グラムフォース、出航前の飯屋で合席になる
私の名は、エリリン・マンデー。
眉目秀麗、頭脳明晰なる、グラムフォースの美しき使者。
神にも届く力を持つハイ・エルフ、ゲルズの命を受け、今私ははぐれヴァルキュリアとはぐれエインヘリヤルを追っていた。
「ひー、やっと大きい国についたあ。もう保存食はいやだよう」
いきなり私、半べそ。
一人旅だし、食べ物は保存食ばっかりだし、足りない栄養分を栄養カプセルで補い、味も素っ気もないろ過水で流し込む一週間の旅。
あーん、もういやだあ。
レセプター剥奪するぞっていう脅しが無ければ、とっくに逃げてたわ。
「だけど、これで安心。なになに、この国は……。中央大陸の東端にある大国、盤古帝国ね。マキナ帝国と争う大陸第二の大国だけど、最近は押され気味……と」
私はグラムフォース本部から取り寄せた情報を引き出し、そらんじる。
「つまり大国よね。大国という事はご飯があるんでしょ? 酒! 飯! 暖かい布団! イヤッフー!」
私は馬から飛び降りると、帝国の入口に向かった。
入国の為の手続きをすることになるが、グラムフォース所属であることが、私の身分証明になる。
サクサクと事は終わり、入国となった。
本部からは、エインヘリヤルとヴァルキュリアの反応についての情報が送られてくる。
間違いなく、この帝国領土内……しかも、海に面した街の中にいるようだ。
入国して、私は驚いた。
今まで見てきた人間の街が、村に見えるような発展振り。
そして人、人、人。
人間族、大地人族、猫人族、蜥蜴人族、南方砂漠大陸から来た異邦人、覆面族……。
ミズガルズでおよそ考えられる、全ての種族がいるんじゃないだろうか。
彼らが道を歩き回り、店で賑やかにお喋りし、買い物し、あるいは物を売っている。
全ての通りが店、店、店。
その上の階は五階建てくらいになっていて、そこが居住区のようだ。
「ああー……。いい匂いがするう……。作りたてのご飯の匂い」
私はふらふらと、店舗の間を巡っていく。
とりあえず一つ、蒸かしたての饅頭を買った。
もぐもぐやると、分厚い生地の下からたっぷりの肉汁が溢れてくる。
んまー!!
このエリリン、今一瞬、任務の事を完全に忘れた。
必死になってむしゃむしゃ食べていると、レセプターからゲルズの声が聞こえてきた。
『何をしている? エインヘリヤル一行は港町にやって来た。つまり、船に乗るつもりであろう。彼らの行き先を調べ、同行するのだ』
「ふぁい」
口の中をもぐもぐさせながら、慌てて応答する私。
ゲルズは呆れたようにため息をついて、通信を切った。
最後に、『人選誤ったか……? いや、あんなんでも偉大なる探索者ランクだからな……』とか言ってた気がする。
さて、ちょっとお腹も膨れたことだし、仕事に取り掛かろう。
ゲルズを失望させてしまうと、今後十年くらいグラムフォース基地の外に出してもらえなそうだ。
てくてく歩き、港の方で聞き込みを行う。
大男と、青い髪の女と、パッとしない娘の三人連れの話だ。
最後の一人、ちょっと私の個人的感情が混じってる。
「ああ、あの美人さんか! 青い髪のすげえ美人でさ。覚えてるよ。神州行きの船の切符を買ってたな。一等船室を即金だぜ? 従者の大男がさ、ポケットから大金貨をポンと」
「神州……!? さらに極東じゃない……! どこまで行くつもり!?」
私は驚愕した。
一応、グラムフォース本部に連絡を取る。
「なんか、あの人たち神州まで行くらしいんですけど」
『神州か。今の所、何の反応も出ていないという話だ。だが、今までかのエインヘリヤルが活動を行った場所は、我らグラムフォースでも感知できない、新たな異貌の神が出現していた場所だった。間違いなく何かがあるぞ』
「お役に立てましたか? では、早速グラムフォースから戦士達の派遣を……!」
『それには時間がかかる。さらに、エインヘリヤル一行の目的地が分からねば、無駄な手間が生まれかねない。ここでタイムロスが発生した場合、我らが気付かぬ異貌の神の陰謀が、取り返しのつかない状況になることもありえるのだ。
エリリン、コード=ヴォルスングもいよいよ佳境だ。お前に命題を下す』
「命題!? あ、はい!」
『エインヘリヤル一行と合流せよ。お前が、我らグラムフォースが降り立つ導となるのだ』
「ヒェー」
私がまた驚愕する間に、レセプターには下された命題が刻み込まれていた。
もうダメだ逃げられない。
