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ゴッドスレイヤー・俺  TRPGで育て上げた神殺しの戦士、異世界でも超強い  作者: あけちともあき
1,5.ミドルフェイズ:シナリオ『スィニエーク村を救え』
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英雄の弟子、呪われた村に侵入する

 遠目に見ても、スィニエーク村は異様な場所だった。

 雑に作られた柵が村を取り囲み、そこここに、棒で吊り下げられた何かがぶら下がっている。

 それが人間の死体であると気付いて、ソフィは真っ青になった。

 膝がガクガクと震える。


「あ、あれは……。そんな……」


 ソフィの肩を、スタンがぽんぽんと叩いた。


「落ち着くんだ。探索者を続けていけば、いずれ見ることになるものだ。世界は理不尽で残酷に出来ている。俺だって、実物を見るのは初めてだが、SNSでグロ写真や動画で慣れていなければ戻している所だ。しかし、これでスィニエーク村が異常な状況にあることは分かった」

「はい。人の命を弄ぶ何かがいるんですね……」


 ソフィの横で、ラシードが賢者の箱を起動した。

 箱は唸りを上げて展開すると、その中から光る文字のようなものを吐き出す。

 文字が組み合わさり、それは羽の生えた小鬼のような姿になった。


「恐らくあれは、これまでスィニエーク村を調べに来た帝国の人間だ。あるいは、探索者も混じっているかも知れん。我が使い魔で近づいて見てみたが、生きたまま貫いて晒し、ミイラになるまで放置しているようだった。だが、異常なのはあれだけではない。グレムリン!」


 ラシードが呼びかけると、小鬼が頷いた。

 彼の使い魔はグレムリンというらしい。

 グレムリンは飛翔すると、村に近づいていく。

 彼が見た光景は、賢者の箱を通してラシードに送られているようだ。


「スタン殿の仰る通り。見張り台に立つ者はこちらを見ていない。そもそも、見張りが一名だけ。あるいは奴の注意を別方向から引くことができれば、侵入はより容易くなるだろう」

「では、陽動は私が担当しましょう。アレクセイ、ここで神技を使用しても……?」

「うむ。氷の巨人のようなものがいないならば、使用してしまって構わない」

「了解しました。任せて下さい。その隙に、皆さんは侵入を。私は後から合流しましょう」


 イアンナが呟く。

 先刻のお茶で、すっかりイアンナに親近感を抱いていたソフィ。

 だが、仕事に挑むイアンナは、やはり熟練の探索者なのだ。

 彼女は立ち上がると、その手を胸に当てた。


「“ウル神の加護よ、我に”」


 その瞬間だ。

 イアンナの頭から、ぴょこんと飛び出す物がある。

 ソフィは目を疑った。

 それは彼女の髪色と同じ、灰色の猫耳だったのだ。

 猫尻尾まで飛び出している。


「え、ええっ!? イアンナさん!?」

「このことは秘密です……にゃん」


 締まらない言葉を口にしつつ、イアンナはスッと空気に溶けるように消えた。


「き、消えちゃった」

「神技だな。ウル神の力を用い、自分の姿を消すんだ。こいつは本当に見つからなくなるぞ。あらゆる知覚手段で捉えることができなくなる。同じ神技じゃないが、ソフィにも使えるぞ」

「わ、私にもそんな事が……!? じゃなくて! 師匠、イアンナさんの頭に猫耳が! お尻から猫尻尾が!」

「ウェアリンクス族だったんだろう。ギャップ萌えだな!」


 スタンの説明は、的を射ているような射ていないような。

 少しして、ラシードが「よしっ」と呟いた。

 

「見張りが倒されたぞ。騒ぎを起こすというのとは違うが、これで見つかる心配はない!」

「た、倒したって」

「ああ、殺したという意味ではない。見張りを気絶させたということだ」


 ラシードは、ソフィに対して気遣いのある説明をする。


「良かった……」


 ホッと胸を撫で下ろすソフィ。

 だが、いつまでもぐずぐずしてはいられない。

 せっかくイアンナが作ってくれたチャンスなのだ。


「行くぞ」


 アレクセイが宣言した。

 彼は重厚な機械仕掛けの甲冑を身に着けているとは思えないような速度で駆け出す。

 後に続くのは、ラシード。


「ソフィ、行くぞ」

「は、はい!」


 スタンに促されて、ソフィも駆け出した。

 だが、先行する二人の探索者とは、どんどん距離が開いていく。

 スタンはソフィに合わせて、のんびり走っているようだ。


「す、スタンさん! 私と一緒だと遅れちゃう……! 私を置いていって……」

「ああ、ならばこうすればいいんだ!」


 スタンはひょいっとソフィを抱え上げた。


「ひゃーっ」


 悲鳴をあげるソフィだが、その口を、目に見えない何者かが塞いだ。

 ゴールだ。

 スタンはあっという間に、彼らに追いついた。

 そして明らかに手加減して速度を合わせる。


「ソフィ、まだ君は初心者だから、行動値がレベル相応で低いんだ。成長すれば速くなるから問題ない。今は俺に頼っておくといい」

「……」


 ソフィは無言で頷いた。

 ゴールに口をふさがれているので、そもそも喋れないのだが。


「よし、来い」


 アレクセイが柵の下で立ち止まり、腰を沈めた。

 腕を組んで、ラシードを待つ。

 アルケミストは、アレクセイの膝と腕を駆け上がると、柵に手を掛けて飛び越えた。

 次いでスタンを見るアレクセイ。


「ああ、大丈夫だ。自前でやる」

「分かった」


 アレクセイは頷くと、無造作に跳躍した。

 一跳びで柵の上に着地する。

 そして跳び越えた。

 スタンもまた、彼の後を追って跳ぶ。

 ソフィの視界が、ぐんと高くなった。


「……!」


 ちょっと高く跳び過ぎたようで、そこは村が一望できる高さ。

 ソフィは、村の隅々までを見渡すことが出来た。


(なに、あれ……!)


 村のあちこちに佇む、異形の彫像。

 塗料で青く染められた、異常に細長い人間の像だ。

 まるで、サーペント山で遭遇した巨人のような。

 この村は普通じゃない。

 ソフィはその思いを強くしたのだった。

※吊り下げられた死体

 威嚇のためなのか、何らかの宗教儀式のためなのか。

 モズのはやにえみたいなものかもしれない。


※グレムリン

 錬金術で作られる、オーソドックスな使い魔。

 戦闘能力は一切無いが、見聞きしたものを術者に伝えることが出来る。


※にゃん

 ネコミミ!!


※異形の彫像

 雪山で戦った巨人のそれ。

 巨人とは言うが、のっぺりとしていて顔などの細かな造形はない。

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