俺、今回の探索者全員を確認する
「エインヘリヤルだと……? そんな馬鹿な。それは伝説上の存在のはずだ」
「それはね、あたしが保証するわ。ほれほれ、あたしの格好を見て。何なのか分かるでしょ」
「……そんなまさか……。ヴァルキュリア……だと……!?」
この精霊使い、気持ちいいくらいに驚いてくれるな。
俺もゴールも、かなり得意げな表情になっていることだろう。
「あの、精霊使い……さん? この人達が言ってることは本当です。スタンさんは、とても強いエインヘリヤルで、ゴールさんも本物のヴァルキュリアです。それで、私がお二人に連れてきてもらってる探索者で」
ソフィを見た精霊使いは、なるほど、と唸った。
「確かに探索者だ。そして、彼女が保証する以上、お前たちの正体はその通りなのだろう。信じがたい事だが」
「はい。私が受けた命題は、“シュヴィーツ湖王国の、異貌の神を退けよ”です」
「当方が受けた命題は、“異形の姿に変えられた民を救え”だ。目的は同じところにあるだろう」
精霊使いは納得した。
彼の目から青い輝きが消え、目の周りの紋様も消滅する。
彼はフードを脱ぎ、顔を顕にした。
黒髪に青い瞳の中年に差し掛かるくらいの男性である。
「ソフィです」
「ドゥーズだ。お前が今回の命題における仲間のようだな。しかし、命題を持たぬエインヘリヤルとヴァルキュリアが何故……」
小柄なソフィと、大柄なドゥーズは握手を交わす。
ドゥーズが言う、俺たちがどうして参加しているかだが、ありていに言ってしまえば他にやることが無いからだ。
それに、前回のように、デュナミスとかが出てこないとも限らないからな。
ちなみに、俺もゴールもニコニコしているだけで、ドゥーズの疑問に答えるつもりはない。
精霊使いは、解せぬ……という顔をしたまま、俺たちとの同行を認めたようだ。
事は丸く収まった。
収まったというのに。
「ええい、待て待てーい! こんな街中で争う奴があるかー!!」
明らかに状況からワンテンポ遅れた事を叫びながら、ぶろろろろんっというエンジン音と共にやって来た者がいる。
なんと、頭上からだ。
「うおっ、街の上の方から、屋根伝いに!」
帝国が開発した二輪車、キャバリアが、跳躍を繰り返しながら近づいてくる。
乗り手は一見して小柄な奴だ。
しかし、恐るべき腕前だな。
次々に屋根を伝い、ついにキャバリアは俺たちの前に着地した。
エンジンは吹かしっぱなしだ。
「争いはやめろお前らー!! おいらの目玉が茶色なうちは、そんなことは許さんぜー!!」
「いやいや、終わってるから。争いはもう終わってるから」
威勢よく、エンジン音と共にがなる竜騎兵。皮のヘルメットにゴーグル、そして全身を覆うライダースーツで、どういう人間なのかよく分からない。
だが、俺の言葉を受けて、彼はゴーグルの奥の目を丸くした。
「へっ!? も、もう終わってんの!?」
声が甲高い。
これは女だな。
案の定、ゴーグルを外した下にあったのは、幼さの残る少女の顔だった。
「あっ、こっちです! 探索者はこっちでーす!」
ソフィがぴょんぴょん跳ねて、俺の後ろから手を振っている。
竜騎兵の少女はそっちに気付き、俺とゴールを順繰りに見た。
「へ? この明らかに強そうな男と、ヴァルキュリアっぽい姉ちゃんは違うの? ……まあ、言われてみりゃ、なんでこの男普通の服しか着てない上に手ぶらなのとか、姉ちゃんは不気味な魚の皮をぶら下げてるし、おいらもおかしいと思ったんだよなあ!」
こいつ、今明らかにその場のノリで物を言ったな?
竜騎兵だけで、ノリに乗る、か。
むっ、上手い。
「スタンさんはなんだかニヤニヤしてますけど、私が白魔道士のソフィで、こちらが精霊使いの」
「ドゥーズだ。お前も間違いなく探索者だな」
「おうよ! おいらは竜騎兵二代目! アンネさ!」
いかんいかん。
自分のダジャレに満足していたのが、顔に出ていたようだ。
とにかく、これで今回の事件に関わる探索者が揃ったようだ。
シュヴィーツ湖王国は、ヴァルキュリアに対する害意も余計な尊敬も無い国だし、ゴールにはそのまま仕事をしてもらおう。
「あたしは隠れなくていいの?」
「うむ、俺達はお手伝いさんとしてだな。今回の事件に関わる……」
「へーへー。スタンってほんと、そういうの好きだよねえ」
「ばっか、強すぎる奴が入ってきて、『全部アイツでいいんじゃないかな』ってなったら興ざめだろ!? その場にいる全員が満足するためにセッションはあるんだ」
「TRPG脳め。でもわかりましたよーだ。あたしもサポートに徹するから」
それに、俺とゴールの出番は必ずある、と睨んでいるのだ。
ミズガルズは、俺が知るラグナロク・ウォーのように命題が降りてきて、探索者達は集い、冒険の旅に出る。
だが、その冒険の難易度が、俺が知るゲームのそれから大きく逸脱してしまっているように見えるからだ。
俺達二人の仕事は、ゲームバランスをおかしくしてる奴らをぶっ飛ばすことなのである。
※得意げな表情
二人共とてもいいドヤ顔である。
※エンジン音
マキナ帝国の錬金術による作品。
動力は特殊な油と周辺の魔力。
魔力は正面で吸い込んで排気筒から吐き出す、ジェットエンジンのような構造になっている。




