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グラムフォース、世界の異変に気付く

 そこは、光に満ちた空間だった。

 真っ白な天井は円形に湾曲し、全体が淡く輝いている。

 壁面には黒い巨大なボードが設置され、そこに緑色の光で、ミズガルズの全図を映し出している。

 空間には、無数のテーブルが並んでいた。

 それぞれのテーブルに、一名ずつの人員が付き、卓上に配置された半球状の水晶塊と向き合っている。

 水晶塊は断面に、ミズガルズにおける様々な地域や、あるいは文字による情報を映し出していた。


「連絡は途絶えたままか?」


 テーブルの間を、一人の女が歩く。

 ゆったりとした白のローブに、輝く青い装飾品を首や腕に纏う。

 髪の色もまた青く、長く伸びた髪の間から、尖った耳が突き出していた。

 エルフ。

 その中でも、ハイ・エルフと呼ばれる存在である。

 ハイ・エルフは、一人ひとりが小神とも呼べるほどの力を有し、永遠の命を持つ。

 かつてミズガルズには、彼らハイ・エルフが多く住んでいた。

 だがある時、ハイ・エルフは世界を捨て、彼らの世界、アールヴヘイムを作り上げて移り住んだのだ。


 今この場にいるのは、ミズガルズに残った数少ないハイ・エルフの一人。

 蒼玉のゲルズ。

 そして彼女は、ミズガルズにおける探索者組織、グラムフォースの長でもある。


「天界との連絡は途絶えたままということか?」


 再び、彼女は口を開いた。

 薄青いルージュが惹かれた唇から溢れるのは、怜悧な響きを持った言葉だ。

 夜の海よりなお深い青を湛える、彼女の瞳。その瞳孔がスッと絞られた。


「は、はい! ヴァルハラ、反応はありません! 集っていたエインヘリヤル達の気配も……。命題感知装置(クエストグラスパー)、沈黙しています!」


 命題感知装置とは、世界で活躍する探索者達を把握し、与えられた命題から、世界に今起こっている危機を感じ取るシステムだ。

 ハイ・エルフが過去に作り上げた偉大なる遺産の一つであり、ミズガルズの平和を守り続けてきた礎でもあった。

 それが今、天界にあると言う、主神オーディンの神殿、ヴァルハラを感知できないという。

 ヴァルハラには、ヴァルキュリアたちに(いざな)われた歴戦の勇者たち、エインヘリヤルが集う。

 エインヘリヤルの全ては、かつて命題(クエスト)を背負う探索者だった。

 偉大なる冒険を成し遂げ、彼らはヴァルハラへと召され、エインヘリヤルとなるのだ。

 彼らが再び地上に舞い戻るときは、世界の命運を賭けた大いなる戦い、ラグナロクの時。

 エインヘリヤルもまた、特別な命題(クエスト)を持つ。

 それを感知することで、グラムフォースはエインヘリヤルをも把握していた。


「……ということは、我らの知らぬ間に、天界は陥落したと見える」


 ゲルズの言葉に、空間は一瞬、沈黙に包まれた。

 次いで、ざわめきが広がっていく。

 ここは、グラムフォースの中枢。

 アールヴヘイムとミズガルズの間に浮かぶ、万能次元航行艦、グラムシップの中だ。


「恐らくは、外なる神の仕業であろう。それも、天界を落とすほどの勢力で攻め寄せてきたことはこれまでに一度もない。外なる神に、何者かが入れ知恵をしたのであろうな。私のレセプターがそう告げている」


 ゲルズが指し示したのは、彼女の額に輝く水晶状の物体だった。

 これこそ、ハイ・エルフを特別な存在たらしめる、彼らと世界そのものを繋ぐ受容体。

 時に、ハイ・エルフはレセプターを通じ、誰も知り得ぬ真実を知ると言う。


「だが、それが何者なのかは知れぬ。神は消え、エインヘリヤル達もまた、姿を消した。彼らを誘っていたヴァルキュリアもまた、同じであろう。あるいは、異世界へと飛んでいたヴァルキュリアがいれば、この災を逃れている可能性もあるだろうが……」

「はい、検索を掛けてみます! 命題感知装置、起動!」


 ゲルズの横で、水晶に手をかざす人物。

 彼らはよく見れば、尖った耳を持つエルフであった。

 ゲルズの下位に当たる、定命のエルフ達。

 彼らが、グラムフォースの中枢を占める者達なのだ。

 発動した水晶……命題感知装置(クエストグラスパー)がミズガルズを走査する。

 それは世界を一通り撫で……そして異常な反応を二つ検知した。


「……い、いました! ミズガルズの地上に、一人だけヴァルキュリアがいます! その……何故か命題(クエスト)が無いので、今まで感知装置に引っかからなかったのですが」

「命題が無いヴァルキュリア……!? まあ良い。そして、反応はもう一つあるようだが」

「は、はい! こちらも、何故か命題(クエスト)が無いのですが、明らかにエインヘリヤルです!」

「命題が無いエインヘリヤル!? それは一体どうなっているのだ!? 存在自体がありえないではないか! それとも、世界のありとあらゆる命題を受け、それら全てを達成してしまったエインヘリヤルだとでも言うのか!?」


 永遠に近い命を持つゲルズにすら、未知である存在が二つ。

 しかもそれは、彼らの近くにいる駆け出しの探索者が命題を受けていたから、そのオマケで見つかったに過ぎない。

 あまりに理解不能な事態に、ゲルズは吐き捨てるように「全ての命題を達成したエインヘリヤル」と口にした。

 小神とも言えるほどの彼女をもってしても、それが真実を言い当てた言葉だとは、想像もできなかったのである。


「良かろう。現在の希望は、そのヴァルキュリアとエインヘリヤルとなろう。我々から接触を図る」

「は、はい!」

「事は、ミズガルズのみならぬ、全世界の存亡が掛かっている。これより、作戦名をコード=ヴォルスングと呼称する。状況開始。急げ!」


 多くの探索者達を束ねる、グラムフォース。

 それは世界を救う、救世機関である。

 今、彼らは未だかつて無い世界の危機を察知し、前代未聞のエインヘリヤルに接触を図ろうとしていた……。


※命題がないヴァルキュリア

 ゴールのこと。なんで命題が無いのかがサッパリ不明。

 普通のヴァルキュリアは、命題みたいなものを持っています。

 それは基本として“勇者をヴァルハラへ導く”というものだったりします。ゴールにはないです。


※なぜか命題が無いエインヘリヤル

 我らが全裸様、スタンのこと。

 ヴァルハラ行くはずが、何故か地上で裸で転がってましたから。

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