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俺、マキナ帝国と戦う

これにて、始まらないプロローグの話が終わり、次回はいよいよ、シナリオに突入するプロローグとなります。

 奴らはすぐにやって来た。

 マキナ帝国だ。

 森をなぎ倒し、真っ黒な機械仕掛けの馬車が次々にやって来る。

 サイボーグ馬に牽引された馬車の大きさは、一つ一つがドミー男爵の屋敷ほどもあるだろう。

 馬に引っ張られるばかりではなく、自らももうもうと黒煙を上げて走る馬車を見て、ゴールは大層感心したようだ。


「人間もやるもんだね。あんな大きなモノを、魔法を使わずに動かしてるんでしょ?」

「正確には錬金術だな。マキナ帝国は錬金術を極めた帝国だからな。これを用いてホムンクルスやサイボーグ、ゴーレムを作り出す。ラグナロク・ウォーのサプリメント、マキナ帝国によれば、あの馬車はコンテナと言ってだな、それぞれの中に二十人の機甲兵を搭載している。より大きなサイズのものは、機甲兵が乗り込んで動かす大型甲冑、ゴーレムを運搬しているぞ」


 俺が説明する様を聞いて、男爵軍の騎士は目を丸くした。


「ど、どうして帝国に関する詳細な情報を!? まさか貴様、帝国の回し者か!」


 いきなりカッとなって剣を抜いてきたので、俺は奴の剣に「ていっ」とデコピンをしてへし折った。


「あっ! 我が家に伝わる宝剣が!!」

「落ち着け騎士よ。これくらいの知識、ラグナロク・ウォーのプレイヤーであれば誰でも知っている。ちなみに俺はマキナ帝国側のPCも遊んだ事があってな。PCになった機甲兵は成長できるので、大変強くて面白いんだ。成長すると固定値が上がっていくので、強さが分かりやすくてな。その代わり特技を使った立ち回りがほとんど出来ないので汎用性に欠けるな」

「……!?」


 男爵軍側の者たちは、誰も俺の言葉を理解できないでいる。

 済まん。ゲーマーの血が騒ぎ、語ってしまった。

 俺は咳払いをすると、スタンのロールプレイを始めた。


「とにかく。どれだけ機甲兵がいようが、この俺の敵ではない。警戒すべきは、彼らの中にエリートクラスやリーダークラス、あるいはアルケミストがいる可能性だ」

「エリートクラスに、リーダー、アルケミスト……!」


 男爵軍の騎士が、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 アルケミストというのは、マキナ帝国で言う魔法使いだ。

