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グラムフォース、遠目で神殺しの瞬間を目撃する。

 私の名は、エリリン・マンデー。

 偉大なるエルフの系譜に連なり、今は世界を救う組織、グラムフォースに所属する選ばれた存在。

 敬愛するハイ・エルフ、ゲルズの命を受け、今私ははぐれヴァルキュリアとはぐれエインヘリヤルを追っていた。


「えー! なんであいつら東に向かって旅してるの!? 勘弁してよう。この方向、ずーっと大きい街とか無いじゃん」


 私は悲しみながら、馬に乗ってパカポコと草原を走る。

 エインヘリヤルとヴァルキュリアの居場所はよく分かる。

 なぜなら、私にはグラムフォースからの通信が随時送られてきているからだ。


「ええと、なになに。エインヘリヤルはこの先……おお、近いじゃん!」


 もう、こうして数日間彼らを追いかけているのだが、馬車に乗った彼らと身軽な私。

 徐々に距離は詰まってきていた。

 ちなみに、グラムフォースにはハイ・エルフの超魔法技術によって建造された飛行機械なども存在している。

 これに搭乗すればひとっ飛びで彼らに追いつくことができるのだが……残念ながら、使用許可は降りなかった。


「どうしてですかゲルズ様! 可愛い私が危険な目に遭うかも知れないですよ!」


『貴様、レベル20の偉大なる探索者(グランドシーカー)だろう。貴様が後れを取るなら、それは既に世界の危機レベルだ。そんなものが、ほいほいと道端に転がっていて堪るか。そして、スィアチは異貌の神の侵略に備え、常に動ける状態にしておかねばならん。貴様は馬で追うのだ』


「はーい」


 スィアチというのは、その飛行機械の名前。

 寝そべった人間に近い形をしていて、背中に乗る。

 ああーん、空を自由に飛びたかったのに。

 そして楽をしたかったのにぃ。


「おーい、あんた」


「あら」


 途中、行商人の隊列と出会った。


「お嬢さん、ここから先は遠回りした方がいいぞ」


 彼は親切に教えてくれる。


「あら、なんで? 私、こう見えても腕に覚えがあるのよ」


「ああ。一人で旅をしてるってことは、腕が立つんだろうと思うけどな。だけどこの先にある村はだめだ。あれはまずい。何ていうか、村一つが要塞になっちまっててな。しかもそこにとんでもない化物が住み着いてるんだ。あそこに山が見えるだろ」


「ええ」


「もう、あの山はまるごと、要塞になっちまってる。村に住み着いた化物が、村人を操ってな、怪物の軍勢を作り上げてるんだ。帝国の軍隊ですら撃退したって話だぜ。もちろん、害意がねえ俺たち商人だって例外じゃない。あそこに向かった商人は一人だって戻って来ないんだ。巷じゃ、人食い要塞って呼ばれてるぜ」


「人食い要塞!! ひええ」


 私は震え上がった。

 私は大変レベルが高いエルフなのだが、怖いものは怖いのだ。

 やだなー。

 行きたくないなー。

 怖いなー怖いなー。

 念のために、この先をグラムフォースで確認してみる。


「この先、人食い要塞だって話だけど」


 すると、基地にいる他のエルフからの応答があった。


『え、そうですか? こっちには何も反応が……。ああ、いえ。履歴を辿ると、ここにあったはずの村が一年前に忽然と消えてるみたいです。そこまで大きくない村だったから、人間同士の争いで滅びたか何かだと思って、ゲルズ様も気にしてなかったみたいですけど。人食い要塞? ハハハ、まさかあ』


