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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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8.悪魔の崇拝2

 やってきました、鍛錬場。ここは、いくつかある鍛錬場のうち、ジラルダークは来ない方の鍛錬場ならしい。今度、来る方の鍛錬場に連れてってもらおう。


 さっきの休憩所と違って、今度はこっそり鍛錬場の二階部分から中を窺ってる。


「あそこに見える双子の少年が、ノエとミスカ、ですわ」


「うわー、かわいい。天使みたいだね」


 ふわふわの巻き毛につぶらな瞳。じゃれあうように鍛錬場を駆け回ってる姿は、まるっきり子供だ。


「ちなみに、彼らは私よりも年上、だよね?」


「はい。外見上は少年ですが、実年齢は私よりも上です」


「……悪魔って、ややこしいのね」


 あの外見でベーゼアより年上とか。ジラルダークもあの見た目で御年680歳以上だもんね。悪魔は見かけによらないね。


「で、どっちがノエさんで、どっちがミスカさん?」


 そうベーゼアに尋ねたら、双子がこっちを向いた。ものすごい勢いでこっちを向いた。

ひっ?!何でこっち向いた!?この距離で聞こえたのか!?


「お后様!」

「お后様だ!」


 うわーい!と双子が駆け寄ってくる。ちょ、ここ二階ですけど。何かうっすら双子に纏わり付いてるように見えるけど。うわ、浮いたよ、二人とも。


「これは精霊術でございます。ノエ、ミスカ共に精霊を操る術に長けておりますわ」


「せ、せいれい……」


「お后様、こんにちは!」

「こんにちはー!」


「ええ、こんにちは」


 元気よく挨拶されて、思わず顔がほころんでしまう。嘘みたいだろ?これでベーゼアより年上なんだぜ。


「僕はノエです!」

「僕がミスカです!」


 はいはーいと手を上げて交互に自己紹介してくれた。ええと、右目の下にホクロがあるのがノエさんで、左目の下にホクロがあるのがミスカさん、と。

 しいて言えば、ノエさんの方がちょっと垂れ目っぽい。じっくり見ないと分からないレベルだけども。


「お后様、僕たちに御用ですか?」

「それともお散歩ですか?」


「ふふっ、お散歩よ。陛下には内緒でね」


 人差し指を立てて言うと、二人とも内緒内緒とはしゃぎ始めた。こ、この子たち、本当にベーゼアより年上なの!?


「御前を失礼致します、奥方様」


 きゃいきゃいはしゃぐ双子に戸惑ってたら、もう一人二階に上がってきた。もちろん、階段から……だあぁッ!?


「お目にかかれて光栄にございます。ダニエラと申します」


 上がってきたのは、髪の毛がヘビでドレッドの女の人だった。べ、ベーゼアといい勝負の美女さんだ。ダニエラさん、ってさっきベーゼアが教えてくれた魔神の人たちにいたよね。このヘビドレッドさんも魔神さんか。


