英雄の弟子、帝国の村に驚く
マキナ帝国側の探索者だという三人に案内され、ソフィはスタンたちとともに、帝国の村に足を踏み入れた。
目の前に広がる光景は、辺境の村で生まれ育ち、一度も他の村や町を見た事が無いソフィにとって、衝撃的なものだった。
道は石が敷き詰められ、その上を人々と荷馬車が行き交っている。
立ち並ぶ家々は少々古びているものの、しっかりとした木造だ。
スタンが建て替える前の、ソフィの村の家々よりもずっと大きい。
「凄い……。大きい村……!」
「お前が生まれた場所は、帝国の外なのだから無理もあるまい。マキナ帝国は錬金の技により、例え最西端にある小さな村と言えど、これだけの繁栄を享受できるのだ」
アルケミストの説明に、ソフィは目を見開くばかりだ。
すると隣にスタンがやって来て、ぶつぶつと呟く。
「イメージどおりの姿だ。いや、荷馬車ではなく、何か錬金術を用いた運搬用の機械が働いていると思ってはいたが、むしろ今のこの姿のほうがファンタジー世界らしくていいじゃないか」
いつも通り、意味の分からない事を口走るスタンだが、ソフィは慣れたものだ。
対して、アルケミストには言葉の意味が伝わったらしい。
「お分かりになりますか、スタン殿。錬金の技は機械神の加護を受けて発達しましたが、まだまだこのような辺境にはその恩恵が行き届かぬ有様。いや、帝国の事情を良く知っておられる方に、恥ずかしい話を聞かれてしまった」
アルケミストの男は顔をちょっと赤くしている辺り、本当に恥ずかしいと思っているようだ。
ちなみに聞かれて恥ずかしいと言っているのは、ソフィに向かって帝国の偉大さを説いた辺りらしい。
「……ということは、首都に行けば道を車が走っている?」
「ええ、その通りです。錬金の技が生み出した蒸気機関により、馬の要らぬ鋼の車が走る、世界最先端の都ですな」
二人の話を聞きながら、ソフィは首をかしげた。
村に攻めてきた帝国の軍隊は、馬を連れていたような。
「ラシード、いつまでも立ち止まって話をしないで下さい。拠点に戻りますよ」
スカウトの女性がやって来る。
ちょっと怒っているようだ。
ラシードと呼ばれたアルケミストは、顔をしかめた。
「そう言うなイアンナ。これはもっと重要な意味を持つ知識の交換でだな……」
「知識の交換をするのは結構だが、我々には時間がない」
ばっさりとラシードの言葉を遮ったのは機甲兵。
二対一と知り、スタンに助けを請うような視線を向けるアルケミストだったが……。
「ほう、時間が無いということは、シーン数制限があるシナリオなんだな? それは急がねばなるまい」
相変わらず意味不明のことを言いながら、スタンは機甲兵の側についた。
愕然とするラシード。
案外、可愛げがある彼の様子に、ソフィは思わずくすりと笑った。
「ところで、君たちの名前を聞くのを忘れていたな。俺は知っての通り、スタン。スタン・レイクス・ウィルコットだ。こちらはソフィ。俺の後輩だ。初心者プレイヤーだから、みんなでサポートして育てて行こう」
「プレイヤーとはよく意味が分りませんが、探索者として初心者であるという意味でしょうか。そうであるならば、スタン殿の提案はもっともであると私は肯定します」
スカウトのイアンナは賛成の意を口にする。
機甲兵も無言で頷いた。
ラシードに至っては、何を当たり前の事を、という顔をする。
実際、ソフィに対して探索者として、アルケミストとしての心得を道中、親身になって教えてくれたのはこのアルケミストである。
「それでは私から名乗りましょうか。私はアルケミストのラシード。帝国が誇る黄金機関に所属する、第六位階のアルケミストです」
誇らしげに彼が語ると、スタンが「ほお!」と感心した声を漏らした。
「第六位階とは凄い。頂点が第九位階だったはずだが、第九は名誉位だから、在野のアルケミストとしては頂点じゃないか」
「スタン殿、何から何までよくご存知で……」
これには、帝国側のパーティも大変驚愕したようだ。
ソフィは相変わらず、言葉の意味が良く分っていない。
ラシードさんかあ、とアルケミストの名前が分っただけでニコニコしている。
次いで、スカウトが名乗った。
「私の名はイアンナです。見ての通り、軽装での戦闘行動を得意とします。専門は銃撃。よろしくお願いします」
簡易な自己紹介であり、彼女がどういう背景を背負っているのかは何も分らない。
だが、スタンだけはちょっと口元を緩めながら、頷いていた。
これは、イアンナの素性に気づいているのではないか、とソフィは思う。
何しろ、何でも知っている自分の師匠なのだ。
最後に機甲兵。
「アレクセイ・ピャーチだ。俺は試作型強化機関を施された五人目の機甲兵だ。今は計画は凍結され、俺は自由の身だ」
スタンがぼそっと、「やだ、PC1っぽい」と呟いた。
アレクセイの言葉に、ラシードもイアンナも、特に口を挟まないし、表情も変えない。
みんな仲良しなんだなあ、とソフィは思うのだった。
※恥ずかしい
田舎の娘にイキっていた自分を恥じるのである。
※馬がいた
サイボーグ馬。生半可な蒸気機関を用いた車よりも早く、そして行動は柔軟性に富む。
※黄金機関
帝国が誇る、錬金術師達の象牙の塔。
市井や貴族の子女から才能あるものを見出し、育てている。
帝国の技術の全ては、この黄金機関が担っている。
※PC1っぽい
スタンさん、PC5でしたか。




