいた。


「どうして裸でも寒くないの? この辺りはもうすぐ冬がやってきて、毛皮を着ないと歩けなくなるのに」

「うむ、それはな。俺は氷属性の防護点も高いので、寒さにはとても強いのだ……いや、鍛えているから平気なのだ」

「……?」


 おっといかんいかん。

 専門用語を口にしてしまった。

 どうやら、俺が持つ防護点は、炎と氷に対するものが寒冷・炎熱耐性として機能するらしい。

 おかげで、全裸でこの地を闊歩していてもなんともないのだ。

 ちなみに周りは針葉樹だらけで、下草は少ない。

 寒々とした視界で、遠くの山は白く染まっている。

 北欧とかそういう寒いところだろう、ここは。


「でも、全裸はちょっとどうかなあ。人間ってそういうの良くないんでしょ? あたしらヴァルキュリアからすると、神様たちは割と全裸になるし、慣れてるんだけど」


 そう言いながら、俺の股間を隠すセーフリームニルをチラチラ見るゴール。

 このヴァルキュリア、むっつりスケベではあるまいか。


「そちらの突然現れた方が、戦乙女、ヴァルキュリアなのですか? お話の中でしか聞いたことがないのに、まさか本当に会えるなんて……!」


 村娘はキラキラと瞳を輝かせて、ゴールを見つめている。

 そのヴァルキュリアの中身は、かなりのおバカだぞ。

 だが、見た目だけなら緑の髪と瞳を持った、青い鎧の神秘的な美女だからなあ。


「ふっふっふ。存分に崇めてもいいのよ!」


 ゴールは小鼻を膨らませ、とても調子に乗っていた。


 しばらく歩くと村が見えてきた。

 どうやら村娘……ソフィという名前だそうだが、森林にきのこ狩りに出たところ、こんなところまで遠征してきたマキナ帝国の機甲兵に見つかってしまったらしい。

 マキナ帝国は、帝国に恭順しないものを全て滅ぼす連中で、下っ端は文字通りマシーンなので見つかれば死ぬ。

 いやあ、俺が間に合って本当に良かったな。


「やっぱり、このタイミングの良さと言い、いつもどおり全裸になっている様子と言い、こいつは夢だな。いや、そうでないならばこれはTRPGのセッションか。導入フェイズ……?」

「スタン、まだ寝ぼけたこと言ってる……」


 何故かゴールが呆れた目でこっちを見てきた。

 俺たちが村に近づくと、なぜか武器を持った村人が駆け出してきた。


「だ、誰だその全裸の男は!」

「こんな寒空の下で全裸とは怪しい!」

「よく見ろ、股間にうりぼうをくっつけているぞ!」

「きゃあ変態!」


 なんだと!?

 全裸差別はやめろ!

 生まれた時はみんな全裸だったはずだ。

 それとも何か? お前ら立派なおべべを身に着けて生まれてきたってのか!? はーん、ほーん?

 一気に俺の中で怒りのボルテージが上がる。

 そこに、スッとゴールが出てきて、どうどう、と大胸筋の辺りをペチペチしてくる。

 むっ、それをされるとさらに怒りのメーターが上がっていくような……。

 分かってて煽ってないか、この女?


「みんな待って! 確かに全裸だけど、この人はいい全裸よ! 私が森の中で帝国の兵士に襲われた時に、助けてくれたの!」


 ソフィがかばってくれた。

 効果は抜群だ。

 村人たちの警戒心が、スーッと消えていくのが分かる。


「帝国兵だって!?」

「どうしてこんな辺境の村にまで帝国が……」

「まさか、噂に聞く大遠征が始まったのか!?」

「恐ろしい恐ろしい!」

「そ、それでその帝国兵はどうしたんだ! 逃げてきたのか!?」


 警戒心が消えたと言うか、もっと優先度が高い脅威の話が出たので、興味が移っただけっぽいな。

 だが、安心せよ村人よ。

 俺は胸を張り、彼らに告げた。


「大丈夫だ。全滅させてきた」

「もうだめだあ!!」


 俺の言葉に、村人たちががっくりと地に伏した。

 ?

 どういうことかな?


「どゆことー?」


 俺の意を汲んでか、ゴールが村人たちに尋ねた。

 すると、ちょっと普通ではない彼女の姿に、村人たちは一斉にどよめき始める。


「緑の髪!? 青い甲冑! あれは!」

「伝説のヴァルキュリアじゃないか!?」

「強い戦士をオーディンの神殿ヴァルハラに連れて行くというあの伝説の!?」

「まさか、この村にヴァルキュリアの目に叶う戦士が!?」

「俺やで」

「お前だったのか!」


 賑やかな連中だなあ。

 わいわいと盛り上がっている。

 それに、今どさくさに紛れて俺やでって言った奴誰だ!?

 ゴールは、自分の問い掛けをスルーされたにも関わらず、村人たちからの注目を一身に浴びて得意げだ。

 俺をちらちら見ながら、鼻を膨らませている。

 本日二回目の、すごいドヤ顔だ。


「ね? あたしは凄いでしょ。偉大でしょ。伝説のヴァルキュリアなのよ? 崇め奉れい! スタン、ほら、あたしに傅いてもいいのよ?」

「うるせえ」


 俺はまたゴールにデコピンした。


 レベル3特技、戦闘感覚Ⅱ 戦闘感覚をアップデートし、よりクリティカルを出やすくする。


 俺のデコピンを即座に回避しようとしたゴールだが、逃がすつもりはない。


【クリティカル!】


 また脳内にメッセージが流れ、ゴールの動きを先読みしたかのように動いた指先が、彼女にデコピンを食らわせた。


「ぎょえーっ!?」


 派手にぶっ飛ぶゴール。

 そのまま村の外壁を壊しながらすっ転ぶと、すぐに立ち上がった。


「一度ならず二度までも乙女の額にデコピンするとはー!! このエインヘリヤル、泣かしちゃる!!」

「おっ、やる気か!? 来いよ、へいへい!」


 かくして、村人を置き去りに、子供の喧嘩を始める俺とゴールなのだった。

※マキナ帝国

 ミズガルズ北方の広大な凍土に築かれた、機械神を崇める帝国。

 強大な軍事力と、機械神から賜った錬金術による技術力を誇り、現在、機械神を崇めぬ他国に対して侵略戦争を仕掛けている。


※デコピン

 マキナ帝国超大型ゴーレムが搭載する、攻城用弩弓の一斉掃射に匹敵する。

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