俺、ようやく出番を得る
どうやら、シナリオの最後の最後に、とんでもないイレギュラーが出てきたようだ。
村長っぽい男が口にしてた、デュナミスという存在が、多分目の前のこいつなんだろう。
というかこいつは何だ。
タートルネックのシャレオツなセーターに、高そうなジーンズ、そしてスニーカー。
現代人じゃないか。
雰囲気壊すなあ……。
「スタンさん!」
「おうよ」
ソフィが俺の名を呼ぶ。
アレクセイたちも、俺に目線を向けている。
俺は軽く手を上げて答えた。
「じゃあ、これは俺が担当する。みんな、お疲れ様」
俺はぶらりと、デュナミス・タクトと名乗った男の前に出た。
「なんだ君は? そんな見すぼらしい毛皮をまとった、しかも素手の男が僕の相手をすると?」
タクトは口を開きながらも、手の平の上の球体に魔力を収束し続けている。
これはユニークアイテムかな?
だとすると、こいつを倒すと手に入るかな?
「おい! 聞いているのか! まあいい、死ね! ここにいる全員、諸共にな!」
黒い球体が膨れ上がった。
そこから、強烈なパワーを感じる。
周囲の何もかもを巻き込みながら、どんどん巨大化していく。
球体に触れた触手が、次々に分解されて消滅していった。
それが、俺と、そして背後にいる仲間たちに迫る。
「これ、神技じゃないといいなあ」
俺は思いながら、球体をつん、とつついた。
おっ、ピリッと来たが、これは闇属性ダメージだな。
これなら防護点が90点あるぞ。
「よし、ではカバーリングするか。ワイドカバーで行こう!」
ワイドカバーは、正しくは騎士の9レベル特技、大いなる守護のことだ。
戦場にいる全ての仲間を庇い、俺が一人でダメージを受ける特技だ。
これの計算が独自でな。
俺の防護点を抜けたダメージを、庇った人数分倍するのだ。
黒い球体は膨れ上がり、仲間たちを飲み込もうとする。
だが、それは俺のところで止まった。
バリバリと音を立て、毛皮が分解されていく。
闇の向こうで、タクトが笑っているのが見えた。
そして、その笑みがすぐに凍りつく。
球体が俺のところで止まり、先に行かないからだ。
「なんだ!? 何が起こっている!?」
「カバーリングしたのだ……」
俺は優しく説明してあげた。
「馬鹿な……馬鹿な!! それならどうして貴様は無事でいるんだ!? というか全裸じゃないか! やめろ! そんな汚いものを僕の前に晒すな!」
「ひどい」
俺はちょっと傷ついた。
スタンの肉体美はなかなかのものだと思うがなあ。
現実世界の俺は、お腹の出た中年だったが、こっちの世界では逆三角形ボディのマッチョなのだ。
この肉体の美しさが分からんか。
「ええい化物め!! こんな話聞いていないぞ! こっちの世界にいる探索者どもは、みんな弱っちい雑魚ばかりじゃなかったのか!? ここで無双すればエネルゲイアへの道が開けると聞いていたのに! 楽勝のはずだったのに!!」
なんだかよく分から無いことを言っているな。
少なくとも、この男が話す言葉は、ラグナロク・ウォーというゲームの範疇に収まるものではない。
こいつ、別のシステムから来たな?
「世の中はそんなに甘くないということだな。ほい、防ぎきったぞ。ダメージはゼロだ」
闇の球体の膨張が止まり、一気に収縮していった。
後に佇む俺は、毛皮こそ失った全裸だが無傷だ。
タクトは愕然としながら、次の瞬間には額に青筋を浮かべ、顔を真赤にして怒った。
「なんだ、なんだよ、なんなんだよお前は!! そんなのズルじゃないか! チートじゃないか!!」
「ズルでもチートでもないぞ。俺はきちんとセッションを重ね、年月を掛けてキャラを育てたんだ。これはきちんとシステムに則っていてだな」
「うるさいうるさい! 黙れええええ!!」
タクトは叫びながら、球体から今度は触手を繰り出してきた。
頭に血が上っているのか、俺ばかりを狙ってくる。
俺はこいつを真正面から食らってみた。
うむ、打撃属性ダメージだな。この防護点なら90点ある。
ちょうどいいマッサージみたいな感触だ。
「なんだよ、なんだよお前ええええっ!? 倒れろ、倒れろよ!? 僕は選ばれた存在なんだ! デュナミスなんだぞ!? なのに、なんでお前みたいなのがいるんだよおおおお!!」
「そりゃあ、スタンはあたしが選んだエインヘリヤルだもの。多分エインヘリヤルでも最強よ? 侵略者ごときが勝てるわけないじゃん。あっはっはー!」
ゴールが姿を現して、タクトを指さして笑った。
この女、状況が面白そうになってきて、我慢できなくなったな。
しかも相手を挑発するとか、本当に性格が悪い。
「ヴァルキュリア!? しかも最上位個体か!! くっそ、こんなの無理だ! 少なくとも僕がエネルゲイアに進化しないと勝負にならないじゃないか! それに攻撃が効かない全裸がいるなんて! ええい、撤退だ!」
タクトは闇の球体を再び膨張させ、その中に潜り込んでいく。
逃げるつもりだ。
「覚えていろよ、全裸の変態め! 今度会う時は、お前が死ぬ時だ! 夜道とか後ろとか、仲間の身に気をつけろ!?」
「気をつける必要はない。何故ならお前はここで終わりだからだ」
俺は丁寧に、彼に対して返答してあげた。
構えるのは、対単体用の強力な特技。
戦士20レベル特技、絶対攻撃。
効果は、外れない攻撃。
突き出した俺の拳が、闇の球体に炸裂した。
そして、脳裏にその言葉が響く。
【クリティカル!】
戦士11レベル特技、貫く刃が発動する。
これは、クリティカルすることで、俺の攻撃が全ての防御や、ダメージ無効化を無視して相手にダメージを与えるというものだ。
常時発動型なんだが、クリティカルしないと意味がないんだよな。
ということで。
「!!」
俺の拳が、闇の球体ごとタクトをぶち抜いた。
デュナミスだとか名乗った男は、まんまるに目玉を剥いて俺を見て、口をパクパクさせた。
うん、どうせ大したことは言っていない。
俺はここで、1レベル特技を追加で叩き込んだ。
特技、強打。
ダメ押しのダメージ追加特技だ。
球体とタクトの体が一瞬膨れ上がり、そして破裂した。
そいつは、黒い光みたいなものに変化し、周囲の空気に溶け込み、消えていく。
「あっ、命題クリアって出ました!」
背後から、ソフィの声が聞こえる。
よし、これで俺の最初のシナリオは、達成だな。
※シャレオツ
スタンの敵である。
※全裸じゃないか!
隙あらば脱ぐ。
※チートじゃないか!
重ねた年月の重みである。
※常時発動型
これの種別の特技は、自分の意志でオンオフが出来る。
戦闘に入ると自動的にオンになる。