「まさかならいいんだけど……。そこ、魔力スキャンできない? 命題感知でもいいんだけど」


『ええ……。これだってタダじゃないんですよ? 基地の魔力を消費するから、責任問題がですね』


「いや、そこ私が責任持っておくから! 私の身の安全のためにここは一つ!! 一つよろしく!!」


『えー。でも、エリリンさんが責任持つって言うなら……。えーと、魔力スキャンぽちっと……………………………………へ? なにこれ』


 こうして会話している間にも、私はパカポコとその村に向かって馬を進ませている。

 ちょっとやめて。

 その沈黙、めっちゃくちゃ怖いんだけど。


「何黙ってるのよ! 教えなさいよー! 怖いでしょー!!」


『え、いや、あの。今、ほんの数分前にいきなり、この地域一帯に超巨大な魔力反応が現れて……えっ、マジ!? これって小型神格級……!! 異貌の神そのものがそこに降りてきてます!』


 グエー。

 私死んだわー。

 なんか、見つめる遠くの山がもりもりと起き上がっていく。

 それは大きな蜘蛛みたいな形になって、体の上にくっついていた岩肌? いや、要塞みたいなのを振り落としている。

 その目が私を見た気がした。

 あっ、死んだ。

 あれ、エインヘリヤルでもないと相手できないやつだ。

 ああ、ゲルズ様。

 先立つ私をお許し下さい。

 あーん、こんな仕事受けなければ良かったー。


『あっ』


「今度はなによ!?」


『あの、エインヘリヤル反応です! エインヘリヤルが、異貌の神と戦っています! それから、神格級ユニークアイテム反応が増えました! これは……』


 その時、蜘蛛が全身を震わせて、稲妻みたいなものを生み出した。

 それが空に向かって集まり、光り輝く玉になる。

 あ、見えた。

 蜘蛛の前に、ヴァルキュリアに掴まれて浮かんでいる人影がある。

 稲妻の玉はその人影に襲いかかり……。

 小さな人影が、棍棒らしきものを振りまわした。

 稲妻が、棍棒に当たって弾け飛んだ。

 嘘!?

 消滅した!?

 地上に落ちれば、マキナ帝国の帝都でも蒸発させるような物凄い魔法の塊。

 それが、跡形もなく。


『ユニークアイテム名判明! スキールニルの武器、対魔の棍棒、ガンバンテインです!!』


 ヴァルキュリアが、掴んでいた人影を振りかぶり、蜘蛛目掛けて投げつける。

 人影は、蜘蛛の頭に棍棒を叩きつけた。

 私には、世界が揺れたように見えた。

 遅れて、物凄い音が聞こえてくる。

 強風が吹き荒れる。


「ひぃえええー!」


 馬と私、必死になって吹き飛ばされまいと体を伏せる。

 風が吹いてくる先で、蜘蛛の姿をした異貌の神は、頭部をひしゃげさせながら潰れていくところだった。

 ガンバンテインが唸る。

 異貌の神の全身が叩かれ、打たれ、粉砕されていく。

 これは、あれだ。

 神殺しの光景だ。

 なんだあれ、なんだあれ。

 恐らく最後の一撃が決まった瞬間、蜘蛛の神は粉々になって消えた。


「うへー」


 しばらくして立ち上がる。

 遠くにあった山が一つ消えていた。

 異貌の神は一年を掛けて山一つを自分の肉体にし、グラムフォースにすら気づかれない用意周到さでミズガルズに侵食して来ていた。

 多分、誰も気づかれずに侵略は行われていただろう。

 あの神が不運なのは、そこにはぐれエインヘリヤルが通りかかったことだ。

 命題が無いエインヘリヤルが、異貌の神の居場所を知って訪れることなんか絶対にない。

 だからあれは偶然なのだ。


「何やってんのあの人ー」


『えーと……今度こそ何の反応もなくなりました。エインヘリヤルとヴァルキュリア、そこを離れて行きます……』


 通信は、すぐさま聞き慣れた声に変わった。

 ゲルズだ。


『よし、エリリン、追え。今回の件で、かのエインヘリヤルとの接触は優先すべき課題となった!』


「ええっ! この状況でまだ仕事しなくちゃいけないんですか!?」


『がんばれ』


 ひい、無責任なぁ!

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