 賢者の箱(ブラックボックス)という装置を用いて、無から有を生み出すような、錬金術と言う次元ではない魔法を使いこなす。

 これがまあ、威力はさほどではないが、行動妨害に範囲攻撃、属性攻撃に仲間の支援と、多岐にわたる性能を持つのだ。

 そして何より、マキナ帝国最大の戦力、ゴーレムはアルケミストによって作られる。

 アルケミストがいるということは、ゴーレムがやって来ているとも言えるのだ。


「ゴーレム来てるのかな……。マジでロボットみたいな外見なのかな」


 俺はちょっとウキウキだ。

 何せこの世界は、ラグナロク・ウォーの舞台となったファンタジー世界、ミズガルズそのままなのだ。

 ちょっと俺が降り立った場所がドマイナーなところだったせいで、俺が知ってる都市や国家がまだ登場してきてないが。

 さて、俺たちの目の前で、マキナ帝国の軍勢はどんどんと展開していく。

 その数は、およそ三百人というところか。

 村の総人口が二百人で、ドミー男爵軍が傭兵も含めて百人ちょっと。

 兵の質を普通に考えると勝てないな。


「あ……あれがマキナ帝国……!」

「ここまで来たってことは、ついに西方諸国を侵略するのか……!」

「なんだ、あのでかい鎧は! 巨大な馬は!」


 傭兵たちはすっかり浮足立っている。

 傍から見ていると、いわゆる古代~中世ヨーロッパ風の戦士たちと、スチームパンクとメカが混ざりあった世界の戦士たちの戦いだ。

 技術レベルでも、双方の差は大き過ぎる。

 いわゆる、中世ヨーロッパ風ファンタジーな男爵軍にとって、スチームパンクな帝国軍は、さぞや異質な軍隊に見えることだろう。


「落ち着け諸君! 帝国軍は一見、異質かつ強大な相手にみえるだろう。だが勝てない相手ではない。戦う前から諦めたら、そこで試合終了だぞ」


 俺は元の世界で読んだマンガの台詞を口にしながら、前に進み出た。

 ファンタジーvsスチームパンクの戦いには興味がある。

 だが、その戦いの前に一つ確認したいことがあった。

 俺が落としたアイテムを、帝国が回収していないかどうかである。

 一人歩み出た俺に、帝国も気づいたようだ。

 最も近いコンテナから、他とは違う機甲兵が降りてきた。

 それは、黒地に赤の紋様が入った機械の甲冑。

 動く度に蒸気の煙が上がり、全身から機械が蠢く音が聞こえる。

 手にしているのは、ドリルのついた竿状武器だ。

 機甲兵のリーダーと見て間違いないだろう。


『ドミー男爵の使者とお見受けする。汝らに勝ち目なし。恭順の意を示せば、寛大なる皇帝陛下は汝らを二級市民として迎え入れるであろう。降伏の意思はありや?』


 機械仕掛けの鎧の下から、無機質な声が聞こえてくる。

 並の人間なら、この見た目と声だけで圧倒されてしまうだろう。

 だがしかし、俺はそうではない。むしろ感動していた。

 何しろ、この姿……!

 ルールブックに描かれたエネミーのイラストのままだ。

 ……本物だあー、と感激する気持を抑え込みながら、俺はあえて冷静な声を作った。


「残念だが、俺は男爵側の人間でもないし、村の人間でもない。そして、彼らはお前たちに降伏する事など無いだろう」

『なにっ』

「お前たちと戦うと言うことだ。……ところで、お前たちに聞きたいことがある。俺はエインヘリヤルで、たくさんのユニークアイテムを持っていたのだが、そのほとんどを落っことしてな。帝国に突然、強力なアイテムを持った人間が現れなかったかどうかと言う……」

『問答無用』


 俺がエインヘリヤルと名乗った瞬間、機甲兵リーダーが仕掛けてきた。

 俺は咄嗟に彼の攻撃を躱し、捌く。

 そして思い出した。

 マキナ帝国は、俺たちエインヘリヤルや、そうなるであろう可能性を持ったキャラクターたち、探索者(シーカー)を目の仇にしているのだった。

 ちなみに探索者というのが、ラグナロク・ウォーにおけるPCの基本的な立場である。

 神によって探索すべき命題(クエスト)を与えられ、それを見つけるべく旅をする。

 大体の状況において、命題を果たすためには、覇権主義であるマキナ帝国とぶつかり合うことになるのだ。

 ということで、マキナ帝国は探索者と、探索者の到達点であるエインヘリヤルを死ぬほど嫌っている。


「悪い悪い。俺はお前らにとっちゃ、仇みたいなものだったな。まさに問答は無用だった」


 ドリルの槍を握って受け止めつつ、俺は笑う。

 回転するドリルは、触れたものを削り、抉る力を持つ。

 だが、俺の防護点は刺突属性にももちろん対応していてな。

 俺の握力もあって、槍の回転が完全に停止する。


『槍を素手で防いだ……!? 想定以上の強力な戦士、エインヘリヤルを確認。指令。全軍、攻撃態勢。敵に第一級攻撃目標発見、エインヘリヤル……!! 至急、応援を請う!』

「おう、来いよ。お前ら一度戦闘不能にしてから、聞きたいことを聞いてやる」


 なし崩し的に、俺vsマキナ帝国の戦いが始まってしまった。

※サイボーグ馬

 機甲兵に用いられる錬金術により、強化、改造された馬。

 優れたタフネスとパワー、そして恐怖への耐性を持つ。


探索者(シーカー)

 ラグナロク・ウォーにおけるPCたちのこと。

 命題(クエスト)を受け、世界の危機に立ち向かう。

 彼らは成長して偉大なる探索者(グランド・シーカー)となり、さらに限られた一握りの、運命に選ばれた存在がエインヘリヤルとなる。

 どこぞのエインヘリヤルは、ワラジムシを掘り返して喜んでいるが。

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