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俺、エンディングを楽しむ

 スィニエーク村に朝日が昇ってくる。

 井戸から引き上げた俺たちは、地平線から顔を出す太陽を見て、ほっと一息を吐いていた。

 周囲では、村人たちが倒れている。

 だが、一人、また二人と起き上がって来ているようだ。

 きょろきょろと辺りを見回し、同じように倒れている人がいるのを見て悲鳴を上げる。


「良かった。みんな元に戻ったみたい」


 ソフィが呟いた言葉は、俺たちみんなの気持ちの代弁だった。

 今回のシナリオのボスと思われた村長と戦って、これで終わりかと思っていたら、突然デュナミス・タクトとか言う男が現れた。

 しれっと平気な顔をしてやっつけたが、内心ドキドキだ。

 ラグナロク・ウォーには設定すら存在しない相手だ。

 ああいうのがいるってことは、この世界は俺が慣れ親しんだTRPGと違う世界なのかもしれない。


『そりゃ違うに決まってるでしょー。現実なんだから』


 耳元で、ゴールが囁いた。




 俺たちは、村人たちの手当てをし、起き上がれるものは広場に集まってもらった。

 そして、今回のあらましについて説明する。

 その間に、吊るされていた死体だとか、不気味な神像なんかは処理しておいた。

 今回の下手人が村長だということで、驚きの声を上げる村人も多かった。

 だが、ローブの下にある村長の体が、触手と一体になっているのを見て、誰もが彼が村を狂わせた黒幕だと理解したようだ。

 そうそう。

 村人たちにはうっすらと記憶があった。

 村長に操られていた時の記憶だ。

 罪悪感を覚える者も多いようだが……。


「そこは、近隣の都市から機械神の僧侶が派遣されてくることでしょう。デウス・エクス・マキナに懺悔し、深く神を信じることを誓えば、神は彼らを許すでしょう」


 ラシードが今後の流れについて説明してくれた。

 彼は帝国の錬金術庁から、特命を受けて調査にやって来ていたのだ。

 ラシードの報告が錬金術庁に伝われば、そこから帝国が然るべき処置をするために動き出す。


「では、我々はここで分かれる事になるな」


 アレクセイはいつもながら、真面目くさった顔で言った。

 だが、そんな彼の顔に、わずかながら笑みが浮かんでいることに気付く程度には、俺は彼と親しくなったつもりだ。

 アレクセイは、実験型機甲兵の生き残りだ。

 どうやら回収部隊とやらに追われているようで、一人、マキナ帝国の荒野に旅立つのだとか。

 ほんと、主役みたいな奴だ。


「ソフィ、せっかく仲良くなれたのに、お別れは残念です。きっと妹というものがいれば、あなたのような存在だったのでしょう」


 イアンナは猫耳をしょんぼりと伏せながら、ソフィの両腕をぽふぽふする。


「私も、イアンナさんと別れるの悲しいです。だけど、私はまだ未熟な探索者だし、スタンさんと一緒に行って、色々学ばないと」

「はい。いつか成長したソフィに会えることを願っています。必ず再会しましょう。約束ですよ?」


 女子たちも別れを惜しんでいた。

 イアンナは多くは語らないが、職業(クラス)の上だけでなく、彼女は帝国上層部の密偵だろう。

 探索者を敵視する帝国だが、その中には探索者の有用さを知り、彼らを使って様々な活動を行う者がいる。

 そういう勢力に属しているはずだ。

 だから、イアンナはソフィに愛着がわいても、彼女を誘うことはしない。

 イアンナが帰る世界は、闇の世界だからだ。

 そして俺たちも……。


「あっ、命題(クエスト)が……!」


 ソフィが驚きの声を漏らした。

 彼女のキャラクターシートに記入されていた、命題が解消されたのだろう。

 クリアしたのだから当然だ。

 それはアレクセイたちも同じようだ。


「この件は完全に終わったな。スタン殿、ソフィ、世話になった。皆もな。ではさらばだ」


 アレクセイはそれだけ言うと、俺たちに背を向け、立ち去っていく。


「ソフィ、元気でいるのだぞ。研鑽を積み、必ずや一人前の錬金術師となるのだ。困った事があれば、いつでも帝都にいる私を訪ねるといい。そしてスタン殿。助かりました。貴方が何者かは分りませんが、命題無き貴方がこの事件に関ったこと、これは機械神の……いや、あまねく神々の御意思があってのことでしょう。私は聖職者ではないが、貴方の行く先に、正に神々の導きと、大いなる戦いが待っていることを確信しています。どうか、貴方に御武運があらんことを」

「ありがとうございます、ラシードさん!」


 ラシードとソフィは、ぎゅっと握手を交わしていた。

 あの錬金術師、ちょっと涙目になっていたな。

 そしてイアンナだ。

 気がつくと、ソフィがぎゅっと抱きしめられていた。

 ソフィも抱き返す。

 言葉はいらない、ということらしい。

 いいなあ、と俺はその光景を見つめていた。

 やがて、二人は離れる。

 イアンナは一度振り返ると、そのまま地平線の向こうに駆けて行った。


「ああ……みんな行っちゃった」


 気が抜けたように呟くソフィ。

 俺もまた、胸をじーんとさせて感動していた。


「素晴らしいエンディングフェイズだった……」

「またスタンがTRPGの話してる。TRPGバカか」


 姿を現したゴールが、俺の頭をぽかりと叩いた。


「いいだろう。このミズガルズ、何から何まで俺が遊んだゲームに似てるんだから。それに、本当にこういう別れのシーンを拝めるとは思わなかった……」

「はいはい。それより、次はどうすんの? あたし、お父様から何にも指示は降ってこないし、姉妹たちも反応がないし、完全に放置されてるんだよね。もちろん、スタンは命題(クエスト)なんか降ってこないでしょ」

「来ないなあ」


 俺はキャラクターシートの、空っぽになっている命題記入欄を見つめた。


「ソフィはどうだ?」

「私は……えっと、あっ、レベルが上がってます。白魔道士と放浪者が、1ずつ! それから……あれ? 命題が書き換わってる」

「おおー!」

「おー!」


 俺とゴールが歓声を上げた。

 やる事が見つかったぞ。

 最強のエインヘリヤルと、最上位個体とやらのヴァルキュリア。

 そんな二人が揃って、命題が無いために、次に何をしたらいいか分らないのだ。

 うむ、なんとも間抜けな光景だな。

 頼みの綱は、駆け出し探索者であるソフィだけ。

 さて、彼女の新たな命題とは……?


「“シュヴィーツ湖王国の、異貌の神を退けよ”……だって」

「シュヴィーツ湖王国というと……南西だな!」

「よし、行こう行こう!」


 こうして、俺たちは新たな命題に向けて旅立った。

※ラシード

 いちいちしゃべる内容が長い。


※ということで

 これにて、第一シナリオが終了です。

 GM(筆者)は次なるシナリオを鋭意製作中です。

 半月くらいお待ち下さい。

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