俺、後輩ができる
「えっ、俺のアゾットの所持権が移ってる?」
キャラクターシートを見てびっくりする俺である。
ユニークアイテムの数々は、俺が経験点を消費して手に入れた、常備化ポイントというもので取得している。
これがちょこっと戻ってきていたのだ。
「あ、あのう、全裸様」
「見て見てスタン! この娘、覚醒したみたい! 新しい探索者の誕生ね! スタンが持ってたユニークアイテムで覚醒したから、スタンの後輩みたいなものね」
「ほう……」
村娘のソフィが、探索者になったらしい。
命題を得ることで、人は探索者となる。
探索者はゲーム的には、最大三つまでのクラスを取得し、冒険を続けることで成長し、強くなることができるのだ。
そして何よりも、探索者となることは神の加護を得るということを意味する。
俺はまだ使っていないが、神技と呼ばれる、神の権能の一部を行使できるようになるのだ。
「俺のアゾットが、君を探索者にしてしまったようだな。いいのか?」
「は、はい。私、このまま村にいても居場所がないですし……」
ソフィは村の人々に、帝国軍を連れてきた娘と思われていた。
俺が村人を説得したが、彼らはあくまで俺の力の前にひれ伏しただけで、内心までは従っていなかったわけだ。
力の限界だな。
それに、探索者となってしまったら、普通の生き方はできなくなる。
これは俺の責任でもある。
うーむ、軽々しく行動してはいかんな。
ゲームとは違うな……。
「あ、あの、では、私は全裸様とヴァルキュリア様と一緒に行かせてもらうことは」
「おう、いいぞ。そのままでは、戦い方も分からないだろう。俺が教えてやる。クラスはなんだ?」
「クラス、と言いますと……」
「ふむ……。キャラクターシートって分かるか? 自分の能力を見たい、とイメージしてみろ」
「は、はい。んっ……」
ソフィが目をぎゅっと閉じて念じる。
すると、どうやら彼女の目にキャラクターシートが見えてきたようだ。
「あっ、見えました! ええと、白魔道士に錬金術師、放浪者……」
「メインクラスが白魔道士だな。補助系か。魔法は……持ってないよな? で、錬金術師と。これは帝国相手には便利だな。帝国の技術……マキナ科学っていうんだが、そいつを扱うことができるようになる。だが賢者の箱が無いから、今のところは何もできんな。使いやすいのは放浪者か。情報収集に長けたクラスだ」
「は、はあ」
ソフィがぽかんとしている。
俺はちょっと考えた後、自分が装備している魔法を外した。
「手を差し出してくれ。これをやろう。こっちはヒール。相手を癒す魔法だ。こちらはキュア。BSを解除する。ただし、ソフィのレベルでは一つのBSしか解除できない。BSの種類については、また教えよう」
差し出したソフィの手に、魔法を乗せる。
見た目は、白いぼんやりとした光球にしか見えない。
これが彼女の手に吸い込まれていった。
「あっ。これ、使い方が分かる……!」
「しっかり装備されたな。魔法は、片手魔法と、効果は高いが両手で装備する両手魔法がある。ヒールもキュアも、片手魔法だから一度に両方装備できるぞ」
「はい、ありがとうございます!」
これで、ソフィはすぐに活躍できるだろう。
武器もアゾットがある。
ユニークアイテムだから、本来低レベルの探索者が手に入れられる装備ではない。
十分だろう。
ソフィは魔法を試すように、手の平を光らせた。
そして、その後、不思議そうに俺を見つめた。
「どうした?」
「いえ、あの、全裸様って……何者なんですか? 前までは、想像できないくらい強いとしか分からなかったんですけど、探索者になった今なら、貴方が信じられないくらいの高みにいることが分かります。戦士みたいなのに、魔法にも詳しくて、それでヴァルキュリア様と共にあって……。さっきだって、帝国の恐ろしい軍隊を、まるで子供扱い」
「そうだな。それはおいおい、教えていこう。君は俺に守られる存在ではなく、並び立つ存在に変わったんだ。それが探索者というものだ。それと……。仲間である以上、全裸様というのは止めておこう……」
「あっ。は、はい、ごめんなさい!」
俺たちのやり取りを見て、ゴールは無責任にけらけら笑っているのだった。
※クラスが三つ
最大で三つだが、エインヘリヤルであるスタンは、戦士から派生したエインヘリヤルクラスである、戦王を持っている。
もちろん、クラスを一つしか持っていない者もいるし、二つの探索者もいる。
※神技
クラスや、その探索者の精神のあり方、生き様などからもたらされる、三つの超常的な力。
全ての守りを無視してダメージを与える『神の雷槌』や、
死者や重傷者を一瞬で癒やす『黄金の林檎』、
戦場を冥府に変え、女神の権能で一網打尽とする『冥界の女神』などがある。
※キャラクターシート
自分の能力の把握の仕方は、その探索者に拠って様々である。
ソフィはここでスタンに指導され、キャラクターシートとして自分のステータスを把握したことになる。