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ゴッドスレイヤー・俺  TRPGで育て上げた神殺しの戦士、異世界でも超強い  作者: あけちともあき
2,5.ミドルフェイズ:シナリオ『シュヴィーツ湖王国に降り立った異貌の神を倒せ』
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英雄の弟子、朝の湖で霧に巻かれる

「起きて。起きて、アンネさん」

「う、うーん。ううーん……もう食べられない」

「アンネさーん」

「起きないの? そいつ。鼻をつまめば起きるぜ」


 フォルトが手を伸ばし、眠るアンネの鼻をぎゅっと摘んだ。


「も、もが、もががががが」


 バタバタとアンネが暴れる。


「もがあーっ!?」

「うーわーっ!」


 バターンと跳ね起きたアンネに、フォルトがふっ飛ばされた。


「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ、水の底で息ができない夢を見た……! おいらのキャバリア、まだ水中戦装備はしてないからなあ」


 一行は床に雑魚寝していたので、起床したアンネは床に手をついてぜえぜえと息を漏らす。

 彼女の目の前では、フォルトがひっくり返って足をひくつかせている。


「な、なんだこの女! 小さいくせにすげえパワーだ……!!」

「アンネさん、ちゃんとした探索者だからね……」

「お? おう。パワーがないと、キャバリアを動かせないからな」


 一行は軽く朝食をとってから出立することになる。

 干した魚と固いパン、そして煮沸したものを冷ました水。

 アクセントにお漬物。


「なんつーか、不味くないけど美味くもないな」

「お前、文句言うなら食うなよ!」


 アンネとフォルトが口喧嘩をしている。

 その向こうでは、半分魚になったフォルトの両親がパクパクと干し魚を食べていた。

 あの人達も思ったより元気そうだなあ、と思うソフィなのだった。


「それで、ドゥーズさんは?」


 干し魚をてきぱきと食べ終えたソフィ。

 彼女を、「思ったよりも食うなお前」と見ていたフォルトは、我に返った。


「あ、ああ。あの無表情なおっさんなら、なんかさっさと干し魚食べてから外に出てったぞ。夜明け前だったかな」

「ありがとう。ということは、もう湖のところにいるってことだよね」


 ソフィは水をぐっと飲み干すと、立ち上がった。


「じゃあ、行こうみんな!」

「ま、待って! おいらもう少しパンを食べる……!」


 結局、三つもパンをお代わりしたアンネを連れて、ソフィとフォルトは外に出た。

 眼の前では、湖に向かって腕組みをするドゥーズの姿。

 そして、湖はきりに包まれていた。


「こいつが霧だ。前は出てなかったんだけど、霧の中に怪獣が出るんだ」

「確かに……そんなに凄く深いわけじゃないよね……」


 湖の対岸は見通せないが、それなりの距離までなら見える。


「来たか。人間の部分が多いと、睡眠が必要で面倒だな」

「人間の部分……?」

「ソフィ。精霊使いはな、体の一部を精霊に貸すんだ。んで、精霊が乗り移った部分が増えるほど強くなるんだけど、人間から離れていくんだ」


 首をかしげるソフィに、アンネが教えてくれる。

 つまり、ドゥーズはごく短い睡眠を摂っただけで、ずっと湖を監視していることになる。


「当方は明け方前より、湖を監視していた。霧は日の出と共に始まり、そして精霊達は騒ぎ出した。あれはただの霧ではない」


 よくよく見ればドゥーズの周囲に、半透明の影が現れては消え、消えては現れている。

 それらがドゥーズに宿る精霊達であり、精霊とは世界の外より訪れる異貌の神々に牙を剥く、世界が生み出す抗体だと言う。

 人の激しい感情に反応し、精霊は現れる。

 そして、人と契約を結び一つとなる。

 精霊を宿す者は、目的を果たすために精霊を使い、精霊は己が実体化するために精霊使いを拠り所とする。

 精霊と精霊使い。

 彼らの目的は一致しているのだ。

 それは、異貌の神に対する復讐であることが多い。


「来るぞ。眷属だ」

「眷属? なんだそりゃあ? 怪獣のことか?」


 フォルトが顔をしかめた。


「フォルトくん、見たことないの? ずうっと霧は出てたんでしょ?」

「知らねえ。霧の中には怪獣しかいなかった。怪獣さえ避ければ、魚だって捕れるんだ。だけど、怪獣の奴は船を追っかけてくる事があるからさあ」


 ぶろぉんっ、と大きな音がした。

 アンネが、キャバリアのエンジンを掛けたのだ。


「無駄話はそこまでだぜ。どうやら、ドゥーズが言う眷属っつーのが来たみたいだ! ははあ、こいつは、おいらもよく知った気配だ」

「うむ。当方と竜騎兵が仕掛ける。お前たちは援護をせよ」


 ドゥーズは、フードを下ろした。

 むき出しになった彼の顔は、半ばまでが光り輝く紋様で覆われている。

 紋様は青白く光り、それはやがて黄金の輝きを帯びていく。

 それと同時に、霧が来た。


 オォォォォォォォッ……!


 霧の中から、声が聞こえてくる。


「なんだこれ!? こんなん、初めてだぞ! 怪獣は声なんか出さねえ! 俺、こんなの知らねえぞ!」


 フォルトが慌てて銛を構えた。

 ソフィもまた、ギュッとアゾットを握りしめる。

 地元に住まう漁師だったフォルトが知らない。

 それはつまり、今まで隠れていた、この事件の本当の原因が姿を表したということではないだろうか。

 そして……ここには助けてくれるスタンはいない。

 スタンとゴールが、誰かにやられてしまったとは思わないが、ここは彼らの手を借りずに乗り切らねばならない。


「見てて下さい、スタンさん」


 霧が、押し寄せてくる。

 それは漁師たちの住宅街を包み込み、街に向かって広がり始めた。

 ひたり、ひたりと足音がする。

 霧の中を、歩き、水の上をやってくる者がいる。

 それは、半人半魚の化け物たち。

 フォルトとは違う、もっと不気味な、深海魚のような見た目の、潰れた顔つきの異形達。

 (ひれ)と足が混ざったものが、地面を這いずり、前に前に進んでくる。


「異貌の神の眷属……!! 深淵の者(アビス・ワンズ)


 それが、敵の名だった。


「行くぜ!!」


 アンネが高らかに、キャバリアのエンジンを吹かせた。

 スタン無き、ソフィの戦いが始まる。

※水中戦用キャバリア

 操縦者はガラスの半球を被って、上からチューブで空気を入れてやりながら戦うのである。

 あまり実用的ではない。


※小さいのにすごいパワー

 キャバリアを扱える程度の腕力は必要なので、アンネは豆タンクと言えるくらいの馬力があるのだ。


※世界が生み出す抗体

 異貌の神はミズガルズにとっての侵入者、ウィルスであるため、世界そのものが精霊という好中球を作り出しているようなイメージ。


※深淵のもの

 クトゥルフ神話が攻めてきたぞ!!!

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