「ノエ、ミスカ、奥方様の御前であるぞ。弁えよ」


「いいのよ。こちらこそ、急にお邪魔してしまってごめんなさいね」


 今にも叱りつけそうなダニエラさんに、私は首を振って微笑んだ。


「寛大なるお言葉を頂き、恐縮至極にございまする」


 私の言葉に、ダニエラさんは優雅に頭を垂れた。古風な人だなぁ。頭は奇抜だけども。うにょうにょしてるよ、ヘビさんたち。あれ生きてるのか。


「ベーゼア、奥方様にご不快な思いをさせるでないよ」


「ええ。……では奥方様、参りましょう」


「そうね」


 頷いて、ダニエラさんに叱られてしゅんとしてしまったノエさんとミスカさんに視線を向ける。


「また今度、お散歩に来るわ。その時にも遊んで頂戴ね」


「!」


 私が怒ってないと伝わっただろうか。ノエさんとミスカさんは嬉しそうに笑顔を咲かせた。うん。どうみても子供だ。


「是非またいらして下さい、お后様!」

「絶対いらして下さい、お后様!」


「ええ。ダニエラさんも心配してくれてありがとう。またね」


 頭を垂れるダニエラさんに手を振って、私はベーゼアを追う。ベーゼアは、一度部屋に戻りましょうと言って来た道を戻り始めた。

 ふーぅ、疲れたー。緊張するし、悪魔の人って見た目奇抜な人が多いし、御后様ってどんな感じでいればいいのか手探りだし、気疲れするわぁ。


「申し訳ございませんでした、奥方様」


「へ?」


「ノエとミスカです。もう少し弁えるものかと……」


「い、いやいや、あれくらいでちょうどいいよ。見た目も子供じゃない。無邪気で可愛いよ」


「……二人とも、100を超えたところですわ」


 ひゃく?100を超えた……って、え、まさか。


「お察しの通り、年齢が、です」


「うわーお。天真爛漫なまま、ご成長なされてるわねー……」


 この世界に来ると成長が止まるってジラルダークは言ってたけど、もしかしたら体だけじゃなくて精神年齢もストップかかっちゃうのかな。それともキャラか。ノエさんとミスカさんはキャラを大切にするタイプなのか。


「あれでいて、彼等の精霊術は陛下もお認めになる程の力を持っております」


「なるほどね。まぁ、私は無礼者ーって喚くキャラを目指してないからさ。あんまり叱っちゃダメだよ」


「はい、奥方様」


 穏やかに頷いたベーゼアは、そのまま私の背後に視線を向けた。ひゅ、っとベーゼアが息を飲む。どうしたのかと振り返ると、廊下の先に殺人鬼と海坊主がいた。重量級キター。廊下が狭く感じるよ、お二人さん!


「奥方様、このようなところで如何なさいましたか」


 身軽に駆け寄ってきて跪いたのは殺人鬼さんだった。ええと、グステルフさん、だったよね。続いて、海坊主さんも跪いた。こっちはナッジョさん、だよね。


「こんにちは、グステルフさん、ナッジョさん。今、ベーゼアにお願いしてお散歩しておりましたの」


 小首を傾げて微笑めば、顔を上げたグステルフさんも目を細めて笑う。おお、殺人鬼から前科一犯になったぞ。その調子だ、グステルフさん。


「どうぞ、我々のことはお呼び捨て下さいませ、奥方様。我々は、武にしか脳がありませんゆえ、敬称を付けられるような身分にございませぬ」


「その武が誇れることでしょう。陛下との戦い、感服いたしました」


「勿体無いお言葉にございます」


「そうだわ。二人とも、お怪我はなかったかしら?」


 そういえば、この二人はジラルダークにぶっ飛ばされてた被害者だった。あの魔法がどんな効果なのか、実際に喰らってみたことはないから分からないけど。痛そうだったもんね。


「ご心配には及びませぬ。この通り、鍛錬にも参加致しております」


 ナッジョさんが、元気ですとアピールするようににっこり笑った。おお、こっちも海坊主からタコになったぞ。二人とも、笑うと可愛いじゃないか。

 うんうん。意外な一面を発見できた。やっぱり悪魔は見た目によらないね。


「ふふっ、よかった」


 笑って頷きながら、ちらりと横目でベーゼアを確認する。彼女は青い顔で、唇を噛み締めてる。どっちが苦手なんだ、ベーゼア。初日のやり取りを見るに、グステルフさんが苦手なのかな。

 よし、空気読める子、私。ここは空気読んで、ベーゼアと部屋に戻ろう。長居するべきじゃないね。


「ねぇ、ベーゼア。私、ベーゼアとお茶がしたいの。早くお部屋に戻りましょう?」


 促すと、ベーゼアは弾かれたように私を見た。グステルフさんとナッジョさんは、どこか探るように私たちを窺ってる。


「お引止めしてしまい申し訳ございません、奥方様」


「いいえ。お二人とお話が出来てよかったですわ。またお話させてくださいね。さぁ、行きましょう、ベーゼア」


「は」


 行きましょう、と言ってみたものの、私の部屋はどっちだ。歩き出そうとして一歩迷ったのを察したのか、ベーゼアが先導してくれた。うん、魔神さんを覚えるのと平行して、悪魔城の間取りも覚えなきゃだな。グステルフさんとナッジョさんは跪いたまま、私が過ぎ去るのを待ってる。


 部屋まで戻ってくると、私は長く息をついた。はふぅ、疲れたー。ようやく気が抜けるよー。アイラブ平穏だよー。


 とかって気を抜いた瞬間に、ベーゼアが平伏してしまった!うぇえ!?何で!?


 ……どうやら、まだ私に安息の時間は訪れてくれないようだ。

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