俺、アイテムの気配を感じてちょっと寄り道する
「それじゃあ私達は、ゴールさんが行った家の人から、詳しい話を聞かないと……」
「そうしよう。異形に変わってはいるが、お前はその程度ではどうとも感じなさそうだな」
「あ、はい。凄いのはたくさん見てきたんで……。えっと、じゃあ私が話を聞きますから、」
「よっしゃ、そうと決まったら行こうぜー!」
おお、ソフィが三人の中心になっている。
スィニエーク村の冒険を越えて、成長したなあ。
ドゥーズもアンネも、ソフィの言葉に頷くばかりだ。
今回、二人共社会性は低そうな探索者だからな……。
だが、やってみた感じ、ドゥーズはかなり強力な精霊使いだろう。
そしてアンネは年齢に見合わず、凄腕の竜騎兵だ。
二人の探索者としての練度はソフィと比べ物にならない。
だがなんと言うかな。
ソフィは、その二人に応と言わせる風格みたいなのがちょっと出てきている。
「うんうん。ここはソフィに任せればよさそうだな」
「そうねー。この間まで、村の普通の女の子だったとか、信じられないわあれ」
「他ならぬ俺がレクチャーしているからな……! で、俺達はその間に、ちょっと回収するものを回収するぞ」
「へ?」
ゴールが間抜けな顔をした。
こいつ、何を自分は関係ないみたいな顔をしているのだ。
俺が回収すると言ったら一つだろう。
ゴールが世界中にばらまいた、俺のユニークアイテムだ。
ちょっと今、俺の直感がビンビン言っているのだ。
近くに、俺が記入したアイテムノートの切れっ端があるってな。
「ソフィ、ちょっとアイテムを回収してくる」
「あっ、は、はい! スタンさん、気をつけて!」
「おう!」
ということで、俺達は水の中へ。
普通、水中で人間は呼吸できない。
だが、ゴールはヴァルキュリア。
平然とした顔で水を呼吸している。
美女が水を吸ったり吐いたりしてるのは、シュールだなあ。
俺はと言うと、エインヘリヤルなので溺死するということはない。
だが、苦しいのは嫌いなので、そのへんにあった桶に空気をためて、そいつを被りながら潜っている。
「ほんとにここにいるっていうの、スタン?」
「間違いない。っていうか、ソフィの命題は異貌の神だったろ? そこにはどこにも、湖に怪獣が現れるなんて書いてない。で、さっきゴールが取ってきた怪獣の皮な。あれを食って姿が変わったってことは、怪獣が異貌の神か、その眷属かもしれないが」
水を蹴って、どんどん底まで潜っていく。
魚の数は多いな。
湖の底には水草が揺らめいていて、陽の光も差し込むようだ。
この様子から見ると、怪獣とやらは魚や水草を食べているわけじゃない。
「怪獣が出てくる時間は朝っぱら、霧の中。んで、船をひっくり返すと。怪獣が消えたら魚は獲れる。さっぱり分からんな。関係があるのか無いのか」
「推理っぽいことしてたのに、実は全然分かってないんじゃん」
「俺は探偵じゃないぞ。戦士だ」
そんな話をしながら、水底に着地した。
さて、アイテムの反応はこのすぐ近くにある。
桶を持ち上げて、息をちょっと止めながら見回す。
水がほどほど澄んでるから、まあまあ見通せる。
俺はぶらぶらと、その辺りを歩き回った。
「あ、なんか来る」
ゴールが実に呑気に指摘した。
俺は、彼女が見ている方向に顔を向ける。
すると、そこには大きく開かれた顎があった。
「うお!?」
流石にびっくりする。
ついさっきまで、何もなかったじゃないか。
俺を食おうとするそいつ目掛けて、俺は拳を叩き込んだ。
レベル5特技の破山撃だ。
水が泡立ち、渦が巻き起こる。
俺の拳は巨大な顎に突き刺さり、何本かの歯をへし折りながら吹き飛ばした。
……のだが。
ふっとばした瞬間、顎はバラバラになり、影も形もなくなってしまった。
「はあ!?」
「スタン、左左」
呑気に指摘するゴール。
振り返ったら、そこにも俺を食おうとする大顎と来たもんだ。
しかもこいつ、怪獣そのものじゃなく、まるで怪獣の口だけが実体化したような……。
「おらあっ!」
俺は振り向きざまの肘打ちをくれてやった。
その一撃は、間違いなく顎の中ほどまで貫き、粉々に砕いたはずだ。
だが、振り切った所で大顎はまた消滅してしまった。
後を、優雅な顔して魚が泳いで行く。
こんな状況で、よく平気で泳いでるなこの魚。
魚……?
うん……!?
「ああ、なーるほど」
ゴールがニヤッと笑った。
「これ、スタンとは相性が悪いねえ」
「そう思うんなら手伝ってくれよ」
俺が肩を竦める背後で、何かが集まっていく気配を感じる。
この気配は、さっきからずっとあったものだ。
湖の底を泳ぎ回る魚の気配だ。
それが集まり……巨大な顎に変わる。
こいつ、魚の群体だったのか!
ス◯ミーかよ。
「スターン。頑張って耐えてね」
ゴールが、実にいい笑顔を見せた。
彼女の小脇には、とんでもないものが装備されている。
それは黄金のガトリングガン。
銃口の全てには、光り輝く槍が設置されている。
ヴァルキュリア・ジャベリン・ランチャー。
ヴァルキュリアが持つ、最高ランクの装備の一つだ。
おいおい。
洒落になってない。
俺は慌てて、特技【を】使用した。
「騎士の盾ッ!!」
俺の目の前に、盾の形をしたエネルギーの塊が出現する。騎士の2レベル特技だが、鍛え抜けばヴァルキュリアの必殺武器だって防げるぞ。
そこを目掛けて、ゴールはランチャーをぶっ放した。
回転するランチャーが、次々にジャベリンをぶっ放す。
ガトリングガンと違うのは、目に見える槍が全弾発射されてしまえば、次弾はやって来ないことだ。
俺の背後にあった大顎の気配が、一瞬で粉々になった。
俺はと言うと、この大バカヴァルキュリアの攻撃を防ぎきれず、バカスカとダメージを食らってしまった。
ああ、いてえ。
「ほい、一丁上がり! スタンのアイテム、小魚たちが回収してたのねえ」
平然と言い放つゴール。
憮然とした俺の顔の横を、ユニークアイテム、大鮫の矛が流れていくのだった。
※エインヘリヤルは溺死しない
エインヘリヤルになるということは、神の領域に達しているということである。
ということで、水中でも真空中でも、特に問題なく行動できる。
スタンが桶を被ったのは気分の問題である。
※ス◯ミー
我が名はス◯ミー。我ら数多きが故に
※ヴァルキュリア・ジャベリン・ランチャー
構造はガトリングガンなのに、ランチャーとはこれいかに。