私はしおしおとしながら、港を後にした。
あ、一応、二等船室の切符を買ってある。
一等船室高いんだもん……。
ふらふらと街を歩く私。
その鼻に飛び込んでくるのは、何かを揚げた香り。焼いた匂い。香辛料の芳醇な芳香。
「あー。あれよね。お腹減ってるからイライラしたりしてるんだわ。お腹一杯になれば元気になるでしょ」
そう結論付け、私はどこかで食事をとろうと考えた。
とは言っても、土地勘は無い。
お薦めのお店をグラムフォース本部に問い合わせたいが、私的利用はゲルズに怒られる。
ということで、一番美味しそうな匂いを漂わせていたお店に飛び込んだのだ。
香辛料たっぷりの鍋物の店。
「今は混んでてねー。合席ならいけるけど」
「それでいいわ」
店中に溢れる美味しそうな香り。
合席だとしても構わない。
こんな香りに包まれて、何も食べないで外に出るなんて拷問だ。
席に案内されるまでの間、私は横目で他の客が食べる、小麦の生地で肉や野菜を包んで茹でたものや、青菜を動物の内臓と共に甘辛く炒めたもの、豆腐とどろりとしたタレに、真っ赤な香辛料を混ぜて鍋にしたものなどを見ながら、お腹をぐうぐう鳴らしていた。
ああ、切ない……。
お腹が切ない……。
「お客さん、こっちこっち。合席いいってさ」
適当な感じの接客の女給に案内され、私は席に着いた。
そこには、金髪碧眼の大男と、青い髪の女と、純朴そうな少女が座って、みんなで鍋をつついている。
大男は私を見ると、
「エルフだ。あれ? 確か殆どのエルフはアールヴ・ヘイムに行ったんじゃなかったっけ? あ、デミ・レセプターがあるからグラムフォースのエージェントか。おう、好きに鍋をつついてくれ」
とか言ったので腰が抜けるほど驚いた。
いや、実際に腰が抜けたけど、席についていたので大丈夫だった。
「な、な、なぜそこまで詳しく……!」
「ん? そりゃまあ、この世界の事は隅から隅まで知っているからな……。だが、あんたが重要な任務を帯びたエージェントだとしても俺は詮索しないぜ。さあ、食った食った」
「くっ、物凄く怪しい者と同じ席についてしまった! だけど鍋美味しそう、いただきます!!」
「あなた、お酒はいけるクチ? ここの老酒が旨いのよー。ささ、どうぞ一献」
「あっ、かたじけない! あー、鍋うまー! お酒……ぶひい、五臓六腑に染み渡るう!」
「スタンさん、この人泣いてますよ」
「旅をしてこの街にたどり着いたんだろう。保存食ばっかりだと、久々のまともな料理は最高に美味いからなー」
私は夢中になって、鍋を堪能した。
中身は豚肉と野菜、豆腐を旨辛のスープで煮込んだもので、味が染みて大変美味しい。
酒にも合う。
一人だけ未成年っぽい少女は、お酒ではなくお茶とご飯で食べていた。
ご飯もいいわね!!
私は青い髪の女に薦められるままに酒を飲み、鍋を食らい、前後不覚になり、多分色々喋った。
「へー、グラムフォースがあたし達に注目してんのねえ。あたしもほら、スタンのいた世界に何十年も追放されてたじゃない? スタン見つけなきゃ帰れなかったし、帰ったらなんかヴァルハラと連絡取れないし。なるほどねー。ヴァルハラ壊滅してるのねー」
「おいゴールそれ初耳なんだけど」
「話してなかったっけ?」
「スタンさん、どうします? この人、お仕事で仲間にならないといけないそうなんですけど」
「あ、いいんじゃない? 彼女、俺が見る所、エルフ、エージェント、ブラックマジシャンの偉大なる探索者だろ? レベル制限アイテム持ってるもん。強いと思うから連れて行こう」
そんな話を聞きながら、すっかり満腹になり、お酒も完全に回った私は、夢の世界へと沈んでいくのだった。
※盤古帝国
国の創造主たる神の名前を冠した、中央大陸第二の規模を誇る帝国。
かつては覇道を志していたようだが、今の皇帝になって各国への宥和政策に転換。
世界一の経済規模を持つ国になっている。
マキナ帝国とは争っているが、錬金術を駆使する彼らに押されているらしい。
盤古帝国は、仙術や彼らが独自に編み出した武術で対抗している。
※大地人
つまりドワーフ。
※蜥蜴人
つまりリザードマン。
※覆面族
ガスマスクみたいなのをつけて、砂ぼ〇ず的な感じのムーヴをする一族。
中身は普通の人間。
※コード=ヴォルスング
スタンたちを追いかけて、世界に何が起こってるかを調べる計画。
※鍋
いわゆる、火鍋。おいしい。




