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俺、うりぼうを呼び出す

 何かを穿いてくれと言われたので、再びキャラクターシートを見直す俺である。

 キャラクターシートは、俺の感覚ではB4サイズの紙としてイメージされている。

 その右下部分に、アイテム所持欄があるのだ。


「どれどれ……? うん、相変わらずこのゲームのアイテム所持欄は小さい。ええと確か……別でアイテム所持シートを用意していたはずだが、別紙、別紙……」


 無い。

 どこにも無い。

 というか、認識できない。


『あっ! あの紙大事だった? こっちにスタンを連れてくる時に、ピラッと剥がれて世界のどこかに落ちちゃった。なんか風に吹かれてビリビリになってたから、世界中に飛び散ってるかも』

「おぉい!? 大事も大事。俺が百回を超えるかというセッションの中で、集めたり買い求めたりし続けてきた珠玉のアイテム群だぞ? それをおまっ、ピラッと剥がれてとか何だお前ーッ!?」


 あのとんでもないアイテムが、世界にばらまかれた!?

 一つひとつが世界を揺るがすような力を持った、ユニークアイテムの数々だぞ!?

 あまりの事に、俺はその辺の空間に向けて、ぶんぶんと腕を振り回した。

 くそう、あのヴァルキュリア、姿を消してるから当たらん!


『あっはっは、誰しも間違いはあるから! ほらー。どうせなら世界を巡って探せばいいじゃない? この世界ミズガルズには、たくさんの悪しき巨人や魔物、それに世界の外から来た邪神が蠢いてるんだから。エインヘリヤルの力の見せ所じゃない! それに、あたしの姉妹が連れてきた他のエインヘリヤルにも会えるかもよ?』

「そう言われると、俺がアイテムをまるごと失ったのがまるで伏線だったかのように思えて……いやいや、騙されんぞ! 一発お前にデコピンせねば気が済まん!」

『諦めなよー。あたしたちヴァルキュリアの光学迷彩は、例えエインヘリヤルの目だって捉えられないから。ほらほら、鬼さんこちらー』

「むきー!!」


 俺はむきになって、あちこちにデコピンを飛ばした。

 指先は何度も空を切る。

 だが、それがおよそ三十回目に達した時だ。


【クリティカル!】


 脳裏に響く、謎の音声。

 それと同時に、俺の指先は何かに操られるように、虚空のある方向へと伸ばされ、デコピンが放たれた。

 指先が、確かにおでこらしきものを弾く感覚。


『ぎょえーっ!?』


 ゴールが凄い悲鳴を上げながら、姿を表した。


「あひいいいい、額が、額が割れるぅぅぅぅぅ!!」

「むはははは! これが正義の鉄槌だ!」


 おでこを押さえてゴロゴロとのたうち回るヴァルキュリア。

 さっきまで、妙にエコーが掛かっていた声が、普通の響きに戻っている。

 声を加工する余裕もなくなったか。

 うむ、スッとした。


「何か履いたんですか!! 私はこの目を隠すのを止めていいんですか!」

「あっ、済まん、忘れてた!」


 村娘に怒られる俺。

 また、小さなアイテム欄を探す作業に移る。

 俺、一般的な服装とかはアイテム欄の無駄になるので、取得してないんだよな。

 どう見ても、ポーションとか消費型アイテムしか書かれていない。

 ……おっ。

 俺はそこで、一つだけ特異な記述を発見した。

 セーフリームニル。

 これは、俺がゲーム内て獲得し、いつも可愛がっていた非常食の名前である。

 無限に肉を生み出す猪で、その肉は食べても食べても減らない。


「よし、出てこい、セーフリームニル!」


 アイテム欄から、この猪を取り出すイメージをする。

 すると、虚空に猪の(いなな)きが響き渡った。


「ぶいー」


 大地に降り立つ、セーフリームニル。

 ちょこん、という音がした。

 現れたのは、ちんまいうりぼうだ。


「ぶ、ぶ、ぶー。ぶいぶいー」

「おー、セーフリームニル、元気だったかー? 現実のお前はまためちゃめちゃ可愛いなあ」


 わしわし撫でると、セーフリームニルは目を細めてぶうぶう鳴いた。

 さて、俺がなぜこいつを呼び出したかと言うと。

 別に腹が減っていたわけではない。

 それに、非常食とは言っても、セーフリームニルを直接食べるのではないのだ。

 そのことはまた、後で説明するとしよう。


「セーフリームニル。見てのとおり、俺は全裸なのだ」

「ぶうぶう」

「股間を隠すものが必要なのだ」

「ぶい」


 全てを理解した、という顔で、セーフリームニルは頷いた。

 流石、俺の相棒。

 俺はすっくと立ち上がった。

 セーフリームニルは少し助走をして……。

 俺の足を駆け上がると、俺の腰の辺りにぴょーんと飛びついた。

 よし!

 上手いぞ、セーフリームニル!!

 狙いもバッチリだ!


「おい、ゴール! どうだ?」

「どうって、何が……うわーっ! スタンの股間にうりぼうが!!」

「えっ、股間にうりぼうってどういう……きゃーっ!!」


 俺は二人の女子に悲鳴を上げられたのだった。

 だが、これで全裸の問題はクリアである。

※クリティカル

 稀に発生する、大成功のこと。

 サイコロの出目とそのキャラの能力値やレベルで結果を導き出すラグナロク・ウォーだが、クリティカルはあらゆる出目に優先される。

 だが、それに対するリアクションでクリティカルが発生したならば、リアクション側が優先される。


※セーフリームニル

 食べても食べても肉が減らない猪。

 一頭いれば大人数の焼肉パーティーができる。

 こちらの世界では、うりぼうサイズから大型サイズまで変化できるようだ。

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