英雄の弟子、湖畔に消える舟を見る
「ヤーハーッ!! 行くぜえ!!」
アンネが叫び、岸辺を疾走する。
腰の後ろから取り出したのは、大型の銃。その銃身を切り詰め、取り回しを良くしたものだ。
その代りに命中率は下がるが、
「なあに! その分は腕で補う! 親父が言ってた!!」
射撃音が響く。
近くまで迫っていた深淵のものが、肩を撃ち抜かれて呻き、仰け反る。
更に、アンネはキャバリアを操作していたもう片腕も自由にし、太ももに装備していた小型の銃を抜き打ちに放った。
その間も、キャバリアは縦横無尽に戦場を駆け回る。
「歌え、精霊よ。その稲妻を纏いて踊り狂え。喜べ。貴様らと当方の仇敵は、今目の前に」
ドゥーズが高らかに唄う。
低い声音と共に、精霊使いの周囲で金色の精霊たちが出現する。
スタンと相対した時とは違う。
怒りの表情をむき出しにした精霊が、次から次に浮かび上がる。
「行け。精霊群舞……“散雷”!」
横薙ぎの稲妻が生まれた。
それが、迫る深淵のものを薙ぎ払っていく。
「す……すっげえ……」
呆然と立っているフォルト。
まだ探索者になりたての彼は、戦ったことなどない。
戦闘に慣れた二人の先輩探索者の働きぶりに、呆然とするばかりだ。
「フォルトくん、ドゥーズさんとアンネさんが止めきれなかった相手は、お願いしていい?」
「お、おう!」
ソフィの言葉で、フォルトは我に返った。
すると、ちょうどのタイミングで探索者達の猛攻を抜けたエネミーが向かってくる。
彼らの目的は、上陸と地上への浸透だ。
探索者達を振り切り、街へと入り込もうというのである。
「させねえ!!」
フォルトが走った。
その足が、空を蹴る。
すると足元がまるで水のように揺れ、波紋が生まれる。
フォルトの体が、水中を泳ぐように空に舞い上がった。
『!?』
深淵のものは、眼の前から少年が消え、一瞬戸惑ったようだ。
「おらあっ!!」
その頭上から、銛が突き入れられた。
技は未熟で、攻撃の入りは浅い。
だが、フォルトは無意識の内に特技を使用したようだ。
これは、スタンが使っていたものと同じ。特技、強打。
深淵のものから、緑色の血がしぶいた。
それでも、敵の動きは止まらない。
「……!!」
ソフィは腹を決めた。
握ったアゾットに力を込める。
自分の手を下す事が、なんだ。
スタンは前に立ち、恐ろしい敵を次々に薙ぎ払っていたではないか。
「えぇいっ!!」
体ごと突き出したアゾットが、伸ばされた深淵のものの腕を突き刺し、やすやすと切り落とした。
そして、ユニークアイテムの鋭い刃は、エネミーの胸部を打ち抜き……その体内から、爆発的な魔力の輝きを放った。
『ギャバーッ!!』
深淵のものが、光に呑まれて消滅する。
「や、やった……!」
「すげえ! あ、あんた、俺と同じくらいの年だと思ってたのに、凄いんだな!」
フォルトから、尊敬の視線を向けられる。
だが、その間にも敵の動きは止まらない。
次々と、深淵のものは押し寄せてくる。
それはまるで、後ろから何者かに追いやられるかのようだ。
「行け、精霊達よ! 打ち払え! 薙ぎ払え!」
次々に深淵のものを焼き払うドゥーズ。
だが、その魔力も無限ではない。
彼の顔に、脂汗が浮かんでいる。
魔力の枯渇が近いのだ。
「おい、一回引っ込めおっさん!」
アンネが駆け寄り、ドゥーズ目掛けて薬瓶を放った。
MPポーションだ。
しかも、効果が高い特別性。
言うなれば、ハイMPポーションとでも言おうか。
「引っ込めだと……?」
「魔力切れの精霊使いなんざ、足手まといだ! 戦線はちょっとならおいらが支えてやる! 竜騎兵の戦い方ってのを見せてやるよ!」
そう嘯くと、アンネはキャバリアを駆る。
「行くぞ、おいらのキャシー!」
愛称を呼ばれ、キャバリアは高らかにエンジン音を響かせた。
押し寄せる深淵のものに向かって、機械のボディが突っ込んだ。
「アンネさん! 攻撃の補助を!」
ソフィが特技を使用した。
白魔道士のレベルが上がり、新たに獲得した攻撃補助の特技だ。
己の攻撃を放棄することで、その分の力を対象にもたらす。
「感謝! 力がみなぎるぜ!!」
キャバリアが、敵の集団を前にして、スピンした。
意図した動きだ。
跳ね上げられた後輪がエネミーを撃ち、アンネの両手に握られた銃が火を吹いた。
片手の銃を放つ内に、もう片方の銃の弾丸を装填する。
アンネの銃弾は通常以上の力を発揮し、炸裂した深淵のものを撃ち倒す。
「まだか精霊使い! 流石にそろそろきっついぞ!!」
「うむ。お前が作った時間は有用だった。踊れ、雷精」
前に歩み出たドゥーズの全身から、精霊があふれ出した。
それが、残る深淵のものどもを次々に薙ぎ払っていく。
「おほー! さっすが、燃費最悪の精霊使いだ。破壊力だけは超一流だな!」
「口の減らぬ竜騎兵だ」
「み、皆さんお疲れ様です!」
ぱたぱたと近づいてくるソフィ。
そして彼女は、霧の向こうを見た。
エネミー達がやって来たであろう、湖の彼方。
「舟がいます……!」
ソフィの言葉に、フォルトが反応する。
「舟だって!? あいつは……ゴメスのところの舟だ……!!」
新たな情報が、転げ出てきたようだ。
※太ももに装備
そういうホルスターで、女性銃使いのお約束。
両方に装備してある。
※アゾット
ソフィ初キル!
※ゴメスの舟
核心的情報である。




