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俺、村に別れを告げる

 村の人々に、ソフィをもらう旨を告げた。

 彼らの、あからさまにホッとした顔が印象的である。

 明らかにソフィを持て余していたのだろう。

 それがしかも、探索者になってしまった。

 二重の意味で帝国に狙われる存在になったソフィは、どちらにせよ村にはいられなかっただろう。


「あの、全裸様……じゃなくて、えっと、スタン様」

「様はいらない。俺と君は主従関係というわけではなく、仲間だ」


 いやね。

 内心では、年頃の女の子に様付けで呼ばれるのも悪くないかなーって思ったりするんだが。

 でも、スタンは中学生くらいの娘にそんな事を言わせる男じゃないだろう。

 だから、俺はこういう事を言わないといけない訳だ。


「じゃあ、あの……スタンさ……スタンさん」

「おう」

「その、命を助けてもらったばかりでなく、これからお世話になるみたいで」

「気にするな。それより、君は“命題(クエスト)”を得たんだろう。それを聞かせてくれ」

「あ、はい!」


 “命題(クエスト)”とは、人を探索者たらしめる、魂に課される目的である。

 これを果たすことで、探索者は強く、より強く成長していく。

 それがどこから来るのかは分からない。

 神が下すのかもしれないし、あるいは俺たちが知らぬ存在がいて、それが下すのかもしれない。

 だが、探索者は命題を果たす度に成長し、新たな命題を得る。

 そしてまた命題をこなして強くなる。

 ……そうか!


「俺はレベルがカンストしちまったから、これ以上命題が降って来ねえのか……」

「スタンさん?」

「いや、なんでもない。で、どういう命題なんだ?」

「はい。あの……これ……」


 ソフィが戸惑っている。

 何を困った顔をしているんだ?


「でもこれ……。“命題(クエスト):帝国のスィニエーク村を救え”って……」

「救う……? 随分抽象的な命題だな。だが、やることがはっきりしているのはいい」

「ほいほい。じゃあ、行こっか」


 俺たちの話を聞いていたゴールが、ふわりと空に舞い上がった。

 村に振り返ることはない。

 ソフィは少しだけ名残惜しそうに、チラチラと背後を気にしていた。

 だが、そこは既に彼女の居場所ではない。

 こういう中世時代っていうのは、迷信深いものだ。

 一度タブーを犯した人間を受け入れるような余地は存在しない。

 そういった異分子を排除し、なるべく同質の人間たちで、互いを見張り合うようにしながら共同体を維持する。

 そうしなければ、生きていくことさえ怪しいような、厳しい時代なのだ。


 こうして、俺たちは村を後にした。

 考えてみれば、俺にとって初めて目的が出来たわけだ。

 探索者として頂点に至り、さらにエインヘリヤルとなって全てのレベルをカンストさせた俺に、命題が下されることは(恐らく)無い。

 ちなみに、俺が所有するユニークアイテムたちは、その一つ一つが大いなる命題を果たした末に手に入れたものだ。

 全てが、伝説級の命題そのものが形を変えたものと言っていい。

 故に、アゾットに選ばれたソフィは命題を得て、探索者となった。


「これ、ヤバイのは、俺のユニークアイテムを手にして、万一選ばれた奴がいたら、探索者が量産されちまうってことだな……。大丈夫か……? ユニークアイテムで得られる命題は、伝説級だぞ。なりたての探索者がクリアできるようなもんじゃない。挑んだら死ぬ」


 俺はしかめっ面になっていた。

 思った以上に、事は重大だ。

 頭の上をふわふわ飛びやがるヴァルキュリアが、ご丁寧にユニークアイテムを世界中に撒き散らした。

 さっさと回収していかないと、ソフィみたいなのが次々に生まれるかも知れない。

 今回は俺が近くにいたからいいようなものの、そうでないならば……考えたくも無いな。


 俺たちは、ソフィと出会った森に入り、抜けた。

 その先に広がるのは草原だ。

 見れば、草木は少しずつ枯れ始めている。

 秋が過ぎ、冬になろうとしているのだ。


 草原は思いの外広かった。

 歩き続けていると、ソフィが遅れ始めた。


「疲れたか?」

「いえ、ま、まだ大丈夫です!」

「まだ、ということはもうかなり疲れているな。ここで野宿しよう」


 そこは草原のど真ん中……いや、もう半日も行けば、向こうに見え始めた山に差し掛かるだろう。

 そこに行く前に一休みするべきだ。

 ソフィは少しむくれていた。


「まだ大丈夫なんですけど。私だって、探索者になったんですし」

「まだ駆け出しだ。一般人とそう変わりはしない」


 俺はキャラクターシートを展開し、アイテム欄を探った。

 とりあえず、飯を調達するためにセーフリームニルを取り出した。


「ぶっぶぶー」


 外に飛び出して、ぴょんぴょんと飛び跳ねる聖獣うりぼう。

 次は水。

 これは念のため、村から水を汲んできていた。

 キャラクターシートに30リットルと書いてある。これを取り出すだけで……待て待て待て。容器がない。


「ゴール! おいゴール」

「なーにー」

「兜を貸してくれ」

「へ? 何に使うの?」

「水を入れる」

「は?」


 俺は目にも留まらぬ速さで、ゴールの兜を奪い取る。

 そこに、アイテム欄から取り出した水を注いだ。

 キャラクターシートの記述が、28リットルになる。


「ぎゃーっ! あたしの兜が!!」

「使い終わったら被るがいい……そうしないと水が飲めないんだから仕方ないだろう」


 ぶーぶー言いながら、ゴールは兜の使用を認めた。

 ということで、空を仰ぎながらの野宿なのだ。

※スタンさん

 全裸さんとはならない。


※一般人とは変わらない

 一般人もクラスを持ち、レベルアップする。

 探索者との差異は、命題(クエスト)の有無と神技、そしてエインヘリヤルへと到れるかどうか。


※兜

 ヴァルキュリアの出汁が出ているかも知れない。

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