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俺、男爵と会う

「お前が、ヴァルキュリアと共に、村に現れた戦士か?」


 俺の目の前には、髭をはやした恰幅のいい男が座っている。

 ドミー男爵だ。

 目つきは鋭いというか、小狡い光を放っていると言うか。

 俺はそいつを、仁王立ちで見下ろす形だ。

 兵士が慌てて俺を平伏させようとしてくるが、俺に掴まったままブランとぶら下げられてしまった。

 人間の力で俺を動かすことはできんからな。


「いかにも。俺はエインヘリヤルだ」

「神の戦士だと……? 大言壮語を吐く。そこの女も、ヴァルキュリアかどうか怪しいものだ。噂では、帝国は機械仕掛けの天使まで作り出しているそうではないか。機械人間の類ではないとどう証明する?」

「俺の言葉は、俺の行動が証明するだろう」

「な、なにっ!?」


 俺が全く怯む様子が無いので、男爵は調子を崩したようだ。

 いつもならば、地位とあの眼光に任せて、相手を思うように動かしているに違いない。


「徴税官にも話したが、もう一度ここで伝えよう。マキナ帝国の手勢があの村の近くまでやって来ているのだ。既に猶予はない。俺を尋問する暇があるならば、帝国の侵略に備えて兵を集めるべきだと思うが?」

「な、何を言っているのだ貴様……! 私の言葉に答えるでもなく、私に説教か!?」


 わなわなと男爵が震える。

 大変プライドが高い御仁のようだ。

 現実世界での、俺の上司のようだ。

 本当に人の話を聞かないんだよなあ。


「ぶ、無礼者! 出会え出会え!」


 男爵が叫ぶと、あちこちから兵士が飛び出してきた。

 まだ屋敷にはこれだけの手勢がいたのか。

 ゴールは手出しも口出しもせず、楽しげに俺のやることを見守っている。

 うちのヴァルキュリアは放任主義らしい。


「人間を手に掛けるつもりはない。だが、男爵。貴方のプライドのために彼らを俺にけしかけるというのならば、その彼らが辿る道こそが、俺の言葉の証明になることだろう。その代わり、当分の間、身を護る戦力を失う覚悟をすることだ」

「なに? 何を企んでいる? この期に及んで命乞いか! 構わん、やってしまえ、お前たち!!」

「はっ!」


 兵士たちの中から、特に装備がいいものが数人現れる。

 騎士階級か何かだろうか。

 どちらにせよ関係ない。

 俺は男爵の前で奴らと向かい合った。

 向こうは武器を抜く。

 屋内だからか、ショートソードだな。

 対する俺。

 今までの俺は、レベルにして90という、超高レベルのキャラクターが放つ存在感だとか、強さを外に漏れ出さぬよう、体の内側に押し込んでいた。

 平常時のスタンは、そこにあるだけで周囲に強さ故の圧迫感を撒き散らすようなのだ。

 今回はこれを解放し、特技にまで昇華させたもので彼らの相手をする。


 レベル19特技、ウォー・プレッシャー。使用者のレベルの1/2までのレベルのエネミーを即座に戦闘不能にする特技だ。

 便利だが、一シーンに一回という制限がある。

 シーンとは、その状況が発生し続けている間のことだ。

 俺が男爵と向かい合う状況では、一度しか使えない。


 だが、効果はそれで十分だった。

 俺が解き放ったプレッシャーで部屋が満たされると、騎士が突然白目を剥き、糸の切れた操り人形のように倒れ込んだ。

 ピクリとも動かなくなる。


「なっ!?」


 男爵が立ち上がった。

 騎士の後ろに詰めていた兵士も、一人残らず倒れていく。


「死んではいないが、しばらく動けんだろう。これが、俺からの証明だ。確かに示したぞ。そして彼らは数日の間使い物にはなるまい。これは貴方の選択でもある」

「ぬ、ぬぐぐぐぐ」


 男爵は真っ青な顔をして唸っている。

 ウォー・プレッシャーは、範囲を標的とした特技だ。俺の任意で対象となる相手を選択できる。あえて男爵は目標から外したのだ。

 結局男爵は、俺がエインヘリヤルで、ゴールがヴァルキュリアであるという事を認めざるを得なかった。

 これによって、辺境の村はエインヘリヤルとヴァルキュリアによって改造されたのであり、神の戦士の意思のもとにあの姿になったのだから、あの建て替えに対して余計な税を取ることは出来ないことになったのだ。


「いやあ……下らない事で時間を取られてしまったな」

「でも、秘蔵の樽をもらったじゃない」


 ゴールは大きなビア樽を抱きしめて、満面の笑みを浮かべている。

 それもそうだな。

 男爵領では豊富に麦が採れるのだという。

 これを使ったビールが名産品で、その名産ビールを一樽、俺たちは男爵からせしめて来たのだった。


「村に帰ったら、そいつで一杯やるか! 異世界のビールはどんなんだろうなあ」

「あの領地の名産品になるくらいでしょ? 美味しいに決まってるじゃない。問題はつまみよ、つまみ。セーフリームニルにお肉を出してもらって、ビールに合うように料理しなくちゃ。ビールに合う肉と言えば……」

「燻製だな!」

「それ!!」


 ゴールと二人、大盛り上がりになりながら村へと取って返した俺。

 男爵の軍勢や傭兵は、俺たちをぎょっとした様子で見てきた。


「な、なんだ貴様。とんでもない速度で走っていったと思ったら戻って来おって! あの方はどうした!」


 軍隊を率いていたらしき騎士が、徴税官のことを尋ねてくる。

 そこで俺は、ゴールが持ってるビア樽を指さした後、


「もう男爵には会ってきた。男爵は俺がエインヘリヤルであると認め、疑いの詫びとしてビールをくれたのだ。それで話は終わりだ。村には何の落ち度もなく、行われた全てのことは、ヴァルキュリアとエインヘリヤルが己の意思で行ったことだ。これを裁く法は、人間の世界にはない」


 そう伝えた。

 騎士は目を剥いて樽を見ると、


「た、確かにあれは、ドミー男爵家で作っている樽の紋様……。本当に男爵のお屋敷まで行ってきたというのか……!」


 わなわなと震えだした。

 彼らをスルーして、村に戻る俺である。


「ということで、ま、無駄足になってしまったな。戻るがいい」


 俺は村の入口から、兵士たちに向かってひらひらと手を振った。

 その時だ。

 向こうから、何頭かの馬が駆けてくる。


「隊長ーっ! 森に……森に、マキナ帝国の軍が……!」

「なんだと!?」


 おお、いよいよおいでなすったか。

 俺はそいつらを待っていたんだ。

※ドミー男爵

 この地方を治める領主であり、西方のベネルク連合王国に所属する貴族。

 ベネルク連合王国は、この北欧地方を占領しており、言わば外から来た領主である。

 治世は悪くないらしいが、北欧からの税の取り立てなどは厳し目。


※裁く法

 今回は珍しく真面目なスタン。

 彼は決しておバカなだけではないのだ。

 そして相変わらず圧倒的な力をバックにした外交!


※ビア樽

 この地方のお酒は、エールではなくラガーに近いお酒。

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