俺、神州に向かう船の中を散策する
一ヶ月少々しましたら更新を再開予定。
まずは、書き上がっている一話を先行更新いたします。
船が岸を離れていく。
ここから、現実世界ならば日本海に当たる海を越え、神州に向かうのだ。
昨夜仲間にしたエルフの女は、一等船室でぶっ倒れている。
エリリンという彼女、仲間になると言ってくれたのは大変ありがたい申し出だった。
「あたしらが命題も何ももらえなかったの、あれね。うちの父上が意地悪してたんじゃなかったのねー」
「ゴールはオーディンに嫌われることに心当たりでもあるのか?」
ヴァルキュリアはそっぽを向き、口笛を吹き始めた。
こいつ、ヴァルハラで何かやらかしたんだな?
俺の世界に追い払われたとか昨日言ってたし。
酒の席だろうと、俺は重要な話を聞き逃さないぞ。
「スタンさーん!」
二階の手すりから、ソフィが手を振る。
彼女の近くには一等船室の他の客であろう、子供がいる。
子供たちで仲良くなったらしい。
「おーう」
俺は手を振ってみせた。
一見して、未成年の女の子だが、ソフィは熟練の探索者に匹敵するレベルに達している。
並の人間では彼女に歯が立つまい。
ということで、好きにさせるのだ。
「意外ねえ。盤古帝国の人ばかりかと思ったら、もっと西の方の人たちもたくさんいるのね」
「ああ。今の盤古帝国は、対マキナ帝国戦線を作るために各国と手を結んでいるからな。一昔前だったら覇権主義で世界各国と仲違いしてただろうけどな。ってことで、盤古帝国は神州への唯一の窓口として機能してるってわけだ」
「ほうほう」
黄色人種に白人、黒人、その他ラテン系などなど。
人間だけでも色々なタイプがいるな。
「でもさ、周りの人たち、それなりに立場がある人達も多いみたいだけど、なんで神州に行かなきゃいけないわけ? たかが極東の島国でしょ?」
「なにっ、お前ヴァルキュリアなのに知らないのか!? ええとな、神州はリアルに神様がいるんだよ。天から地に降り立ち、人々とともに生きることを決めたニニギって神様がな」
「へえ! 神様が地上に!? ってか、未だにいるってことはまだ現役なわけ?」
「そうそう。雲海の大社にいる。で、この神様がいるせいで、マキナ帝国は神州に手出しができないでいると言うわけだ。神格としてはデウス・エクス・マキナに匹敵するからな」
「なるほどねえ。じゃあ、この人ら、そのニニギ神にご機嫌伺いに行くのね」
そういうことだ。
なので、神州において外国人は、そこまで珍しい存在ではない。
国の監視下に置かれるだろうが、それだって幾らでも抜け道はある。
出島にくすぶっている必要など無いのだ。
そこは、ラグナロク・ウォーのソースブック、『神州ワールドガイド』を完璧に把握している俺に頼って欲しい。
「おい、聞いたか? ゴルモンステップにいきなり山が出来てただろ。あれがまた、いきなり消えたんだと」
「ああ、あれか! あの山、化物だったんだってよ。で、そいつを誰かがぶっ倒したらしい」
「はあ? 山みたいな化物をぶっ倒すって、誰が? 人間が!?」
「戦士だとよ。戦乙女を連れた戦士が現れて、化物を倒したんだと。旅の商人達が見たらしいんだ」
「へえ……! ヴァルキュリア連れってことは、伝説のエインヘリヤルじゃねえか!?」
おっ!
俺のことが話題になっている。
ははは、褒め称えるのだ。
世の中、マキナ帝国が侵略したとか、やれどこの国に異貌の神が降りてきて滅びただの、そんな暗いニュースばかりだ。
そこに突如降って湧いた、巨大な怪物を倒すエインヘリヤルの話は、久々の明るい話題だった。
ってことで、フールの街で俺が大見栄切った話も、吟遊詩人みたいなのが早速歌にして、既に盤古帝国にも広がり始めていた。
「聞いた聞いた? あたしの事言ってるわ。かーっ、追放されたはずのあたしが一番有名なヴァルキュリアになっちゃうわー。かーっ」
「お前、大概おめでたい頭の作りをしているなあ……。大したもんだ」
俺たちは甲板から移動を開始する。
この船は、神州へ向かう定期船だが、豪華客船でもある。
階層が幾つにも分かれた、船というよりは海に浮かぶウェハース。
俺とゴールがいる辺りは一階で、いわば一般的な甲板に当たる部分だ。
で、下の階層は荷物やら船員の住まいがある。
最下層には、安い金で神州に渡ろうという人々が詰め込まれているわけだ。
「下行ってみる? 下」
「行くか。なんかアングラな香りがするぜ」
ということで、俺達は最下層へと向かった。
果たして、お金のない人々が詰め込まれた、昼なお暗く、ネズミが走り回るようなその環境で、俺たちが見たものは……!
「チンチロリンしてるぞ」
「あー、サイコロ博打? あたし強いんだよねー」
「おう、やったれやったれ。ヴァルキュリアのダイス運見せてやれ」
「どーれ」
最下層のチンチロリンに参戦するヴァルキュリアと、けしかけるエインヘリヤル。
一体どういう絵面だ。
だが、せっかくの船旅。
船の中の階層社会を目の当たりにしつつ、一等船室にいる俺達が船底でサイコロ博打を楽しむというのもオツなものではないだろうか。
「おう、姉ちゃん、やる気かい? ここは地獄の一番地だぜ」
粗末な茶碗の中で、サイコロを弄んでいた男がゴールに振り返る。
歯抜けで赤っぱな、アイパッチ姿の粗野な男だ。
すげえ雰囲気出てるなあ。
「もちろん。勝負事には目がないのがあたしなの」
周囲から、ヒューッという口笛や、卑猥な野次が飛ぶ。
これを涼し気な顔をして声援のごとく受け止めるゴール。
齢数百歳というヴァルキュリアのハートは強いぞ。
そして、賭けが始まった。
最下層の博徒達は、紛れ込んできた青髪の美女を嵌めようとイカサマを仕込んで……。
「でえいっ! 真空・ダイス重力落とし!!」
「な、なにーっ!? 456サイで1がでたーっ!?」
「とうっ!! 運命変転、ダイス確率破壊投げ!!」
「な、なんだとー!? 振ったダイス全部が6になるはずだったのに全て1に!? 錘はどうした錘はー!!」
相手が悪いな。
ゴールは運命とか諸々サムシングを操る歴戦のヴァルキュリアだ。
最後の一投で、投げられたダイスは1の目を頭にしてお茶碗に着地。そして茶碗ごと爆砕した。
「あーあ。もうチンチロリンできないねえ」
俺が呟くと、博徒達が立ち上がった。
「こ、このやろう、イカサマだ!」
「いやいや、サイコロの仕掛けを思わず口走ったのは君たちだろう」
「ふっ、そしてこれは超時空的な技術介入よ」
うむ。ゴールは何一つ嘘は言っていない。
超英雄的な技量によって、イカサマダイスのイカサマを無視してコントロールしただけだ。
「スタン、ちょっとあれねえ。人間相手だと全部の技が使えないから物足りないわ」
「そうだな。もっと他にエインヘリヤルとか上位ヴァルキュリアとか集めないと勝負にならんな」
「でも、雰囲気は楽しめたわ。ということで、サイコロを壊したお詫びにみんなに一杯奢っちゃう!」
ゴールが宣言すると、博徒達からのブーイングが一転、歓声に変わるのだった。
かくして、俺達は好き放題しながら海を渡っていくのだ。
※ソフィは熟練の探索者に匹敵する
なんと最初のシナリオに出てきたアレクセイと同等の実力になっているのだ。
レベルでは。
※ニニギ神
天孫が降臨なさったとかうんぬんかんぬん。
※神州ワールドガイド
これから向かう新天地の情報が既に丸裸である。
※海に浮かぶウェハース
海の怪物とかに出会ったら、美味しくサクサクいただかれちゃうやつ。
※もうチンチロリンできないねえ
お茶碗を用意すればできるので、もう二度とできないわけではない。




